2019年09月01日
執念 〜入部正太朗、2019年全日本選手権優勝への軌跡~(後編)
全日本3週間前、5日間自転車から遠ざかる
TOJを終えて疲労も溜まり、心身ともに落ち込んでいた入部だったが、その数日後にはツール・ド・熊野(5月31~6月2日)が開幕した。入部にとっては、過去2年ステージ優勝を挙げている相性のいいレースだ。今年も最終日の第3ステージでは雨の中、再三逃げにチャレンジし、ステージ3位に入った。
「熊野でもう1回頑張ろうと思ったけど、あまり体調が戻らなくて……。 第3ステージでは逃げに乗れたんですけど、やっぱり逃げるとチャンスが見えてくるんですよね。優勝できなかったけれど、3位に入れたことで自分のスタイルはここかなと確認できました」
この時点で全日本までは1か月を切っていたが、入部は追い込んで調整するよりも回復を優先した。
「まだ心身ともに疲れていて、このままでは全日本までにコンディションの立て直しがきかないというのがあったので、次のJPT(那須・矢板の2連戦、6月8・9日)は休ませていただけないかとチームにお願いしました」
「熊野後には、5日間休養しました。5日間で1時間ぐらいしか乗ってないです。その1時間も回復走というよりは、自転車のポジションを確認するなど、乗ってないに等しいです」
「内臓の疲労を感じていたので、その週はタンパク質も魚、肉ではなくて、豆腐、納豆などの大豆系で補いました。絶食時間を長くとって、内臓を休ませて動かさないというのを5日間みっちり行ったことでかなり回復して、そこから練習を再開しました」
全日本まであと3週間と迫る時期に、思い切った休養の取り方だった。
「一般的な調整としては大事なレースの3週間前というのは、一番追い込む時期みたいなんですよね。それでいうと賭けですが、僕の感覚的にはそうした方がよかった。その後、伊豆でチームの合宿があって、最後の追い込みをしてから、直前の1週間は調整にあてて、今の自分ができる最大限には持っていくことができました」
やるべきことはやったという入部だったが、彼がベースと呼ぶCTLの値は4位に入った昨年の全日本前よりも低かったという。
「去年と比較すると状態は9割ぐらいのベースで全然低かったです。でも、去年より体重は絞れていましたし、そのほかの部分でも体の中の状態はよかった。レース前の1週間は水曜日だけちょっと踏んで、ほかは基本回復で貯めるに貯めたという感じです」
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。