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2018年08月08日

森本誠氏インタビュー 2018年前半のピーキング、目標に向けたトレーニング方法について

クライムジャパンシリーズのコンテンツ協力をしていただいている、ヒルクライマー・森本誠さん。
今回は2018年の前半シーズンを走った感想から、トレーニングの取り組み方、また目標のレースに向けたピーキングの方法と盛りだくさんのインタビュー内容をお届けしたい。
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2018年の前半シーズンの統括

膝の故障が表面化したのは6月に入ってからなんですよね。
今シーズンは全日本選手権をターゲットにしていました。コースは上りが厳しいと聞いていたのですが、ただ走ってみると想定よりも少なく獲得標高4000mくらいでした。
この全日本対策として人生初となる2ヶ月連続の走行距離2000kmオーバーで仕上げてきていたのですが、6月の頭に膝を痛めまして。膝のケアのために名古屋でお世話になっているマッサージャーを訪ねたら、「なんでもっと早く来ないのよ! むちゃくちゃ(筋肉が)硬くなっているよ」と。自分ではこんなものだろうと思っていましたが、普段のケアが少し足りなかったのかもしれません。

それからは練習量をグッと抑えました。痛めた週末以降、平日はトレーニングをせず休息に充てました。数日後、週末に走りに行こうとしても5〜6km走ると痛みが出るように。3〜4日経つと痛みは引くのですが、50km以上走るとやはり違和感が。筋肉というよりも関節の痛みという、嫌な種類の痛みですね。

少し休息をして富士ヒルには出場しました。体調的には悪くはなかったと思いますが、峠のTTもやっていないし、走行のデータも取っていないので、自分がどれくらい仕上がっていたか客観的にはわからなかった。ただ田中裕士くんが強かったのは間違いないです。

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第15回Mt.富士ヒルクライム/先頭を走るのが田中裕士さん  photo:小野口健太

田中くんとは2〜3年前から一緒にトレーニングをする機会がありました。彼は色々な人とトレーニングをするんですよね。月に一度は地元の関西へ戻ってきているようで、兼松大和くんとよくトレーニングをしているみたいです。私も富士ヒルの後、ライドを一緒にしましたが、やっぱり強いと感じました。

当日のコースコンディションは悪くはなかった。気温も低く走るにはちょうど良く、例年は先頭に出るのをためらうような向かい風なのですが、今年はほとんど無風でしたね。

シーズン前半のトレーニング内容を振り返る

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富士ヒルを目標にしたいわゆるヒルクライムレースに集中したトレーニングというより、全日本選手権というのも目標にしていました。この全日本対策として清宮さん、萩原くん、水野くんといった選手たちと200kmくらいのロングライドを行なったのですが、半分ツーリングのような感じでしたね。
そのときは“狙ったところへいけるだろうな”という手応えはありました。

でも、振り返ると甘かったのかなと。富士ヒルでの結果を目指す選手は20分走や、峠のTTリピート、ローラーのトレーニングといったちょっと泥臭いというか、ヒルクライムに特化したような練習をしています。

私も一度トレーニングの方法を見直す時期なのかと思うのですが、またインドアトレーナーのトレーニングをできるのか、やれるのかというとね(好きではない)。乗鞍のレースも控えているので、そういうトレーニングもやらないといけないのだろうな、と思っています。

ローラー台、パワーメーターを使わず感覚的にしていったというか。そういうふうに選手のトレーニングというよりも、走ることを楽しみたい。一筆書きのツーリングのようなコースでもトレーニングとして追い込むことも可能です。とはいえ、こういう結果だったので感覚に頼るのはダメなんだと思う。

改めてパワーメーターで管理をするのが大事なのかもしれないと思いました。基準とする数値としてはタイムもありますが、天候などのコンディションで大きく変わってしまうので、あまり参考にならないと思っています。パワーメーターでしっかりモニタリングしないとな、って思いました。

しかしデータで分析をするのはトレーニングをする上で助けになるでしょう。TSSやCTLという数値化するのも、一つの目安になるのかなと。
コーチングなども流行っています。そんなに変わったことはやらないですが、近所でコーチを始めた人がいるので知見を取り入れてみようとも考えています。自分はどこまでいけるのか。自分ですべて管理できる人はいいですね。

全日本選手権では、直前の金曜日に試走をしたけど2周で痛くなった。今後レースが続いていくので無理をして走っても仕方がないと思っていました。しかし鍼をうったりひたすらマッサージをして、序盤のゆったりとしたレース展開にも助けられましたが、完走できましたね。

年齢について

ヒルクライムの世界だとスタートが25歳くらいですかね。私も38歳で、そろそろ佳境に入っているのでしょうか。下の世代からの突き上げも感じますし、それは面白いと思っています。フィジカルとしては45歳くらいまではいけるのではないかと考えています。オーベストの西谷さんは41歳で小川村の全日本実業団を勝っていますから。

私自身は加齢の影響は感じていません。
いまだ現役で走る先輩ライダーのコメントですが、“冬は完全なオフを取っていたけれど、力が戻らないという不安があり、オフを取らなくなった”と。
実際に、力を戻すまでに時間がかかると綴っていました。私も今後、完全なオフを取らなくなるんだろうなと、どこかで思っていたりします。
長い目で見たらそうなるでしょうね。今のフィジカルレベルの100%へ戻すために、どこから始動するか、レースまでの時間とパフォーマンスのバランスをみて“ここから”と決めてスタートしないといけないですね。

ただこうやって長くやっていると妙に調子の良い年と、そうでもない年がある。

同じような練習をすれば、“いけるだろう”と思っていいますが、データがないのが弱いかもしれない。好調の理由が距離だったのかな、とか乗鞍に通ったからかな……とか。ところが同じことをしても同じように走れない、フラストレーションとまでとはいかないけれど、なんでかなと思ったり。それでもレースには臨むんですが。

1人でトレーニングをやっていると、どうしても気づけないところがある。思い切った判断もできない。そういうことにだんだんとなってきているのかもしれない。
客観的なデータをたくさんとって、分析するためのデータベースを持っておくべきでしょうね。それを自分なり、知人にアドバイスを求めるのもいい。そういうデータが必要だなと痛感しています。

今は自転車をレースに応じて数台乗り分けているということもあって、同じ設定のパワーメーターをつねに使い続けることができず、データの精度が保てない環境です。そういう煩雑さがありまして、データを取ることがあまり前向きに考えられない。

とはいえパワーメーターをつけて走るのは嫌いじゃなく、あとでデータを見返したりするのは好きです。でもパワートレーニングは好きじゃないんです。峠で3分走とか、ローラー台のトレーニングも、ですね。

しかしデータをとるくらいはやらないと。走りながら見るかどうかは別として。データを残しておくに越したことはないですね。純粋に出力とkj(仕事量)と、TSSなどを残すだけで全然違うと思います。

調子が良い時のイメージが残っている
うまくいっているときは後ろを振り返ることはないですが、こういうときはやっぱり工夫をしたくなるものですね。乗鞍もなんだかんだ勝ってきていますが、ライバルと力が拮抗していたときこそ、面白いと。


トレーニング/長い目でみた場合、レースに向けてどんな練習をするか

準備期間狙ったレースに向けて

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2018年全日本ロードレース選手権 photo:山本健一

今回の狙いは全日本選手権でした。
3ヶ月では足りなかったですね。欲を言えば5ヶ月、6ヶ月に近い時間が必要でした。
というのも今年も、12月と1月はほとんど乗っていないオフシーズンでした。1月後半から始動しましたが、冬の間シクロクロスなどに取り組んでいるならゼロからの発進ではないので2ヶ月半、3ヶ月という期間で仕上げられるでしょう。

まずは乗り込みをします。イメージはFTPの80%くらいまでで、1時間走から始めます。いわゆる冬の積み重ねですね。
メニューなどは行いません。

最長で3時間はなるべく速く走る。休まずに、かといって力を出し切ることもなく坦々と走る。練習時間がもう少し時間が長くなることもありますね。
私の住んでいる地域は冬は積雪もあるので平坦が中心となります。
冬こそ高強度インターバルという話もありますが、人間は心を持っているので、私の場合レースがない時期にもがくのはなかなか大変ですね(笑)。
基本的に1人でトレーニングをしています。
誰かの後ろについて走るよりも、自分で風を切った方がトレーニングボリュームを稼げますから。

2ヶ月も経つとベースができてきます。その頃からちょこちょこと練習仲間の走行会に参加します。ローテーションやちょっとした上りで負荷をかけたりします。そこでもパワートレーニングのようなことはしていません。4分くらいで上りきれるコースで、ヨーイ・ドンで走ってみようか、と。

そして距離は120kmだったのが、200kmに伸ばしたり。長い時は240kmほど走ります。
今年は気分を変えたくて三重の青山高原や、獲得標高4500Mくらいのコースを練習仲間に作ってもらって一緒にいったり。そうするとゲストも来てくれるのでよいトレーニングになります。

やはり時々、疲労を抜いた状態で20分の出力データを計測しないといけないかなあと。とはいえこれ自体も練習になりますし、トレーニングの進捗もわかるので、トレーニング内容の調整もできますし。テスト的な取り組みも必要ですね。
ロングライドをしたいだけなら。それでもいいですが“レースで結果を出したいなら”と。
全日本選手権に向けて練習メンバーで3週間連続でロングライドをしました。疲労が溜まっていくのを感じますが“これ、練習になっているのかな”ってぽろっとこぼしたことがありました。“多分大丈夫やろ”とは言っていたんですが、十分ではなかったのかもしれません。
それこそロングライドが楽しくて。
しかし競技としてのトレーニングをしているという意味を外さないようにしないといけません。

レース直前のトレーニングメニュー

いわゆる調整期間。2週間ほど前からは強烈なロングライドは行わずに、半分くらいの練習量まで落とします。
とはいえ漸減する練習量は平日にどれくらい乗っているかにもよると思います。例えば、最長で50kmの練習距離を25kmにする必要があるのか、という意味です。距離だけでは測れない部分もありますので、CTLなどの値の変動を参考にしてもいいかもしれません。
そして疲労を抜いた状態でいつも走っているコースでタイム計測をしてみて、どれだけ仕上がってきたかを測るのが王道ですよね。

疲労が溜まった感覚は…….体重の変化を判断する基準のひとつにしています。私の場合は疲労して浮腫んでいると体重が高止まりしますので、レース前にこの状態はあまりいいとは言えないですね。疲労が抜けてくると体重も自然に落ちていき、心身ともにレースに向けていい状態になっていきます。

私の勤める近藤機械製作所は、古い会社なので始業前にラジオ体操をするのですが、週末に240km走った翌日の朝の体操は、体を動かすのも大変です。しかし水曜日くらいになると、だんだん動くようになっていきます。
電車通勤をされている人なら、階段の上り下りで「今日は昨日よりも足が軽いな」など、日常の節々でも疲労感を測ることができるので、自分の体の状態につねに意識を向けておくとコンディションを調整しやすいと思います。

 

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森本 誠さん
東京大学・大学院卒。25歳から本格的に自転車競技を始める。第13回Mt.富士ヒルクライム優勝、マウンテンサイクリング in 乗鞍 8回優勝ほか、ロードレースでも優勝、入賞多数

写真:山本健一

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