2019年04月03日
廣瀬佳正JBCFゼネラルマネージャーに聞く 「2021年新リーグ設立の目的」
今年、全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)に新設されたGM(ゼネラルマネージャー)に就任した廣瀬佳正氏はシマノレーシングなど有力チームの主力選手として国内外のレースで活躍した後、自転車では日本初の「地域密着型プロロードレースチーム」宇都宮ブリッツェンの立ち上げに関わった人物だ。その廣瀬氏が手塩に掛けて育てたブリッツェンを辞し、JBCFのGMに就任した。取組む仕事は「2021年の新リーグ設立」。その目的は何か、何が廣瀬氏を突き動かしているのか。そこには自転車への限りない愛情と、冷静な現状分析があった。
写真提供/JBCF
JBCFのGMとしてチームやメディア対応など多忙な日々を送っている
FR GMとロードレースの出会いを教えてください
廣瀬 高校1年の時、ジャパンカップを見たことです。信じられないスピード、お客さんも多い。「ここで走りたい!」と思いました。それまで自転車は競輪しか知らなかったんですが、レースが終わってすぐ「ロードレース選手になる」と決めました。
FR その後はブリヂストンやシマノなど有力チームで活躍されました
廣瀬 はい、しかし自分が子供の頃に思い描いていたプロスポーツの世界ではありませんでした。最近はお蔭様で観戦者の数も増えましたが、20年ほど前の国内レース会場は関係者がほとんどで、観戦者は数える程度でした。選手の契約金も決して高額ではない。「自分の大好きなロードレース」が社会に受け容れられない悔しさを感じながら走っていました。
FR その思いが宇都宮ブリッツェンの立ち上げにつながっていったのでしょうか?
廣瀬 シマノ時代にヨーロッパで走らせてもらって、自分の限界が見えて、選手としては一流になれないとはっきりわかりました。まったく敵わない。向こうはサイクルロードレースの社会的背景や価値が日本とはまったく違うんです。選手としては限界でしたが、むしろ悔しさからロードレースへの思いは消えなかった。そこで(出身地でもある)「宇都宮ならできるんじゃないか」と思って、ここまで走り続けてきた感じです。
現在プロカテゴリーには企業チーム、ショップチーム、地域クラブなどが混在している
FR なぜ宇都宮、なぜ地域クラブだったのでしょうか?
廣瀬 今から考えると「勢い」だったのかな(笑)。まず、宇都宮にはジャパンカップがあって、走る環境もいい。地域そのものがフィールドで、誰でも身近な所から自転車を始めることができます。クラブが成立する「地域密着」の要素は揃っていると。一方で冷静に考えるとロードレースってチケット販売できないし、そもそも人口の少ないマイナー競技です。普通にスポーツビジネスを考えるとまず参入しない。逆に「まだ誰もやっていないこと」が強みになるんじゃないかと思いました。
FR 実業団チーム主流の国内にあって、地域クラブは今でこそ全国に広がりつつありますが、当時は理解を得にくかったのではないですか?
廣瀬 ほとんどの方から「無理だ」と言われました。でも「そりゃそうだろうな」とも思っていました。「前例の無いこと」って否定したくなるし、これまでの組織にいる人はなおさらだと思います。イメージが共有できない状況では否定されて当たり前。今の「新リーグ構想」に対する意見をうかがっていても、当時と同じだな、と思うことはありますね。
FR その新リーグですが、設立目的は「自転車のメジャー化」ですか?
廣瀬 そのための挑戦ですね。もちろん挑戦のままで終わらせることはできません。
FR 会見などでGMご自身から「ツール・ド・フランス出場」という言葉が出てきます
廣瀬 「ツール・ド・フランス」という言葉を使う怖さはよくわかっています。簡単ではないですよ。軽い気持ちでツールに出るなんて言えません。覚悟を決めて発言しています。ツールに向けては無数のハシゴがあるんです。それを確実に上って行くという覚悟です。
FR 具体的なロードマップをお持ちでいらっしゃるのでしょうか?
廣瀬 皆さんのイメージは「日本人選手を強化してツールに出場する」だと思います。もちろんそれはやります。でも、僕はツールで勝てる日本人はすで存在していると思っています。ただし、(現状は)自転車競技ではなく別の競技を選択してます。そこで地域クラブ、新リーグなのです。
FR ツールにつながるハシゴの一段目は育成、普及にあると?
廣瀬 はい、急がば回れです。新リーグに参加するプロチームは地域密着型で、ジュニア発掘・育成を目的とした下部育成チームも保有します。ツールで活躍できるだけのフィジカルを持つ自転車少年を見つけて、育てること。でも、その選手がプロを目ざしても、中間的な受け皿がなければ、その先へ継続して進む事はできない。雇用を含めた環境も作っていかなくてはならない。現実的なことを一つひとつ踏まえていって、その先に「夢」があると思います。
今シーズンは例年に増して海外勢の活躍が目立つ。国内レースのレベルは確実に向上している
FR 自転車は他のスポーツと比べて部活動など学校教育としての広がりが少ないことが制限になりませんか?
廣瀬 だからこそ地域クラブなんです。指導者、機材、安全面。学校では学べないことでもクラブの中なら学んで実践できます。プロリーグというと華やかな側面に目がいきがちですが、真の目的は地域にしっかり自転車を普及させることです。その集大成として新リーグがあり、最終的にツール・ド・フランスへつながっていくと思っています。
FR 新リーグに参加するプロチームの規定はどのようなものになりそうですか?
廣瀬 運営形態、法人化、雇用人員など細かく制定していく考えです。これも単に組織化を急ぐだけではなく、組織には「具体的であること」、「明確であること」といった要素がないと継続した自転車普及につながらない、と考えているからです。
FR 企業チームにはどのようなアプローチをしていくのでしょうか?
廣瀬 これからお話をしていく段階です。バスケットボールがプロリーグによって企業チームから地域チームに変わりつつあるように、自転車にもそうすべきという機運はあります。
FR 卓球やバスケットなどさまざまなスポーツがプロ化しています。参考にしている競技はありますか?
廣瀬 BCリーグ(プロ野球の独立リーグ)ですね。まずNPBへのステップアップという存在意義が明確であること、サラリーの上限なども規定されています。現在のJプロツアーと似た要素を感じて見ています。太田新会長が進めるフェンシングの改革にも注目していますね。旧体制とはまったく違うロジックで組織や競技を改革していますから。
FR 地域密着型であるところも共通点です
廣瀬 ローカル(地方)で展開することがとても重要です。レース会場の多くはローカルですし、これからは普及についても自転車による街づくりにしても、自治体と連携した話になっていくはずです。そこに地域クラブの役割を創りたいんです。
FR KPI(主な数値目標)を教えてください
廣瀬 現在の50レースを100レースに、登録者を1万人にすることを連盟の目標としていますが、そのためにはいきなりJBCF登録レースではハードルが高すぎます。ホビーレースと一緒に運営するなど今までにない取り組みを進めていきたいと思っています。
◆新リーグ構想とは?
JBCFが発表した2021年からの新リーグ構想は以下の通り。
・プロフェッショナルカテゴリー(現在のJプロツアーに相当)
1部リーグから3部リーグまでのプロクラブ(原則)が参加。各クラブは本拠地(ホームタウン)と一体となったクラブづくりを行う。
・エリートカテゴリー(現在のJエリートツアー/Jフェミニンツアー/Jユースツアーに相当)
4部リーグから8部リーグまでで構成。競技志向のサイクリストが参加するカテゴリー。
・オープンカテゴリー(現在のJチャレンジツアーに相当)
昇降格なしのカテゴリー。レース参加のステップとしての位置づけ。
廣瀬佳正(ひろせ・よしまさ)
1977年生まれ。栃木県宇都宮市出身。作新学院高校を卒業後、チームブリヂストン・アンカー、スキル・シマノに所属し、国内外のレースで活躍。2007年に「宇都宮ブリッツェン」の設立に参加。自ら企画書を作成し、営業やグッズ制作などを担当する一方で選手としてもレースに出場し2009年のジャパンカップでは山岳賞を獲得した。2012年の引退後はブリッツェンのGMを経て、本年からJBCFのGMに就任。2021年新リーグへ向けて陣頭指揮を執っている。
◆JBCFサイクルロードレース専用サイト
https://jbcfroad.jp/
著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。