2019年08月22日
執念 〜入部正太朗、2019年全日本選手権優勝への軌跡~(前編)
体の異変も冷静さで切り抜ける
さらに入部は周回を重ねながら、コースの特性、天候などのコンディション、集団のペースを分析し、冷静に後半勝負に備えていた。
「走りながら気づいたことはあります。たとえば(旧30度バンク下からの)裏の上りの区間で、上り口でペース上がるときも、結局、上の緩斜面の向かい風で集団が詰まりやすいと途中で気づきました。木村にも『下で踏んで、上でけん制する状態はもったいない。ペースで踏んで、帳尻を合わせればいい』と言いました。それを20周もすれば、影響しますから」
危なげなくレースを進めていた入部だが、中盤、あわやレースを失いかねないピンチに見舞われる。
「100km地点ぐらいで、足がつりかけていたんです。なんだ、この感覚はと思いましたね」
しかし、ここでも冷静に体の異常を分析していた。
「暑い日で汗をかくレースは電解質が入っているドリンクを飲むことを心掛けていて、あの日も、経口補水液とかスポーツドリンク中心に飲んでいたんです。でも、ナトリウム系の濃度が高いドリンクは汗が出ないとむくみにつながるというのは、知識としてありました。あの日はレース中にもろにそれが出て、むくみがピクピク来てたんです」
「レース前の週もかなり絶食時間をとって内臓も回復させてきたはずなので、調子が悪いはずない。でも、このピクピクはなんだってなったときに、今、体の中で何か変な反応が起きている。もしかしたら雨だから、汗がそこまで出てないのに、それに対して電解質を入れる量が多すぎるのかなと考えました」
「感覚的にはドロドロしたものが体をめぐっているようなイメージ。うまく体内を回ってなくて、サラサラじゃない。それで、鳴島さん(マッサー)に水をお願いして、そこから1時間ぐらいはほぼ水しか飲まず、感覚的に体を薄めようとしました。2本ちょっと、1リットルぐらい水を入れたら、足つりがなくなってきました。もしからしたら内臓の状態がよかったからか反応が早かったのかもしれません。これは自分の中でさらに勉強になったことですね」
コンディションが悪化すれば、シマノレーシングも作戦の組み立てなおしを強いられるところだったが、入部は落ち着いた判断で危機を脱した。
中盤、脚に異変を感じていた入部だったが、冷静な判断で切り抜けた
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。