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2024年10月23日

資格を持ったプロが活躍中! サイクリングガイドってどんな人たち? ~田代恭崇さんに訊く~

イベントやサイクリングツアーなどで参加者をサポートするサイクリングガイド。現在は、検定試験に合格して資格を取得したプロの仕事として確立されている。では、具体的にどういう仕事をしていて、どういう人が働いているのか? アテネ五輪・自転車ロード代表で現在はー般社団法人日本サイクリングガイド協会理事を務める田代恭崇さんに伺った。

登山するときの山岳ガイド』のような役割

先日の八ヶ岳高原ロングライドでもガイドライダーの統括役として、イベントをサポートした田代さん。自らガイドとして働きながら、ガイドを養成する講師としても活動している。

田代さんが理事を務めるー般社団法人日本サイクリングガイド協会(JCGA)は2015年に設立。まだ歴史は浅いので馴染みのない人も多いだろうが、プロのサイクリングガイドを育成する講習会・検定会を行っている。

「実際にはサイクリングガイドの資格があるなしにかかわらず、ガイドの仕事をすることは可能です。しかし協会があって、その協会のカリキュラムを受講して検定試験に合格し、協会が会員証を発行していると信用が生まれますよね。今はJCGAのカリキュラム自体がしっかりした内容のものだとかなり浸透してきているので、地方自治体や行政が行う自転車イベントでの依頼も増えています」

「例えば登山のツアーに行くなら、山岳ガイドの資格を持っている人に連れて行ってもらった方がもちろんいいです。サイクリングガイドはそれに近い存在。登山もサイクリングも個人でも仲間同士でもできるけど、プロのガイドに依頼すれば、対価として技術やサービスを得られるんです」

中央が田代さん。黄色いJCGAオフィシャルポロジャージが認定登録ガイドのユニフォーム

JCGAのガイドは、その技量などによって7クラスに分かれている(下記表参照)。

「JCGA公認/JCA認定(公益財団法人日本サイクリング協会)」資格と「JCGA公認」資格を有するベーシック以上 、アシスタントやトレーニーと呼ばれる下位クラスが約50人で、今はトータル200人ぐらいのガイドが登録をしています」

呼称英文表記認定要件会員種別
マスター /JCA認定MasterJCGAの基幹メンバーとしてサイクリングガイドの普及や育成に寄与するサイクリング関連事業者であり、JCAサイクリングガイド普及員。 JCGA講習会の主催および主任検定員としてJCGA検定会を実施可能。正/一般
エリート /JCA認定EliteJCGAの理念を自らのサイクリング関連事業で体現する事業者(兼業可)であり、JCAサイクリングガイド認定資格を有する者。 JCGA講習会の主催およびJCGA検定会での検定員を務めることができる。一般
リーダー /JCA認定Leader客数10名以上のガイド実務における全体管理者として必要十分なサイクリング技術・知識・身体能力を有する、実務実績20日以上の上級サイクリングガイド(兼業可)であり、JCAサイクリングガイド認定資格を有する者。 JCGA検定会での補助検定員を務めることができる。一般
レギュラー /JCA認定Regular客数10名以下のガイド実務に必要なサイクリング技術・知識・身体能力を有する、実務実績5日以上のサイクリングガイド(兼業可)であり、JCAサイクリングガイド認定資格を有する者。一般
ベーシックBasicJCGAサイクリングガイド検定講習またはJCAサイクリングガイド検定講習を満了し、サイクリングガイドに必要なサイクリング技術・知識・身体能力を一定以上有すると認定された上で、引き続き自ら研鑽を続ける意志のある者。一般
アシスタントAssistantJCGA講習4日以上(または同等の講習)を修了し、サイクリングガイドに必要なサイクリング技術・知識・身体能力を理解した上で、引き続き自ら研鑽を続ける意志のある者。
※規定要件を充す者については一般会員登録も可能。
一般/賛助
トレーニーTraineeJCGA講習を1日以上受講し、引き続きガイドの技術や経験を積み重ねる意思のある者。賛助
※JCGAホームページより転載

ガイドを必要とするのは、スポーツ自転車初心者

それでは、サイクリングガイドはどのようなところで仕事をしているのか?

「サイクルツーリズムと言われる自転車を使った地域の観光誘致の中で、私も含め自身で会社を経営してサイクリングツアーを企画運営している人がいます。他には、地方自治体・行政が企画するサイクリングイベント、サイクリングツアーのガイド役です。また八ヶ岳高原ロングライドのようなイベントのサポートライダーのまとめ役を、JCGAのガイドが務めるケースも多いです」

広域サイクリングイベントの八ヶ岳高原ロングライドでは、田代さんらがサポートライダーのまとめ役を務めた

それでは、どういった人をガイドするのか? 客層は普段からロードバイクなどに乗り慣れているサイクリストばかりではないという。

「お客さんはどちらかというと初心者が多いですね。スポーツ自転車に乗ることが好きな人たちのことを私たちは『コアユーザー』と呼んでいるんですが、その人たちは比較的自分でトラブル対応などできる人が多いです。一方、自転車も好きだけど観光的要素が強い人、観光の足として自転車を使う人たちを『ライトユーザー』と呼んでいますが、この人たちの方がガイドを必要としています」

「スポーツ自転車にあまり乗ったことない人たちをガイドするときは、自転車の乗り方も教えないといけないし、レンタサイクルを使う場合は自転車が安全なのかもチェックしないといけません。しかも、不慣れな人たちをガイドとして引率するのはすごく難しいこと。そういう点でガイドの需要も増えています」

近年の傾向として海外からの観光客、いわゆるインバウンド需要も増えている。

「ツアー会社などによっても違いはありますが、例えば北海道などの地方はインバウンドがほとんどと聞いています。その中にはコアユーザーとされる自転車好きの人もいるので、サポートカーを用意したりと、ガイドのやり方を工夫しています」

自転車好きの副業として注目

JCGAの資格を取得して、サイクリングガイドとして働いているのはどんな人たちか?

「自転車が好きなベテランのサイクリスト、年齢的には40~60代ぐらいが多いですね。特に50代半ば~60歳ぐらいの方で検定を受ける人たちが増えています。本業としての自分の仕事が安定して子離れもして、自分の時間も少しでき、副業で好きな自転車でいろんなことをやってみたいという人たちが多いです。自転車のイベントは週末が多いので、空いた時間の副業としてサイクリングガイドをやってみたい人が多くなっていますね」

田代さんのように元選手で高い走行技術がなければガイドは務まらないのでは? というイメージはあるが、ガイドの現場では走力以外の能力も重要視されるという。

「もともと協会ができたころは、自転車選手のセカンドキャリアとして考えられていた部分もあったんですけども、現在、元選手のガイドは全体の5%もいないと思いますね。サイクリングガイドが本業として成立させるのが、まだ難しい職業であることが理由のひとつです」

「加えて、ガイドはもちろん自転車の専門的な技術が必要なのですが、先ほども述べたようにガイドを必要とするのは初心者が多い。したがって、お客さんとのコミュニケーション能力が高い人たちが一番重宝されます」

サイクリングガイドにはコミュニケーション能力も必要

「私がガイドをお願いする人たちは、ほとんど元選手じゃないですね。専門的な技術があり、なおかつ人当たりがよい人が、ガイドの仕事に向いています。プラスアルファ、自分が好きな自転車で色んな人に自転車を楽しんでほしいという気持ちを持っている人がいいですね。元選手でも引退後に企業などに就職して社会人経験を積んでから、ガイドになる人が多いです」

田代さんたちがサイクリングガイドの仕事をするうえで、大事にしていることは?

「サイクリングガイドの仕事で重要なことは、JCGAのホームページにも書いてありますが、『安全・安心・楽しさ』の3つを提供することです。『楽しさ』とは1人でサイクリングするより、ガイドと一緒にサイクリングした方が楽しいと思ってもらうことです
サイクリングガイドは、自分たちも自転車が好きで楽しむことは当たり前なんですが、あくまでお客さんが主役だと第一に考えられることが重要です。どうしても自転車が好きな人たちは自分なりの自転車の感性で動いてしまう。そうではなく、参加されるお客さんがどうやったら楽しめるかをしっかり意識して動くことが、一番求められます」

JCGAサイクリングガイドになるための講習会・検定会

JCGAのサイクリングガイドになるにはどのようなスキルが求められるのか?

JCGAのガイド基礎検定講習にて受講者を相手に講習を行う田代さん。

「基本的に自転車に乗る専門家である必要があります。山にまともに登れない人が山岳ガイドをするのは、やはり不安があるのと同じですね」

「自転車の専門知識は幅広くて、機材スポーツであるので、機材トラブルがあった時に対応できる技術も必要です。自転車を運転する技術、例えばハンドサインを出す時に片手運転でも安定した走行ができるとか、そういうところも含めて自転車のプロであることが求められます。それプラス、これまでお話ししたようにお客さんを引率して楽しませることができるコミュニケーション能力も必要とされます」

機材トラブルにも対応できるスキルが求められる

JCGAでは サイクリングガイドを目指す人のための 講習会・検定会を全国で行っており、実技・筆記両方の試験がある。

「実技試験ではお客さんを引率する技術を重要視しています。6人のお客さんをスポーツサイクリングで引率し、お客さんを一日、危険な目に合わせないでガイドできる技術があることが合否の基準になっています。メカニック技術を確認する整備の実技試験では、チューブ交換も行ってもらいます。さらに交通法規、サイクリングガイドの技術について筆記試験があります」

「階級が上がるとともに、試験項目は増えていきます。レギュラークラス以上のJCGA公認/JCA認定を取得するには、ブリーフィングの試験があります。その内容は、スタート前にお客さんと共有事項を確認すること。例えば交通ルールの説明であったり、コースの説明であったり、トラブルがあった時にどうするかなどの説明ができるかを見極めます」

参加者にコースを説明するのも重要な役割

「今は国家資格ではないですけど、将来、国家資格になっても大丈夫なぐらい厳格な検定制度にしようという意図があります。その分、受かるのも難しく、講習会だけを受けてJCGA登録のトレーニー、アシスタントというかたちで協会に登録してもらう人も結構います」

「講習会は4日間あり、費用も約12万円と安くはないので、ハードルは高いです。ですが、私たちとしても登録ガイドが増えていくと非常にうれしいですね」

JCGAの講習会・検定会の日程や内容については、JCGAホームページに掲載されているので興味ある方はぜひご覧になっていただきたい。

JCGA以外のサイクリングガイド

JCGA以外にも独自の自転車ガイド制度を設けている団体、企業、自治体も複数存在する。

「例えば山梨県には山梨サイクルツアーガイドと呼ばれるガイド制度があり、それ以外にも各地方やイベント会社などがそれぞれガイドを養成する例も増えています。いろんな呼び方のガイドがあるのが現状ですよね」

これらはJCGAの登録ガイドではないものの、JCGAのカリキュラムをもとに養成を行ったり、田代さんが講師を務めることも多く、JCGAと少なからず協力関係にある。

サイクリストは見られる意識を持って

道路交通法の改正により、2024年11月から自転車運転中のいわゆる『ながらスマホ』や酒気帯び運転などが罰則強化される。このように自転車にかかわる法律は年々改正され、社会からの注目度も高まっている。そんな中で、田代さんがサイクリングを楽しむみなさんに伝えたいこととは?

「道路交通法や交通ルールを一般の人、さらにはロードバイクに乗ってる人たちですら、あまり知らないことが多いと思うので、もう一度しっかり認識してもらいたいですね
スポーツ自転車に乗ることは全然悪いことではないんですが、たとえば大人数で自転車に乗っている人たちがやってくると、私たちは『インパクトが強い』という言い方をするんです。悪くすると、暴走族のように見られることもある」

「例えば、私たちサイクリングガイド協会のメンバーは、場面によっては服装にも気を遣うことがあります。レーサーパンツを履いている集団のことを見慣れない人にとっては違和感がありますよね。そういうときはカジュアルなスポーツウエアを着ることもあります。走る距離や地域にもよりますが、そういう見られる意識を持つこともマナーのひとつだと思います」

「みなさんにもつねに地域住民の方から見られている意識を持って、自転車に乗っている人が悪く思われないように、ルールを守ってマナーよくサイクリングを楽しんでほしいです」

協力:一般社団法人日本サイクリングガイド協会(JCGA)

田代恭崇(たしろ・やすたか)さん

プロロード選手として、チームブリヂストンアンカー(現チームブリヂストンサイクリング)などで活躍。2000年、2004年全日本選手権優勝、2004年アテネ五輪代表。引退後、ブリヂストンサイクル勤務を経て、2014年に神奈川県藤沢市にリンケージサイクリングを設立。地元・湘南エリアから全国にいたるまで、サイクリングガイドやサイクリングイベント企画運営など、日本のサイクルツーリズムを盛り上げる様々な活動を行っている。

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