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2020年10月13日

ウィズ・コロナ時代の自転車イベント開催のあるべき姿とは ~ウォークライド山根理史代表に聞く~

2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、春以降、多くの自転車イベントが中止・延期となった時期を経て、今はウィズ・コロナ、新しい生活様式と言われる中、感染対策に気をつけながら徐々にイベントも開催されるようになってきた。
その中で自転車イベント開催のあるべき姿とは? また参加するサイクリストが注意すべきこととは? 
大磯クリテリウムや箱根ヒルクライムなど神奈川県を中心に自転車イベントを主催するウォークライド代表の山根理史さんに話を聞いた。

暗中模索の自粛期間からイベント再開へ

ウォークライドでは、今年3月22日に大磯クリテリウムの19~20年最終戦を開催。当時すでに国内での新型コロナ感染が広まりつつある中での判断だった。

「そのころすでに多くの大会が開催を自粛していく中で、うちはちゃんと予防対策してイベントをやりましょうと判断しました。対策の内容は、根本的に今と変わりません。
厚労省から発表されていた情報をもとに、風邪や他のウイルスの感染防止対策と同じようにうがい、手洗いを徹底し、アルコール消毒を用意しました。
飛沫拡散防止にマスク着用が有効と言われ、マスク不足が起き始めていたころでしたが、ボランティアさん各自でご用意いただきました」と山根さんは説明する。

しかし、4月8日に緊急事態宣言が発出。スポーツ、エンターテイメントなど、あらゆるイベントが自粛する期間が数カ月続いた。ウォークライドはもともと夏場のイベント数は少なかったものの、6月開催予定だった宮ケ瀬クリテリウム第1戦は会場の判断で中止、さらに7月に予定していた赤城オフロード4時間耐久も延期の末に中止に。その他にも、少なからず影響があった。

「箱根ヒルクライム(10月4日開催)は、半年前の4月1日からエントリーを開始していたのですが、直後に緊急事態宣言が出たので宣伝できず、参加人数が集まるのかなと不安がありました。中止の判断も視野に入れないといけないし、どのタイミングで判断すべきか難しかったです」

そうした暗中模索の時期を経て、自粛ムードもひと段落着いた秋からイベントを再開。これまで9月20日に宮ケ瀬クリテリウム(当初は2020年第2戦の予定だったが、この1戦のみ開催)、10月4日に箱根ヒルクライムを実施した。

「自粛している中でイベントを実施するのが世の中のためになるのか、つねに考えながらでした。その中で、自粛するのも大事だけどイベントをやることで助けられる人もいる、いろんな飲食店がつぶれ始める中で開催することで地域にちょっとでもお金が落とせればいい、と考え始めました。慎重に判断する中、イベントを行うことで人助けすることに舵を切る必要があると思ったし、もちろん地元の人たちにもご理解いただきました」

感染対策も、3月の大磯クリテからアップデートした。
公式サイトでは「マスクの着用」「こまめな手洗い」「競技中のエチケット」など感染予防の取り組みについて公開し、会場の受付ではコンビニのレジなどで見られる飛沫防止フィルムを設置した。

「また、神奈川県が運営しているLINEの感染通知システムをイベント会場で登録してもらっています。おかげで、今のところ感染者が出たなどのニュースは出ていないです」

何よりもイベントに集まったサイクリストの充実した表情が、山根さんをはじめスタッフの心の支えとなった。

「参加人数は箱根HCでは若干減りましたが、宮ケ瀬クリテは少し増えました。多くのイベントが中止になって、参加者も日ごろの成果を発揮する場所を求めていたんじゃないでしょうか。身体を動かすことは健康につながる部分もあるし、目的意識を与えるためのイベントでもあります。表情を見ると、みなさん笑顔で走っていてイベントやってよかったなと思ったし、スタッフは感謝してもらえたと言っていて、イベントを待ち望んでくれていんだと実感しました」

今年の箱根ヒルクライムは600人以上が出走。イベントを待ち望んでいたサイクリストたちが箱根ターンパイクを駆け上がった。写真提供:ウォークライド
スタッフだけでなく、参加者も競技中以外はマスクをして感染予防に努めた。写真提供:ウォークライド

求められる自己判断と新たな自転車イベントのかたち

もちろん、イベント参加に慎重な声もまだ少なくない。しかし、自転車業界や地域の盛り上げのためにも、イベント開催は必要なものだと山根さんは考える。

「まだこんな状況なのにやれるの? と、疑問を持っている人がいるのも当然です。SNSなどで他のイベントに対して批判的な声を見ると、心が痛くなりました。もちろん、自粛しなきゃという気持ちも正しいですが、イベントがなくなるのは自転車業界の損失だと思います。主催者はイベントをすることで回っているし、中止にしたら来年2度と開催できないかもしれない。地元の損失もあるので、簡単には判断できません。私たちの会社は『自転車に関わる全ての人にわくわくを提供する』を存在理由に上げています。自転車に携わる人とは、乗る人や主催者だけでなく、迎え入れる地元の人も含まれているんです」

そのうえで、サイクリストひとりひとりが自己判断する力を養うことで、イベント参加の判断や日常生活を送ることがウィズ・コロナ時代に求められるという。

「参加者も、ちゃんと予防してイベントにどんどん出て行こうと判断する方もいれば、自身の判断で自粛を継続すべきと判断する方、または会社に止められている方も中にはいます。どちらも正しいし、それぞれを尊重して認め合ったうえで、みなさんが自分で予防して自分で判断できるようにならないと、ウィズ・コロナ時代を乗り切れないんじゃないかと思います」

「今はイベント会場に限らず、街中も人が多くなってきています。どういう予防をすれば外出できるか、マスクはなぜつけているのか、ひとつひとつ自己判断、自己予防しながら、飲食店や旅行に行くといった日ごろの生活を取り戻す一連の流れの中に、イベントもあるのかなと思います」

またこのコロナ禍は、新たな自転車イベントのかたち、自転車の楽しみ方を考える契機にもなった。山根さんも頭の中でいろいろなヒントをインプットして、発想を広げている。

「自粛期間は、エベレスティング(ひとつの峠を往復した獲得標高で、エベレストと同じ8,848mに到達するまでのタイムを競うチャレンジ)をする人、自らフジイチ(富士山一周)、イズイチ(伊豆半島一周)、関西ではビワイチ(琵琶湖一周)、アワイチ(淡路島一周)に挑戦する人がいたりと、イベントに出る以外の遊びをみなさん工夫してやられていました」

「今までのイベントはヒルクライム系、センチュリーライドやグランフォンドなどのサイクリング系、クリテリウムやロードレースなどのレース系と遊び方が決まっていた。それだけだとおもしろくないし、体力がなくなったら自転車に乗らなくなるかもしれない。もっといろんな遊び方があっていいし、競争しなくてもいいと提案したい。今までの概念にあるイベントだけじゃない遊び方を作っていかなきゃと思ったし、それを作るチャンスだと思いました」


山根理史さん
株式会社ウォークライド代表取締役

1997年~2012年に自転車競技選手として活躍。国体12回出場、入賞2回のほか、ロード競技では国内最高峰カテゴリー(現Jproツアー)で5位入賞や、フランスでの活動経験もある。2012年8月に湘南ベルマーレサイクルロードチームを退団し、社会性の強い自転車スポーツの安全な普及を考え、競技活動を支えてくれた仲間とともにウォークライド社を立ち上げる。

ウォークライドは、大磯クリテリウム2020-21シーズンを11月~3月に全5戦で開催予定。

関連URL:https://walkride.jp/
写真提供:ウォークライド

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