2019年09月01日
執念 〜入部正太朗、2019年全日本選手権優勝への軌跡~(後編)
残り7周、再びレースが活性化
プレッシャーを感じながらもそれに向き合い、入部は最後の戦いに向かっていた。
全日本選手権は残り7周。ここまで集団のペースを作っていたシマノレーシングの黒枝咲哉、中井唯晶が仕事を終え、単独逃げの徳田優(チームブリヂストンサイクリング)を目の前までとらえたタイミングで、再びレースは活性化する。特に新城幸也(バーレーン・メリダ)が積極的で、何度もアタックを試みていた。
入部は「抜け出さないことには勝利をたぐり寄せられないことはわかっている。後半のどこかで、できるだけ遅いタイミングで抜け出す方がいい」と自分がアタックするタイミングを見極めようとしていた。
そのためにはチームメイトの働きが必要だ。すでに木村圭佑と湊諒だけになっていたが、2人とも完璧なサポートをしていた。
「残り70㎞で逃げが捕まる前の補給所のあたりから、もう1回アタック合戦が始まりました。その時も湊が強く、全部チェックに立ち回ってくれたおかげで、僕はまだ待てました。木村も判断能力が高くて、一緒に隣にいて相談しながら立ち回れたので、2人のおかげで冷静に温存できた。そこから30~40㎞、僕は自分から動かなくてすみました」
後半のアタック合戦で他の選手をマークし続けた湊諒。最終的に自らも4位に入るなど、レースを通じて積極的かつ粘り強い走りを見せた
キャプテン木村圭佑は的確な判断で、チームに有利な状況を作り続けた
集団も30人前後にまで絞られ、各チームともアシストを消耗し、エース級を残すばかりになった。残り3周半、再三アタックを仕掛けてきた新城が小石祐馬(チーム右京)とともに裏の上りで飛び出し、ここに小林海(ジョッティ・ビクトリア・パロマ―)が合流して、3人が抜け出した。
「一番勢いがよく、集団にダメージを与えられた」と新城が振り返ったように強力な3人だった。
今までチームメイトに守られて力を温存していた入部は、この3人を警戒し、この日ほぼ初めて自ら必死に追走をかけた。
「ほんとにやばいなと思ったのは、最後の新城さん、小石選手、小林海選手の3人です。追走のアタックが始まって、そのときは自分も行きました。増田(成幸、宇都宮ブリッツェン)さん、伊藤(雅和、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)さん、窪木(一茂、チームブリヂストンサイクリング)選手、横塚(航平、チーム右京)選手と追走メンバーも他チームのエース級。仮に追いついたとしても、この8人だと難しいなと思いましたが、追いつかなきゃダメだと思って、結構踏みましたね」
この追走5人に、後方からどんどん選手が追いつき、その勢いのまま前の3人も捕まえた。結局、この危険な逃げも早めの対応でわずか半周ほどしか続かなかった。
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著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。