2016年12月13日
【ALL-CITY】自転車愛に溢れたALL-CITYの世界観
ミネアポリスで生まれたバイクブランドALL-CITY。先日、創設者のジェフ・フレイン氏が来日し、その世界観をアピールするプレゼンテーション【ALL-CITYジャパンツアー】が行なわれた。今回2度目となり、前回2014年のツアーでは巡ることができなかった関西方面から、埼玉・秋ヶ瀬の森バイクロア6に向けて北上するという旅だ。そのツアーの一部として行なわれたプレゼンテーションの模様を中心にレポートをお届けしよう。
まず、ALL-CITYとはどのようなブランドなのだろうか。ミネアポリスのサイクリング・カルチャーが色濃く反映されている。ここはフレイン氏の思想を決定づけた場所だ。ブランド名に使われているCITYとは、まさしくミニアポリスのこと。大学卒業後にかの地へ移住し、サイクルショップでメカニックやビルダーとして働いた。すぐにトラックバイクや、シングルスピードのバイクに魅了された。そのうちに、レースを運営したり、サイクリングイベントを主催することもあったという。ヘッドバッジや一部のモデルのフレームエンドにはミネアポリスを象徴する「ヘネピン橋」がデザインされている。
ジェフ・フレイン氏。今回もジャパンツアーとしてナイトライドや、プレゼンテーション翌日にはイベント参加などを企画していた。
今回の目玉となったネイチャーボーイディスク。レイノルズの秀作スチールチューブ、853を用いている。
ジェフ・フレイン氏の自転車愛に溢れるプレゼンテーションをご紹介します。
まずはオールシティの歴史からご説明いたします。
オールシティの歴史を説明する上に不可欠なこととして、まず私自身の事を話させていただきます。
私はウィスコンシン州のとても小さな町で生まれ育ったので自転車との出会いはまずMTBでした。その後、ミネアポリスという大きな都市に引っ越すとフィックスドギアに出会いました。私の人生は変わりました。そこにショックを受け、また魅力を感じてミネアポリスの街の中でサイクルイベントをやっていこうと決めました。
そしてAlley Cat Raceをやり始めました。この時点で自転車のブランドはなかったのですが、その時のイベントの名前はALL-CITYチャンピオンシップスという名前を付けました。のちに自転車の知識を身につけて、自転車ブランドを始めようという時に、このイベントの名前をブランド名にしたのです。
ALL-CITYのブランドをスタートした唯一の理由は、私たちがそのイベントを何年もやってきた中で、自分たちが乗りたい自転車がない、だから自分たちで作ろうしたことです。まず初めにトラックバイクから始まり、シクロクロスを製作しロードバイクへ。そのあとにMTBへ。
自転車というのは単に道具ではない
自分たちが使いたいと思う良い自転車を作っていこうという旅路が、サイクリストの方やサイクルショップの人たちとの旅路でもあったと思います。まず、最初1台の自転車から始まって、その世界に入り込んでいく仲間が見えてくる。
自転車というのは単に道具ではないと思っています。自転車というのは人生であり、みなさんとのお付き合いであり、それを通して自分の世界が広がって見えてくると、人とつながっていくこと。ALL-CITYの一台一台を作ることが皆さんに対するお手紙のようなつもりで作っております。
ブランドの3つのこだわり
ALL-CITYのブランドの特徴は、3つほどあり、『コミュニティ』人とのつながり、『スピード』&『スタイル』スピード・速さとスタイル、その3つをALL-CITYの信条としております。
その中でも『コミュニティ』がもっとも大事だと思っています。
ALL-CITYにとってなぜ一番大切かというと、仲間と一緒に何かをするということが、何かが生まれ出るということ。都市におけるサイクリングを話すときにはメッセンジャーの事を語らずしては語れないと思っております。
メッセンジャーこそが都市で自転車で走るということをもっともよく知っているし、彼らからの発信で私たちは自転車を作っています。2月中旬に毎年、STUPOR BOWLというサイクリングイベントをミネアポリスで開催しております。
18年間行なっているレースですが、レースの前に雪合戦をして遊ぶなど、みんなで集まって遊ぶことがとっても大切なことです。こういうことを支えている人の中には世界でメッセンジャーとして働いている人たちもおり、ALL-CITYのつながりであり仲間なのです。私たちが良い自転車を作りたいと考えたとき、世界のあちこちで彼らに乗ってもらう。ここが良くない、ここが壊れた、となるとその商品はALL-CITYにはなれませんから。
先ほどコミュニティが一番大事だと言いました。もう一つのコミュニティの要素としてBandit Crossというシクロクロスレースを開催しています。シクロクロスはレースなのですが、レースで勝つことが大事だとは思っていない人々が出てきて、一緒になって会って楽しい時間を過ごす、そういう意味のシクロクロスレースです。それが自分たちの大事な目的です。
Bandit Crossはどんな自転車の規格も制限もなし、賞金や賞状そういったものもない。ただとにかく一緒に遊びましょうというレースです。コースはミネアポリスの街の中で、誰も来ないような見捨てられたようなところを、面白がってコースにしてみたり。
このBandit Crossのスピリットを表す、ある彼女のエピソードを聞いてください。
彼女はAll-CITYのマッチョマンを買ったんですけれども、やっぱりシクロクロスのレースに出るのは怖いなと思っていたそうです。その8月に、Bandit Crossでカジュアルに参加しやすいイベントがあり、彼女は思い切ってエントリーしてみました。レース後、彼女は自転車でこんな楽しい思いをしたのは生まれて初めてと言っていました。それ以降、Bandit Crossを多くの人に伝える活動をお手伝いしたいと言ってくれています。
Bandit Crossシクロクロスレース=コミュニティが大事だということ。レースで勝つことよりも。
”私たちの目的はとにかく外に出てみんなで一緒に楽しもうぜ”。というのが方向性です。日本も同じスピリットなので、何か一緒にやろうよということを言ってくれることをとてもうれしく思います。自分たちの一つの目的というのはできるだけたくさんの人に自転車ってこんなに面白い、さまざまな楽しさがあるよということを紹介したい。
日中がいちばん長い日(夏至)に、キャンプなど経験したことがない人を誘って一緒にキャンプしようよ、というようなことを行いました。ミネアポリスの街から出て行ったのが約100キロで出て行ったのが、逆行して帰りは電車で帰ってきた。
先ほどALL-CITYの3つのポイントの1つを『スピード』といいましたが、このスピードは速く走って1位になるというスピードではなくて、コーナーを曲がった時の躍動感、顔に風を受けるセンセーションそれがALL-CITYのスピード。わくわくする、といった意味のスピードです。
もう1つは勝つ、何かで勝つというのもエキサイトメントのスピードも魅力の1つですが、その中で自分たちのやっているものと違うのが、Alley Cat RACEですね。
これはALL-CITY というブランドが生まれる前に行っていたイベントのALL-CITYチャンピオンシップスです。みんな真剣にやっているように見えるのですが、本当に楽しむためにみんなやっていました。Alley Cat RACEというのはご存じのとおり、ポイントがあります。これはメッセンジャーの仕事と一緒ですね。ここは8時までにこれを取りにいかなくてはいけない、ここは何時までになにを配達しなくてはいけない、という用紙があって、それを自分でルートを決めてゴールまで行って、一番早く帰ってきた人が一番になる。ということでスピードを楽しむという意味です。
ALL-CITYの1つのテーマがアーバンサイクリングですね、都市の中のサイクリングというのがALL-CITYのテーマなのですが、自分が思うのは都市におけるサイクリングというのが一番女性を引き込みやすい、女性が参加しやすいサイクリングの1つの形かなと思っています。今年の8月にミネアポリスで行われた、Dear My Friendというイベントに過去最髙数の834名の女性が集まったのです。
先ほども言ったとおりALL-CITYはフィックスドギアからスタートしたのでトラックレースというのも重要な部分です。ALL-CITYは女性だけの2チームのトラックレースチームをスポンサーしていまして、1つはミネアポリスのチーム、1つはニューヨークシティのチームです。より多くの人をサイクリングに引き込むことがスポンサーの条件です。
3つ目のポイントの『スタイル』ですけれども、とにかくALL-CITYにとても大切なことです。
スタイリッシュという言葉の意味ですけれども、時代を突き抜けていく、超えていくカッコよさということ。
自分にとってのいちばんの大きな影響力の1つが、このクラシックサイクリングスです。私たちの自転車をご覧いただくと、60年代から70年代のクラシックなサイクリングスタイルっといったものが、モダンなものとクラシックスタイルが融合していることをご覧いただけると思います。
パフォーマンス系のレース系のスタイルのようなストリートスタイルも非常に重要だと思います。
ですから、フレームのディテールというのはALL-CITYのスタイルを表現する非常に重要な部分だと思っています。どのようにどんなところで表現していくかというと、オリジナルなシートクランプとかインターナルケーブルを使うこと、あとはフレームエンドやフォーククラウンの造形。そういうクラシックスタイルのサイクリングから学んだことを私たちの味付けで表現しているつもりです。
またペイントと仕上げも大事ですので時間をかけて決めています。これも先ほどと同じで、過去に影響を与えたものにインスピレーションを受けて、自分たちなりのものを作り出すという、それが私たちより先にこのサイクリングの世界に貢献した人たちへのリスペクトだと思っています。
ペイントやフレームの細部の作りに同様に、非常に重要なのがチューブそのものです。自分たちが使っているクロモリのチュービングというのはこのご覧いただいた4種ですね、コロンバスのゾナ、レイノルズの853、それに加えてA.C.Eという自分たちのオリジナルチュービングが加わっています。
この4種類のチューブの中でどれを使うかというのがその自転車の目的や用途でエンジニアが選んできました。今はまだログレディにしか使われていないA.C.Eは自分たちで作り上げたチューブです。過去この3種類のチューブを使いわけてきた中でも、ワンランクレベルが高いチューブです。
他の3種類のチューブの弱点というのは、例えばコロンバスの場合、トップチューブに使えと言われたものを使うしかないという限界があります。その限界の中で作っていると、ほかのチューブを使わざるをえない。
この限界を超えるためにカスタムチューブを作りました。これなら好きな部分で、つぶしたり薄くしたり、チューブの厚みもカスタムで作れるので、理想的な自転車をつくためのチューブを選択して作れることです。これからのモデルには、A.C.Eのチューブをより使っていきたいと思っています。
これがALL-CITYスタイルの自分たちスタイルのバイクトラッキングです。
(写真;編集部)
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得