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2020年04月22日

「この危機にさらに強くなる」NTTプロサイクリング入部正太朗の終わりなき挑戦(前半)

昨年、悲願の全日本チャンピオンに輝き、今年からUCIワールドチームのNTTプロサイクリングに移籍した入部正太朗。しかし、本格的なヨーロッパでのレースデビューを前に、世界的な新型コロナウィルス感染拡大の影響で日本への帰国を余儀なくされた。新たな挑戦を前に出鼻をくじかれることになったが、入部は来るべきレース再開を見据えて、自らのレベルアップに取り組んでいる。前半は昨年12月のチーム合流から、今季ここまで唯一のレースとなった2月のツール・ド・ランカウィ出場までを振り返る。

チームキャンプ合流 力の差をモチベーションに

昨年11月に、電撃発表された入部のNTTプロサイクリング(旧チーム・ディメンションデータ)への移籍。チームとしての最初の活動は、12月中旬にスペイン南東部のバレンシア州オリーバでのチームキャンプだった。トレーニングの内容は乗り込み中心で、10日間強の日程で約1200kmを走った。

「奇抜なことをやったというより、集中的にしっかり基礎からトレーニングをやったというイメージです」とワールドチームだからといって、特別な練習ではなかったという入部の印象だ。
入部自身は、11月前半までツール・ド・おきなわを戦っていたので比較的体は動けていたが、「他の選手は休み明けだったけど、同じパワーで走っていてもとんでもないぐらい余裕に見えました」と、チームメイトたちと力の差を感じることもあった。

特に昨年アワーレコードの世界記録を更新したヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)のパワーには圧倒されたという。

「スペインは2列並走できるので、ヴィクトルと先頭で並ぶことがありました。彼はTTスペシャリストなんで、FTPの能力が高い。僕がめっちゃきついときに表情を見ても、余裕そうなんですよ。引き終わって一緒に後ろに下がった時に、ジェスチャーで『やべー、君、強すぎるよ』とアピールしたら、笑って『これから練習しようぜ』と言ってくれる。そういうやりとりも楽しかったです」

しかし、現状でのチームメイトとの力量差も、入部はモチベーションに変換している。

「トータル的に力の差、特に有酸素能力の差を痛感しました。このチームに入ってチャレンジできるからこそ、チームに貢献するためにより一層気を引き締めてトレーニングして力を着けていかなきゃいけないなと思いました」

暖かく歓迎してくれたチームメイト

12月のキャンプは移籍選手、新人選手を交えての顔合わせの場でもあったが、選手たちは入部を暖かく迎えてくれた。チームの宿舎がゴルフリゾートだったので、打ちっぱなし練習場を使って新加入選手によるゲーム大会が行われ、入部が優勝したという。

「みんな優しいですよ。誰も威張ってる、ツンツンしてる感じがなくて、アドバイスもしてくれるし、楽しくコミュニケーションとれています」

宿舎で同部屋になったのは34歳のベテラン、ダニーロ・ウィス(スイス)だった。

「ワールドツアーの経験も長くて、知識も豊富。優しくて、余裕がある感じに見えました。僕がわからないチームの流れなど、いろんなことを嫌な顔せずに全部教えてくれます。例えば抜き打ちドーピング検査のADAMS(居場所情報提出システム)も、僕は使ったことがなかったので、彼がやり方を教えてくれました」

このキャンプ期間中は、首脳陣と2020年シーズンのレーススケジュールについても話し合った。

「暫定ですけど、年間の予定は決めてもらいました。前半戦の6月のレースまではコースマップなどの資料ももらいました。7月以降は、変更があるかもしれないと口頭での説明だけです」
参加予定のレースはUCIプロシリーズ(旧HC)、1クラスが中心で、最高峰のUCIワールドツアーはその時点で予定には組み込まれなかった。

「チームはその選手に合ったスケジュール考えていて、僕のステップアップの計画も考えてくれました。今の僕のレベルでは、ワールドツアーのステージレースに出ても実力的に他の選手に迷惑かかる。チームの中で29人中29番目の強さだと思ってますから。だから、短めのステージレースやワンデーレースで経験を積むことを考えてくれたと思います」

チームメイトのカルロス・バルベロ(スペイン)と。多国籍の選手が集まるNTTプロサイクリングはアットホームな雰囲気で、入部もすぐに打ち解けた

スペインでの2度目キャンプと沖縄自主トレ

年末年始はいったん帰国し、1月中旬、再びスペイン・バレンシア州のデニアで2度目のチームキャンプに参加した。

「今回も10日間強の日程で、気候もよくて1400kmを走り込みました。内容的には12月のキャンプにプラスアルファしてボリュームや距離、強度を上げた感じで、より本格化しました」

1月下旬に日本に戻り、すぐさま沖縄での自主トレに向かった。

「チームのコーチに相談して決めました。スペインは暖かい日で20℃越えていて、僕の初戦が(ツール・ド・)ランカウィなので、寒い大阪で練習してマレーシアに入るのは調整で心配な部分ある。だから、大阪の寒さに慣れる前に沖縄に行きました」

沖縄ではシマノレーシング時代の先輩である畑中勇介をはじめ、横塚浩平、武山晃輔らチーム右京のメンバーと合流した。

「畑中さんが僕の日程に合わせて入ってくれました。帰国してすぐ行ったので時差ボケが残っていて、4、5日間は感触の悪い日が続きました。そこもチームのコーチと相談して、練習のボリューム減らすなど調整しながらやりました。1月末には体調も戻って、全力走のテストもできました」

1月後半は沖縄で自主トレ。入部が駆るNTTプロサイクリングのバイクはBMC

ツール・ド・ランカウィ アシストとして全力で走る

入部は、2020年シーズン初戦となる「ツール・ド・ランカウィ(2月7~14日、UCIプロシリーズ)」に向けてマレーシアに向かった。今年は前哨戦として25周年記念クリテリウム、また最終日の後に1クラスのワンデーレース「マレーシアン・インターナショナル・クラシック」が開催され、実質的に計10日のレースとなった。

ツール・ド・ランカウィ出場のためマレーシア入りした入部らNTTプロサイクリングの選手たち

昨年、入部はナショナルチームの一員として初出場し、ステージ優勝直前まで逃げるなど、見せ場を作った。しかし、チームの新人として臨む今年の役割はアシスト。スプリンターのマックス・ヴァルシャイド(ドイツ)のステージ優勝に貢献することだ。

「ランカウィは去年走ってたので、ある程度イメージはついていて、そこに不安はありませんでした。ただ、自分の役割をこなせるかという不安と、このチームと一緒に走れることがワクワクで楽しみな、2つの気持ちで入りました。役割としてはスプリントステージで集団のけん引に入ることがほとんど、ボトルを運んだり、(スプリントの)位置取りも可能な限りやっていました」

ヴァルシャイドは前哨戦のクリテリウムを制し、さらに第3ステージと第8ステージで2勝を獲得。他のステージでも上位フィニッシュを重ね、ポイント賞ジャージも手に入れた。

前哨戦の25周年記念クリテリウムは、チームメイトのマックス・ヴァルシャイドが優勝。シマノレーシングではエースとして走った入部も、アシストとして力を尽くした

入部自身は、総合最下位でレースを終えた。アシストとして全力を出し切った証とも言えるが、総合上位を狙っていたルイス・メインチェス(南アフリカ)、ディラン・サンダーランド(オーストラリア)らに余計な仕事をさせたと悔いている。

「毎日けん引して、オールアウトして千切れてたので、僕の分もメインチェスやサンダーランドがけん引に入ってくれました。僕がもっと力あれば、総合を狙う選手の負担が減っただろうし、まだまだ力不足かなと感じます」

しかし、レースを通じてチームメイトとの絆も深まった。外国人ばかりのチームでの初めてのレースで、英語でのコミュニケーションに苦労したが、そこもチームメイトがサポートしてくれた。

「正直、英語の無線をちゃんと聞き取れるか、足を引っ張らないか不安はありました。日々、学ぶことが多い中で、チームメイトが助けてくれることがたくさんありました。補給を取りに行くときも、チームリーダーを任されていたマックスが『今からショータローが補給取りに行くから』と間に入って伝えてくれました。ミーティングでわからなかったところがあると同部屋のサンダーランドが丁寧に教えてくれたり、すごく親切にしてくれましたね」

「ミーティングのときから、ビッグファミリー、ワンチームという言葉がよく出ていて、仲間への思いやりはみんな意識していると思います。恵まれていて、いいチームに入れたなと思います」

第6ステージでは、同い年のライバル、中根英登(NIPPOデルコ・ワンプロヴァンス)が逃げ切りでステージ優勝を挙げた。

「もちろん刺激になります。自分も同じステージを走っているわけで、勝ったと聞いた時には率直にすごいなと思いました。自分もいつかまたステージ優勝してみたい気持ちもあるし、選手として悔しさももちろんある。でも、おめでとうという気持ちが大きくて、悔しさはわずか。それよりも今はチームメイトの勝利に貢献したい気持ちが一番です」

レベルの高いチームでの初レースを終えたことで、自らの課題もより明らかになった。

「やりきった、仕事できたという満足感はなかったです。貢献できたレベルを考えると、僕にはまだまだやるべきことが確実にたくさんあった。でも、それは今後に向けてポジティブな反省です。チームメイトはいつもありがとうと言ってくれるけど、逆にチームメイトのためにもっと強くなりたいという気持ちがみなぎってきます。去年までの活動でみんなのおかげでこのチームに入れたということを再認識して、このチームでこれだけすばらしい仲間に恵まれているからこそ、自分のやるべきこと、学ぶべきことをしっかり学んで、貢献したい気持ちが日々強まっています」

モチベーションも新たに、入部はヨーロッパでの本格的なシーズン突入に備えイタリアに渡る。しかし、新型コロナウィルスはそのイタリアで猛威を振るい始め、自転車ロードレースの世界にも大きな影を落としていく。
(後半に続く)

NTTプロサイクリングの「Be Moved」キャンペーン

新型コロナウィルス感染拡大で世界中の人々が困難な時期を過ごす中、NTTプロサイクリングは「Be Moved」キャンペーンを展開している。「Be Moved」には「心を動かされる、感動する」の意味もあり、「(ロックダウンや自粛で)動けない時でも、感動しよう」と、人々に心を開いてほしいというメッセージが込められている。
また、チームは以前から「クベカ」と呼ばれるアフリカで苦しい生活を送っている人々に自転車を贈る活動を行っているが、現在はアフリカの医療事業者の移動手段や輸送業者の活用にも重点を置いている。上のキャンペーン動画には、これまでのチームの活躍やアフリカでの「クベカ」キャンペーンの模様が収められている。

プロフィール
入部正太朗選手(Iribe Shotaro)
1989年8月1日生まれ、奈良県出身。早稲田大学から2012年シマノレーシングに加入。チームの主力としてツアー・オブ・タイランドでステージ1勝、ツール・ド・熊野でステージ2勝、Jプロツアーでも複数の勝利を挙げる。2019年6月の全日本選手権ロードレースで優勝、11月にNTTプロサイクリングへの移籍を発表した

取材は4月半ばにスカイプで行った(画像が悪くてゴメンナサイ)

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