2022年12月13日
地域との共生がサイクリング文化を醸成する。多摩・“いろは坂”大掃除
東京オリンピック後のレガシーとはなにか。建造した施設を活かすだけでなく、社会的・文化的・経済的にも長期にわたり継承・享受できること。我々の大好きなサイクリングにおいてもレガシーが進められているのは肌で感じるところです。
東京都は開催地であること、また唯一の観戦ができた自転車競技、そして道路を用いたロードレースのあの素晴らしい感動を後世に残すべく自転車推進活動を活発化させています(エコロジーという観点もあるでしょう)。先日開催されたグランド・サイクル・トーキョーもレガシーイベントとして、高い評価を受けています。そうした大規模なイベントの成功は大きな後押しとはなりますが、これを全国区的に温度差なく広げていくことが重要ではないでしょうか。そして地域の皆さんの理解がないとまず実現は不可能でしょう。
最初は嫌がられる存在だった
東京は多摩地区、京王線聖蹟桜ヶ丘駅のすぐ近くにある、いろは坂というつづら折りの有名な坂道があります。ここは長編アニメ映画の舞台となった事でも知られていますが、平均勾配8%・距離は700mと走りごたえもあり地域のサイクリストのトレーニングコースとしても知られています。
この坂道を利用している「FORCE」というサイクリングチームがあります。このチームは東京都南部や多摩地区を拠点としており、いくつかのトレーニングコースとともにこのいろは坂でもトレーニングを行なっていました。坂の上は閑静な住宅街となっていて、住民の生活道路にもなっていますが、ある日、地域住民の間で「サイクリストの走行が危険だ」という議論が湧き上がったそうです。
いろは坂掃除の発起人である中山沢さんは2016年からこの活動を続けています。「そういったことが言われ始めたのをきっかけに、この掃除をはじめました。我々も公道を走ってもいいからといって、使いっぱなしにしてはいけないと。だとしたらせめて頻繁に練習コースとして走るこのいろは坂だけでも綺麗にしようと、最初は一人で始めました。次第に手伝ってくれる人が増えていきました」
最近では年末にチームや自転車愛好家を中心に集まって、清掃活動を行なっている。今回はおよそ40名の有志が集い、中にはJCLチェアマンの片山右京氏の姿も。清掃前には多摩市長も挨拶に訪れていました。
「いままでは邪魔だ!と言われてしまったり嫌がられていた存在だったのに、応援をしていただけるようになったのがよかった。ここでは掃除することで、地域の方との歩み寄りが見られましたが、全国でもこうした活動をするとこで、よりサイクリングの理解が深まるのではないかと思います」と中山さんはいいます。
この活動を始めてから、地域住民の皆さんからは次第に応援されるまでになり、チームのコミュニティからは東京パラリンピック2020金メダリストの杉浦 佳子さん も排出しています(杉浦さんもこのコースでトレーニングを積んでいたそうです)。アスリートの努力は当然必要ですが、こうした地域からの後押しもひとつの要因になるでしょう。そしてこうした地道な活動が行政を動かし、より豊かな自転車文化の醸成のステップとなりえます。
なにより掃除をしている愛好家の表情は豊かでした。楽しそうに作業をしている姿を見ていると、取材者側もうずうずとしてきます。
「参加してくれる皆さんひとり一人が主催者だと思ってやってくれています。いざ始めると綺麗にならないと満足しなくなっていくみたいで(笑)。楽しく作業してくれているようで、私としても続けてよかったなと思いますね」と中山さん。
地域によって課題や問題は様々ですが、どうしたら分かり合えるか、どこに接点があるかポイントを掴めばより理解を深められるのではないでしょうか。
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得