2019年07月02日
【第88回全日本自転車競技選手権】ロード 男子エリート インタビュー全文
レース直後に行われたインタビュー全文をお届けしよう。
今シーズンはプレオリンピック、UCIポイント獲得に向けて、など中盤戦以降も重要なシーズンとなる。そういう側面からも大きな意味をもつ全日本選手権であった。
ー今回の結果の率直な感想を
入部正太朗(シマノレーシング)—優勝
「ありがとうございました。正直実感がわかない。目標にしていたレースなので最高に嬉しい」
新城幸也(Bahrain MERIDA)—2位
「くやしい気持ちだけ」
横塚浩平(TEAM UKYO)—3位
「自分の持てる力を出し切っての3位なので、満足している」
ーレースについて展開をまとめると
入部—
「ジュニア、U23、タイムトライアルなど各カテゴリーのレース内容から、危険だという情報が入っていたので、慎重に対応しようということで準備をした。
レースは最初から落車も数回見たし、スリッピーな路面で集団の後ろもすごく伸びるという状況。その中でアタックがかかるなど落ち着かない状況が続いたが、徳田選手(チームブリヂストンサイクリング)の逃げが決まってから少し落ち着いた。
チームとしては、先頭に位置どりするという形で集まり、集団をコントロールして僕は脚を温存することができた。そこまでの展開としてはチームとして動いていたが、単独で参加している新城選手や別府選手もどんどんアタックしていて、憧れというか僕もこういう選手になりたいと思いながらレースをしていました。そこからさらに勝ちたい欲がわいてきた。
後半は、自分の脚で飛び出した。今までたくさん失敗もしてきたが勝ったこともあるので、そこに賭けた。
集団も疲れが見え始めたので新城選手、横塚選手と抜け出すことに成功した。本当に8割は新城選手が引いてくれたような状況で、僕と横塚選手もかなり厳しい状態で。上りでは新城選手が引いている状態でちぎれてしまうような時もあった。なんとか食らいついていって最後はクレバーに勝ちを狙っていった。思いどおりの展開になったので、チャレンジできたことはよかった。この勝利をチームで讃えあいたい。
新城—
「序盤から結構みんな前に行きたがっていて、最初は9人前後の逃げが決まり、さらに追走で9人ほどが先行し、一時期危険な逃げに対して、行かなければいけないと思い自分の脚を使って前に追いついた。コンチネンタルチームは選手が8人くらい出ている状況で、前にチームメイトが行くと後ろは止まってしまう。単騎で出ている僕らには難しいレースになってくる。脚を使いながら、“これは大丈夫”という逃げを選別しながら、前半は過ごした。
中盤はのんびり50kmくらい走り、最後70kmくらいは勝負するために自分からでも動こうと思っていた。誰も動かなかったので、自分から仕掛けました。3回目(のアタック)くらいで、小石、小林の3人で行った時が一番勢いがよく、集団にダメージを与えられたと思う。
追いついてきたメンバーの顔を見ても、大変そうだった。次のホームストレートでは、直前のTGRコーナー捕まったばかりで動きたくなかったが集団も少なくなっていたので、すべてを出し切るつもりでアタックをかけた。
全日本チャンピオンというのは……、チャンピオンらしく脚を使って勝ちたかった。集団スプリントを考えず、とことん攻めた。最後ちぎれなかったのは自分の甘さ。この悔しさを……。
3月に落車して復帰したばかりなので、この全日本を復帰戦と考えてずっと走ってきて、今日は…まあそうですね。走りきれたことにひとつ自分の、3ヶ月間の思いをぶつけられたかなと思う」
「日本の選手は弱くはないです。パワーだけならたぶん僕らと同じような力を出している選手はたくさんいると思う。現に今日も負けました。ヨーロッパのレースの走り方(地形や集団での走り方など)という意味で知っているか知らないかの違いだけですね。決して全日本が簡単なレースではなく、彼らをちぎるということを、簡単にやったわけではない」
横塚—
「序盤から、各チームが激しく動いた。正直、自分はそこに参加して最後まで勝負できる自信がなかった。序盤はチームメイトに任せており、小石さんが積極的に動いてくれていた。その間、自分は脚を温存することができた。
後半に入部さんが自信をもって踏んでいった。マークしていた選手だったので“思い切って行くしかない。自分のチャンスも多くはないので腹をくくっていこう”と。
普段からお世話になっている2人と、こうやって逃げきれたのは、自分としてはうれしい。
走っていても力の差を感じた。今回、ラスト1周の上りでペースを上げられてちぎられてしまったけど、これがいまの精一杯だったので、文句はない」
ー新城・別府選手の出場でたいへん大きな反響があった。会場の雰囲気や、ファンにコメントを
入部—
「天候が悪い中、沿道にたくさんの応援してくださる方がいて、レース前から僕が思うに雰囲気がよく緊張感があった。
これが全日本選手権なんだなと感じるくらいの緊張感。新城選手、別府選手が来られている中で、選手のみんなのモチベーションが上ったと思う。
その中でワールドツアーで活躍する2人は、誰もがマークする中で、単騎でもあれだけレースを動かすというのもレース中に感じた。
新城さん、別府さんへの声援がすごかった。僕も多少は呼んでいただき嬉しくて力になった。天候が悪い中、笑顔で応援していただき、ありがたいと思う。感謝の気持ちでいっぱいです」
新城—
「みなさんは入れるところ(観戦エリア)が限られているなか、たくさん来てくださって力になった。正直10kmという周回は短くて、クリテリウムを走っているかと思うくらいブレーキをしては、踏み直しての繰り返しのコースだったので、たくさんの人に20回も顔を見せられたので、見にきてくださった方は楽しめたのかなと」
横塚—
「この全日本選手権は日に日に天候が悪くなっていきましたが、最終日にこれだけの人が応援にきてくれたのが、嬉しくも思いますし、無名の自分の名前を呼んでくれる方もいて嬉しかった」
ー最後のスプリントはどういう展開だったか
入部—
「ラスト2〜3kmからスプリントに備える体制。ずっと新城選手の後ろについている状態。力が負けているというのはわかっていた。でも数十秒のパンチには自信があるので上りでちょっと離れるそぶりや、口三味線になるが、仕掛けてくれたらいいなと思っていた。最後はホームストレートが向かい風であることはわかっていた。霧でラストの距離の看板は見えづらくなっていた。看板もいくつもあって何周も走っていてもどれだろうっていうのがあった。なんとかレース的に距離を見ながら。最後は一車身距離をとって、それを詰める勢いで。ラストは150m、向かい風なので距離は短め、全力でもがきました。1000wほどでしたが、230kmの長丁場で自分の出せる最大のパワーを出しました」
新城—
「早めにかけたわけではない。待っていた。ラスト150mまで待って仕掛けたが、(入部選手と)かかりが違った。ただそれだけ」
ー2020年オリンピックが控えている。それに絡めて。また今後についての見通し
入部—
「自身の目標として、オリンピックに出場したいと言うのは選手誰しもが思うことだと思う。僕もその目標を掲げてはいるが、実力は全然なく今の時点での選考という形でも、UCIポイントを取れない自分がいる。狙ったレースでも取れない。実力不足という部分があるので、UCIポイントを中心にもっと取れる選手になって、その先に“オリンピックに出場したい”ということにつなげていきたい。今回チャンピオンになり、その意識をもって今後もレースに臨んでいきたい」
新城—
「フィニッシュ地点は富士スピードウェイだが、富士山も三国峠も上っていない。でも雰囲気はある程度つかめた。今日のコースはまったくオリンピックには関係がなく、ポイントにはならないかな、と思う」
横塚—
「オリンピックを自分が目指すというと漠然としている。しかし同じレースでオリンピックに出たことがある選手、目指している選手と走ることができて、かなり刺激になった。幸せなことに、チームは海外でUCIポイントを狙ってレースを走れる土俵に立てていると思う。オリンピックを自分が狙えるような選手になっていこうと思う」
ー今回のレース会場はオリンピックゴール地点だった。7月に行われるプレ大会について。またどういったレースがしたいか。
入部—
「この1ヶ月以内に伊豆で合宿をしたが、プレ大会のコースは試走している。おおよそコースを試走はしているが、後半の三国峠は激坂かつ25分以上で、自分としてはかなりきついイメージ。位置どりという意味では道志道は一本道でそれほど激しくなることはないような感じなので本当に力の勝負ということになる、という印象。あの峠は自信がない部分があるが、楽しみにしている。精一杯チームで頑張っていく」
新城—
「出場は決まっていませんが(笑)。僕が思うに150kmという短いレースで、そんなに集団は崩れず20〜30人となり、籠坂でアタックがかかるのでは。でも籠坂もちぎれる(集団が崩れる)ような上りではないので、やはり三国峠を越えたメンバーの中で優勝争いが繰り広げられるのではないか。峠を越えてから山中湖があるのでアタック合戦になるだろう。チームメイトがいれば追いつけるが、居なければ今日のようにに、お見合いをしながらということになる。どのみち三国が勝負所になることは間違いないが、最初に上ったから勝者になるとは限らないというのがプレ大会だと思う」
横塚—
「TEAM UKYOの拠点が相模原で、道志道はトレーニングで毎日のように走っている。知り尽くしたコースで、うちのチームは有利だと思う。しかし最後は上りの力勝負になるし、自分が勝負できるかとなると難しい。序盤から動いて目立つことができれば」
新城幸也:長期離脱 今後のシーズンについて
「僕が今、どれだけオリンピックに可能性があるかわからないが、これまでオリンピックに2度出させていただいて、その雰囲気もわかっている。ヨーロッパで15年間やってきて、はじめて地元で世界的な大会が開催される。いつもアウェイで戦っている中、日本で走れるこのチャンスは選手冥利につきるとずっと思っている。ぜひとも自分が一番強いときに、日本で走る姿を見せたいというのは常々思っている」怪我の心配や回復
「3月13日に骨折、3月14日に手術して、3ヶ月ちょっとたちました。最初のひと月半は骨盤を骨折していたので歩くことができずに、6週目を過ぎてからローラーに乗り始め、2ヶ月後に実走となった。ヨーロッパで1レース走りましたが、肘自体はまだスクリューとワイヤーといった金具が入っているせいで、肘がまだまっすぐに伸びない。スプリントでも大きな力がまだ出ない状態だが、それは付き合っていくしかない。この肘に金具が馴染んで動きが良くなれば、良いパフォーマンスが出せるんじゃないかと思う。骨盤の部分は今日の感じをみれば大体治ったかなと。
金具を抜く手術をしてしまうと、切ることになるので1週間くらいは汗をかけない。それを(骨折2ヶ月後の)実走前に抜こうとは思ったがタイミングが合わなかった。それは仮骨ができてなかったから。全日本から逆算して1ヶ月はトレーニングをしないと間に合わないということだったので、手術をスキップしてそのままトレーニングを始めるしか選択肢がなかった。
肘に金具は入れておくということはない。手首や大腿骨には入ったままだが、この肘は金具は抜かないと選手的には邪魔になるので、シーズンオフに必ず抜く」
勝てる選手も展開次第で、結果が大きく変わってしまうのがロードレースの難しさであり、観戦するファンにとっては面白さでもある。逆を返せば勝負どころで失速してしまった選手も次のレースでは勝てる可能性がある。ロードレースの魅力を今一度、思い起こさせるレースであった。
写真:編集部、JCF
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得