2025年06月04日
富士ヒル最速を目指して! 主催者選抜クラスは石井雄悟さんと三島雅世さんが頂点に!

富士の国 やまなし 第21回Mt.富士ヒルクライム(6月1日開催、メイン会場:富士北麓公園)、強豪クライマーが集まる主催者選抜クラスは今年も熱いドラマが展開。男子は石井雄悟さん(MASXSAURUS)が初優勝、女子は三島雅世(Cycling-gym/ZWIFT)さんが2連覇を飾った。
無欲と涙の勝利! 主催者選抜クラス男子に新王者誕生!
主催者選抜クラス男子は、155人の脚自慢が出走。前日の雨から一転、富士北麓エリアにまぶしい朝日が差し込む中、6時30分にスタートが切られた。

序盤は少人数のアタックが何度か見られるもすぐに吸収され、大きな集団のまま進んでいく。おそらく1時間切りのプラチナリングを目指す人数が多かったのが、その要因のようだ。
オープン参加したキナンレーシングチームの宮崎泰史選手は、「動く(アタックする)人もいたけど、みんな目標タイムもあると思うので、まとまって走っていた感じはします」と見ていた。
同様に、選抜クラスで出走した元シマノレーシングの湊諒さんは「例年、最初の20分は結構アタックがあると聞いていた。今年もそういうのはあったけど、(集団の)人数が多いので少しずつ差をつめていた。やはりタイムを狙っている人たちが多いので、全体的にあまり(ペースの)上下がなかったように感じましたね」と、口をそろえる。
一方、石井さんは積極的にアタックをしかける一人だった。「自分のペースの中では遅く感じたので、誰が来るかなと探り入れながら、ちょっとアタックしながら走っていました」とライバルの調子を見定める余裕もあった。
今年、最もマークされる存在だったのは、クラス3連覇を狙う金子宗平(群馬グリフィン)さん。石井さんは金子さんの存在を「あまり意識していなかった」というが、途中で金子さんと一緒に4人で抜け出したとき「しんどそうだった」と観察していた。

四合目付近で満を持して石井さんが成田眸(mkw)さんとともに飛び出すと、ついに集団からリードを広げ始める。ゴール直前のトンネル区間で再び石井さんがアタックして単独で抜け出すと、そのままフィニッシュラインを駆け抜けた。「(成田さんと)2人で逃げて、最後のトンネルぐらいで頑張って引きちぎったかたちです。勝ったと思いましたね」

優勝タイムは57分36秒。集団から追い上げてきた金子さんが10秒差で2位、成田さんがさらに3秒遅れで3位に入った。コースレコード(56分21秒)更新はならなかったものの、オープン参加の宮崎選手を含む上位29人が1時間切りという高速の展開となった。

石井さんは「うれしかったというのと、まさか自分がというのがありました。今まで練習もしんどかったので、それが一気に解放された感覚があってゴールした時は泣いちゃいました」と、予想外の勝利に感情があふれた。
富士ヒルは過去2年、選抜で出場して8位と10位。「今回もトップ10ぐらいに入ればいいかなと、再来週ニセコクラシックがあるので調整というかたちで出ようと思っていました。あまり緊張せずスタートラインに立てました。まったく自信はなくて、走ってみたら意外と調子よかった」と無欲でつかんだ勝利だったようだ。

「メニューもパワーも気にしない」自然体のアプローチで勝利をつかむ
石井さんは大阪府出身の25歳で、自転車ショップ「走輪LABO大阪鶴橋」のスタッフ。自転車YouTuberまさくんはチームメイトで、たびたび動画にも登場している。
「ヒルクライムよりは、ロードレースの方が好きでメインです。(JBCF)E1は何回か勝っていて、今年は西日本ロードクラシック(播磨中央公園)で3位でした」
日々の練習については近年主流の科学的トレーニングにとらわれず、シンプルに取り組んでいる。
「(練習で意識していることは)特になくて、だらだら走って峠が来たら本気出すぐらい。他の人みたいにメニューどうこうとか、パワーの値がとかはまったくないです」
富士ヒル前の調整についても「今年は何も考えずに、体重を落とさないことだけ考えていました。減量している人が多いと思うんですけど、今回僕はパワーで乗り切ろうという作戦で、増量というよりは体型維持、そこが一番勝てた要因ではないかなと思います」と独自のアプローチを明かした。

そんな石井さんが思う富士ヒルの魅力は「参加者が一番多いこと」だという。
「富士ヒルの前は、仲間が集まって練習し合ってという環境が勝手にできていくので、そういうところがいいかなと思います」
今後の目標については「アマチュアの世界で考えると、2026年にグランフォンド世界選手権がニセコであるので、そこを狙っていきたいです」と力強く語った。



2つの目標に向かって
主催者選抜クラス女子は、14人が出走。男子の2分後、6時32分にスタートが切られた。昨年女王の三島さんは連覇とともにもうひとつの目標を胸に秘めつつも、リラックスした状態でスタートラインに並んでいた。
「主催者選抜女子でフィニッシャーリングのゴールド(1時間5分切り)を目指すと言っていたのと、二連覇というプレッシャーがあったので緊張していたんですけど、昨日、会場でたくさんの人にお声がけいただいて、その緊張は全部吹き飛びました」
「今日の朝、起きる時刻よりも30分以上寝坊してしまって、これでいつも通り走れるなと感じました」

レースは中盤以降、三島さん、大石由美子さん、河田朱里(Infinity style)さんの3人が先頭に立ち、優勝争いを展開。その後、三島さんがライバル2人を振り切り、1時間11分55秒のタイムでフィニッシュに飛び込んだ。2位は8秒差で大石さん、全日本ロード・マスターズ女王でもある河田さんがトップから1分差で3位に入った
三島さんは「さきほど(表彰式前)3人でレース展開について話していたんですけど、三合目までが3人で、四合目で2人になってラストのトンネル一つで、私が一人で抜け出したそうです。あんまりレース展開覚えてないタイプです」と笑顔で振り返った。
そして、もうひとつの目標に届かなかったことに悔しさを見せながらも、周囲への感謝を忘れなかった。
「連覇を達成したことはうれしいんですけど、主催者選抜とゴールドの両方を狙うのはすごく難しいことだと感じたので、若干複雑な気持ちはあります。でも、ここまで来るのにたくさんの人に支えてもらったので、感謝の気持ちでいっぱいです」

17歳でプラチナ獲得、夢は世界へ!
12~22歳の中で、もっとも将来性ある走りを見せた選手を主催者が選出するブライテストホープ賞。男子は主催者選抜クラスで出走し、59分22秒の好タイムでフィニッシュした関口煌大(COWGUMMA)さんが受賞した。
「今回はプラチナを狙っていて59分台を出したいなと思っていたので、うれしかったです。(ブライテストホープ賞は)そもそも賞があるのを知らなくて、帰りかけていました。チームメイトに呼ばれて戻ってきました」と表彰台で笑顔を見せた。

関口さんは現在17歳で、高校の自転車競技部とクラブチームのCOW GUMMAで活動中。「目標は海外で走れるような選手になること」と将来の夢も語った。
プレゼンターを務めた別府史之さんは「17歳という若さで59分台で走るのは、FTPといわれる個人能力がとても高い。海外に向けて走りたいという話を聞いて、今後、僕も彼の助けになるようなことをしていきたいと思いました」とエールを送っていた。
写真:小野口健太、池ノ谷 英郎
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著者プロフィール

光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。