2019年05月02日
ファンライドアーカイブス 読むトレーニング「住田道場」⑤
2007年12月号から約1年にわたって月刊ファンライドに連載された「住田道場」の第5回です。シマノレーシングに所属し、アトランタオリンピックロード日本代表にも選ばれた住田修氏によるこの連載は「モノクロ1ページ」という地味な企画ながら、トレーニングに励むサイクリストの心をがっちりつかんだ大人気連載になりました。10年以上の月日を経た今も、「強くなるために今何をすべきか」は不変のテーマだと気づかされます。
※掲載※月刊ファンライド2008年4月号 構成/浅野真則 写真/高田賢治 題字/住田修
今月の教訓
一、バイクの軽さにこだわるなら、オノレの体重を絞れ
一、ロードレースはヒルクライムやない。上りだけ強くてもロードレースには勝てない
一、平地10kmを時速50kmで走るためにトレーニングしろ
其の五、身体も機材も研ぎ澄ませ
バイクを軽くるすならオノレが軽くなれ
2008年もレースシーズンに入ったらしいけど、どや?冬の間ちゃんと練習しとったか?自分自身にはウソつけんから、よう考えてみいや! 世間では北京オリンピックや言うて盛りあっがとるけど、冬の間さぼっとったヤツは08シーズンやなくて09シーズンに向けて精進や!
ところで、自転車の技術革新のサイクルは、最近ホンマに速くなってきている。ロードバイクでは、6.8kgというUCI規定の重量リミットギリギリの超計量バイクが各社からリリースされている。ぼくらがレースをしていたころと比べたら、機材は格段に進化してるわ。でも、人間っちゅうのはホンマに欲深いもので、これだけバイクが進歩し、軽くなっても「もっと軽くしたい」って思うんやな。まぁ、それもわからんでもないわ。選手やったら、自分の使う機材にこだわるのは当然やしな。せやけど、あえて言わせてもらうわ。自転車を軽くするだけやったら意味ないで、と。
まずは自転車を軽くする前に、自分の身体づくりに専念したほうがエエよ。練習の傍ら、ジャンクフードを食べるのをやめ、栄養バランスのとれた食生活を実践すれば、体質が改善され、自転車に乗るのにふさわしい身体になるわ。そしたら結果として体重も落ちるしな。ここで、ちょっと冷静に考えてみてほしい。上りを走るときにぼくらが格闘している重力の正体は、自転車単体の重量だけでなく、ライダーの体重も含まれたものであることを。
自転車を軽くするのは、金がかかる。自転もを軽なるけど、財布まで軽量化されてしまうんや。でも、ライダーの体重を落とすのはタダ同然や。カネ使ってバイクを軽くすることを思ったら、脂肪もカネに見えてくるで。ロン毛?いらんいらん。坊主でええやん。ただ、誤解せんといてほしいのは、まだ身体のできてない成長期のころから減量せんといてほしいということや。まずは速く走るパワーを身につけんとな。身体づくりのために投資やと思ってエエもん食べとき。薄皮を一枚一枚はぐような減量はその後でエエよ。
ロードレースはヒルクライムちゃうで
かくいうぼくも、現役時代にはパーツの軽さには誰よりもこだわっとた。でも。そこらへんの単なる軽量マニアと一緒にせんといてや!このページを隅から隅まで読み込んでくれている人は、おやっと思ったかもしれんな。「現役時代スネ毛を剃らない選手として有名だった、とプロフィールにあるけど、スネ毛を剃ったほうが多少軽くなるんじゃないですか」と。
ぼくはスネ毛の20g(?)には目をつぶってた・・・・というのは冗談で、それだけ走ることに集中してたし、スネ毛を剃る時間も惜しいと思っとった。剃ったところで、毎日毎日生えてくるし・・・・。そんな時間があったら、次の練習に備えて少しでも身体を休めたほうがエエやろ?
ところで、今までバイクやライダーの軽量化について話してきたけど、ロードレースはどれだけヒルクライム能力は高くても、平地を速く走れんヤツは絶対勝てん。平地でライバルを引きちぎるスピード、つまりパワーこそ重要や。ぼくは現役時代、得意やった上りの実力アップはもちろん、平地でいかに走るかを常に考えとった。時速50kmで10km走りきることを目標に練習しとったんや。練習メニューには、個人・チームのTTを積極的に取り入れとった。現役のころ、400mトラックを250周ひらすら走り続けるトレーニングもした。自分の限界に近い速度で走り続けることで、本当に自分に足りへん部分が見えてくるからや。
筋力なのか?フォームが悪いのか?あるいはクリートのポジションが合ってないのか?LSDとかいうトレーニングも大事かもしれへんけど、もっと厳しい練習を自ら課し、極限まで自分を追い込んでほしい。そうすれば初めて、自分の弱みを客観的に把握できるし、弱点を鍛え上げることでさらに強くなれるからな。ワカモノよ、身体とバイクの軽量化だけにとらわれるな!上りだけ速くなって、強くなったと錯覚するな!ロードレースの本質を絶対に見失ったらアカンで。
住田修/すみた・おさむ(写真・プロフィールは連載時のもの)
ロードレース2×10段と称される名人。立命館大学を卒業後シマノに入社。アトランタ五輪日本代表。現役時代、その圧倒的な存在感はロードレース界随一と言われ、実力だけでなく、ハートでも魅了する熱い男。現在は仕事中心ながら、走ることはやめない生涯サイクリスト。すね毛を剃らない選手としても有名だった。
著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。