2019年08月22日
執念 〜入部正太朗、2019年全日本選手権優勝への軌跡~(前編)
集団前方でレースを進める
迎えた2019年全日本選手権。今年は東京五輪の前年でこのレースも代表選考にかかわるポイントが配分される。さらにワールドツアーで活躍する別府史之(トレック・セガフレード)、新城幸也(バーレーン・メリダ)の両雄が、8年ぶりにそろって全日本に参戦することでも注目を集めていた。
その中でタイトルを狙う入部は、「調子は今できる最大限の状態にできたという自信はあります。最初から勝つつもりで、すべてを出し切って向き合う。きつい状態でもあきらめない。死んでもやり切るぐらいの覚悟でした」と決意を固めてスタートラインに並んだ。作戦としては「後半勝負を意識して、前半はできるだけ脚を貯める」つもりで、その前半はチームメイトが全力でサポートする体制を整えていた。
昨年4位の入部は最前列スタート。そのアドバンテージを活かし、レースを進めた
小雨の富士スピードウェイ、男子エリートのレースは外周路を含めた10.8kmの周回コースを21周する227kmで争われる。昨年4位の入部は最前列からスタート。その位置を活かして、序盤から集団前方でレースを進めた。普段のレースでは落車などを警戒して後方にいることが多い入部には珍しいことだったが、前日まで他のカテゴリーのレースで落車が相次いでいたので、最初の数周はコースの確認に費やした。
「レーススタートした時から、珍しくずっと前でした。事前情報でコースが危険という情報だったので、落車やトラブルにはかなり気を使いました。慣れるまで最初の1、2周は危険かもしれないけど、走っていれば絶対慣れるんでそこまで不安はなかった。もちろん慣れてきたときが怖いんで、一番滑りそうなところはずっと意識していました」
シマノレーシングはTOJから大半の選手がディスクブレーキ車に乗っている。細く曲がりくねったサーキットの外周路、そして濡れた路面では確かなアドバンテージとなった。
「下りのコーナーでもインから位置を上げられるのは、ディスクブレーキの効果ですね。パンクもトラブルもなかったです。大久保さん(メカニック)が整備してくれたタイヤは、腕プラス思いがこもっているので、パンクしないんです。落車がなかったのは、みんなのコントロールのおかげでもあります。周りにチームメイトがいて一緒に下れるほど、恐怖心なく安全に下れることないですから」
前方にいたのはコースに慣れるためだけでなく、後半勝負にかけるシマノレーシングとしては大人数の逃げを許さないという思惑もあった。昨年の全日本選手権は1周目に30人以上の逃げが生まれ、最終的に表彰台に立った3人はそこから逃げ切った選手たちだった。集団内で後手を踏んだ入部は終盤の驚異的な追い上げで4位に入ったものの、逃したチャンスは大きかった。
「もちろん去年の失敗は頭に入れていたので、大きい逃げは絶対起きないようにしていました。それは全チーム同じやったと思いますね」
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著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。