記事ARTICLE

2025年10月21日

【2025宇都宮ジャパンカップ】引退発表した入部正太朗「チャレンジしてきたことに後悔はない」

国内最高峰の「SUBARU LAYBACK presents 2025宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース」が、10月17~19日、栃木県宇都宮市で開催。大会前、今季限りでの引退を発表した元全日本王者の入部正太朗(シマノレーシング)にこれまでのキャリアを振り返ってもらい、若手選手に伝えたいことを語ってもらった。

いつも以上に声援をもらえた

入部は、2012年にシマノレーシングに加入。積極的にアタックするスタイルで勝利をつかみ、人気も獲得していった。2019年には悲願の全日本選手権ロードレースのタイトルを獲得。2020年は世界最高峰UCIワールドチームのNTTプロサイクリングに移籍して海外挑戦のチャンスをつかむが、コロナ禍と自身のケガも重なり、翌年は国内復帰。2021年から弱虫ペダルサイクリングチームで走り、2023年には古巣シマノレーシングへ。今季も先日の大分アーバンクラシックで3位表彰台を獲得するなど、36歳のベテランながら存在感を発揮していた。

しかし、ジャパンカップ開幕前の16日に今季限りでの引退を発表。今大会とツール・ド・おきなわ(11月9日)で14年間の選手生活に終止符を打つこととなった。

キャリア最後となったジャパンカップは、家族も応援に駆け付け、選手たちによるセレモニーも行われるなど、少し特別な雰囲気となった。レースがスタートすると、序盤から持ち味の積極的な走りを試みる。しかし、ワールドチーム勢がハイペースでレースを動かしていく中、徐々に遅れ出し、レース後半に自転車を降りた。

ヨーロッパのレースでお馴染みとなった引退セレモニーがジャパンカップに出現! 入部らも選手たちの作る花道をくぐった
同じく今季限りで引退するチームメイト冨尾大地(右)とともに、ロードレースのスタートは最前列で並んだ

「スタート前もみんな盛り上げてくれたり、声援もらったりとか、特別な気分で走りました。今日はチームの中では中心選手として任せてもらっていた。(スタートは)前に並ばさせてもらったんで、展開を見ていい動きがあったら乗ろうかなと思ったんですけど、全然対応できず単純にきつくて力不足で沈んでいったって感じですね。みんな位置取りしてくれたけど結果的には全然ダメで、チームに何も持って帰れなくて申し訳ないっていう気持ちです。(引退発表後のレースで)気持ちは変わんないです。ただいつも以上に声援もらえるのは嬉しかった」

声援を受けながら古賀志林道を駆け上る

引き際を考えていた

引退については、数年前から考えていたと語る。

「何年か前からどこで引き際かなっていうのは考えていた。色々人によって性格も違うので、体が動かなくなるまでやりたいというタイプの選手もいれば、僕はどちらかというと、まだできるけどもったいないなと思われるぐらいで引きたいなっていう気持ちがあった。それだったらもう今年かなって」

「年初のチームとの契約の時点でも今年で引退という話が出てたんですけど、ただ決定してるわけじゃなくて、例えば続けたければ移籍という選択肢もあったかもしれない。でも、自分の中では移籍交渉しようという気はあんまりなくて、シマノで最後終えられるのは最高やなという気持ちだった。今年1年のつもりでやってきて、ようやくみなさんに発表できたっていうとこですね」

印象に残っているレースや、これまで在籍したチームへの思いも聞いた。

「僕の中ではツール・ド・熊野の第2ステージ(2018年)を勝ったとき。すべてが思い通りに行き過ぎたレースでした。思い返すと色々あって、このチームで全日本も獲ることもできましたし、1番の思い出かもしれませんね」

2019年全日本選手権、悪天候の富士スピードウェイで新城幸也との対決を制し、タイトルを手に入れた

「NTTでもすごくいいものを見れたり、弱虫ペダルでも若手選手との接し方とか、ベテランとしての立ち回り方をすごく勉強できた。それをシマノに戻ってきて活かそうと思って動くことも意識的にはできたんで、全部繋がってここまで来れたなって。たくさんの人に支えてもらって、本当に幸せな競技人生です」

奈良県出身で関西人らしい飄々としたユーモアとサービス精神にあふれるキャラクターも、入部がファンに愛された一面でもあった。

「キャラ的にちょっと変やと思うんで、それを貫いてるんすけど。昨日(クリテリウム後)もインタビューしてもらうときも、他はみんな活躍したかっこいい選手たちで、僕はどちらかというとそういうタイプじゃないって自分では思ってるんで、ちょっとトークで盛り上げられたらなとか思っちゃう。賛否あるかもしれないですけども、最後までそれを貫こうかなとは思ってます(笑)」

リテリウム前のパレードラン、ファンの声援に応える
最後のジャパンカップクリテリウム、ハイスピードの集団に食らいつく
クリテリウムのフィニッシュ後、新城幸也(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)、留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)とともに

同じ時期に引退を発表したライバルであり仲間、小野寺玲(Astemo宇都宮ブリッツェン)への思いも語った

「小野寺も戦友で、引退発表したブログとかも読ませてもらいました。病気になって治らなくて悔しいって気持ちを赤裸々に書いてて、逆に言うとそれが言える素直さも、あいつの持ってる強さなんやなと思って。小野寺がいい方向に行ってくれればと思っていたし、自分はまだまだできたという思いを知ると、僕は恵まれてると思えた部分もありました」

迷ったらチャレンジ!

入部がこれからの日本の自転車界を盛り上げ、世界へ挑む若手選手たちへ伝えたいことは?

「僕も恐れずチャレンジしてきて、やっぱりチャレンジしたことに後悔ってほとんどないんですよ。逆にあの時チャレンジしとけばよかった、レース中のあのアタックに反応すればよかったっていう後悔はあるんで、迷ったら行け、迷ったらチャレンジした方がいいって思います。その細かい部分の積み重ねで、何かが変わってくると思います」

ロードレース序盤は、チームメイトとともに攻撃にトライした

チームで戦うロードレースだからこそ、コミュニケーションの難しさ、大切さも痛感してきた。

「あとは伝えたいというより、僕が後輩から学ぶことが多かったですね。昔はオラオラしてて、多分嫌な先輩で、今もそうかもわかんないすけど、そういう部分で改めて自分を見直したら、別に自分が引っ張ってるとかそんな意識はなくて、後輩からいっぱい学んでいて、後輩が寄り添ってくれるから自分も生きてっていうところは、弱虫ペダル時代に特に勉強になったんですよね」

「僕と同じ状況で、コミュニケーションがうまくいかなくて後輩といい関係になれなかったりとかあったら、後輩を大切にっていうことを伝えたいですね。自戒も込めてですけど、僕の後輩たちに、さらに後輩たちを大切にしてくださいって思います」

「今後はどうなるかわかんないですけど、またこの経験を活かせていけたらなって思っています」

「後輩たちに支えられた」と感謝する入部

関連記事

記事の文字サイズを変更する

記事をシェアする