2025年06月06日
【Mt.富士ヒルクライム】レジェンドたちが挑んだ富士スバルライン

「富士の国やまなし」第21回Mt.富士ヒルクライム(6月1日開催、メイン会場:富士北麓公園)、今年も自転車界のレジェンドら多彩な顔ぶれが参戦。世界で活躍した元プロロード選手の別府史之さんとその兄の別府匠さん、キナンレーシングチームの畑中勇介コーチと宮崎泰史選手、(一財)自転車普及協会の栗村修さんらが初夏の富士スバルラインを駆け上がった。
フミが3度目の富士ヒル!「日本の一大イベントを走る」
長年、プロロード選手として欧州を拠点に活躍し、3大ツール、5大クラシック、五輪など世界のビッグレースを戦ってきた「フミ」こと別府史之さん。引退後もフランス在住ながら、富士ヒルゲスト出演のため帰国。前日のサイクルエキスポから、多くのサイクリストと触れ合った。
大会当日は、第4スタートで他の参加者と一緒にスタート。声を掛け合いながら一緒に五合目を目指した。

「今年で3回目。今日もすごいいい天気でしたね。応援してくださる方に声をかけられて力もらったり、走りながら仲間もできたり、これが富士ヒルの走り方というのを満喫できて楽しかったです。そういうのっていいですよね!」
「ヨーロッパでいうと富士山はカテゴリー超級。過去にワールドツアーとかで超級を走っていたんですけど、今日も険しい山を上ったなという感じですね。ヨーロッパのグランフォンドやエタップ・デュ・ツール(ツール・ド・フランスのひとつの山岳ステージを一般サイクリストが走るイベント)を自分も走ったことがあって、レベルが高い。富士ヒルも日本のトップアマチュア選手が走る日本の一大イベントといって過言じゃないですね。そこで自分の今のベストを尽くして、しっかり走れたので楽しかったです」

今年のタイムは1時間23分台と、昨年の1時間15分台には及ばずも楽しんで走れた様子。
「自己ベストというのはタイムじゃなくて、あくまで今の自分のベストを尽くすということ。去年は少しよかったけど、今日はちょっとのんびり走りすぎました。また調整し直して、さらに自分のベストを尽くせるように走りたいかな」

史之さんの兄で元プロ選手・監督の別府匠さんも、今年の富士ヒルに登場。昨年同様、ファンライド公式インスタグラムのライブ配信を前日のエキスポから担当した。
大会当日は、主催者選抜クラスと一緒にスタート。2007年に招待選手として58分35秒と当時のコースレコードを記録した匠さんだが、この日はコース上で何度か立ち止まってライブ配信しながら、3時間弱かけてゴールした。
「走る選手たちを後ろから見ていて、前回よりも選抜クラス人数が100名以上に増えた(ノミネートされる選手が増えた)し、彼らの高い集中力や勢いを感じました。僕が現役時代に走ったときは全体の参加者で2,000人ぐらいだったので、すごい大会になったなと思いました」
「インスタライブをところところで撮りながら走っていました。ネット環境が悪い地域があり、うまく撮れなかったり保存できなかった部分はありますが、長めに撮った動画もあるので、このMt.富士ヒルクライムの雰囲気を感じてもらえたらいいかなと思います」
キナンレーシングチームから畑中コーチ、宮崎選手が参戦!
キナンレーシングチームから畑中勇介コーチ、宮崎泰史選手が参戦。宮崎選手は選抜クラスにオープン参加。昨年の全日本選手権タイムトライアルで2位表彰台に立ち、過去にツアー・オブ・ジャパン(TOJ)の富士山ステージでも活躍した実力者だ。

しかし、4月末に鎖骨を骨折し、1週間前に自転車に乗り始めたばかりで今回が復帰戦。富士ヒルも富士スバルラインも初めてだったが、58分49秒と選抜クラス19位に相当するタイムでフィニッシュした。
「シンプルにきつかったんですけど、それ以上にこのヒルクライムを得意としている一般サイクリストの方々がめちゃくちゃ強くてすごいなと思いましたね。ちょっと斜度が緩いこともあってロードレース的な展開もあり、おもしろいレースだなと思いました」

調整不足も、ロードレースのテクニックで補って走ったという。
「プロ選手として集団でうまく走ることはできるので、ちょっとずつ誤魔化しながら。TOJ側(富士あざみライン)は激しい展開になったり、一回(脚が)終わったら帰ってこれないですけど、ここは勾配が緩いのでうまく走ることによって多少限界を迎えてもちょっとタイムを伸ばせたりできますね」
「今回は1時間切れればという走りでしたが、ベストな時に本来の意地を見せられたらいいですね」

昨年現役を引退した畑中コーチは、現役時代の2022年大会、主催者選抜クラス男子と混走のエキジビジョンレースに参戦し、1時間02分09秒でゴール。今回は約20年愛用するシクロクロスバイクに乗り、「現役をやめて8㎏太った」とウエイトハンデ(?)も搭載して富士スバルラインへ。順位やタイムとは異なる富士ヒルの楽しみ方を味わっていた。
「1回目は選手としてタイムを狙おうと思って、ゴールド(リング、1時間5分切り)は取れたんですけど、プラチナ(1時間切り)の集団からは遅れたので再挑戦したいと思っていたんです。まあ、その挑戦かなわず引退してしまったんですけど、違う角度からこういうイベントを見ることができましたね」

「前日のエキスポは初参加だったんですが、いつも会ったことないような層の自転車ファンの方と話せておもしろかったですし、会場の雰囲気とかも感じながらスタートしました。自転車はスポーツとしてはまだマイナーの部類とは言うんですけど、これだけ自転車ファンがいてポテンシャルが全然あるスポーツですよね」
「自転車も値段が高くなったという人もいますけど、むしろ多様化している。僕は古いシクロクロスのバイクで走ったんですけど、ギアの段数とかも昔のままで走れるし、他にもファットバイクに改造してる方がいたり、小径車がいたり、ピストの人もいました。上り切るのが楽しい人も、途中で止まって写真撮ってる人もいた。軽くて速い最新のバイクもいいと思いますし、楽しみ方がいっぱいあるなと思いましたね」
「自分のタイムは知らないんですよ。メーターもつけてなかったので、あんまり気にしなかった。スプリントポイントはめっちゃもがいたんですけどね(笑)。僕自身もタイムを狙いたいと思うときが来るかもしれない。今後もぜひ参加したいし、他のイベントもいっぱい出てみたいですね」
そう嘯く畑中コーチの今回のタイムは1時間34分台だったが、コーチ目線で選抜クラスのポテンシャルの高さも興味深く見ていた。
「今日勝った選手(石井雄悟さん)は、昔から知っているホビーレーサーなんですけど、仕事している中でトレーニングを取り入れて、これだけの結果残せるわけですから、日本の選手育成にヒントがないかなとも考えましたね。トップ数人のパワーウェイトレシオは高いところにあるので、秘密を探りたいですね」
栗村修さんが初参戦!「富士ヒル、すげえ!」

(一財)日本自転車普及協会の栗村修さんが富士ヒル、そして富士スバルラインに初挑戦。元プロ選手・監督で、現在はツアー・オブ・ジャパン組織委員長、ロードレース解説者として自転車ファンにお馴染みだ。
「憧れの富士ヒルに、一参加者として出させていただきました。正直1時間15分切りは余裕だと思っていたんですけど、1時間20分台(記録は1時間20分30秒)でシルバーリングに遠く及ばず、打ちひしがれています」
また富士ヒルにかけるサイクリストの熱い思いを目の当たりにして、強く胸を打たれたという。
「五合目で参加者の一人の方が泣きながら、誰かと電話で話していたんですよ。たぶん悔しかったんだと思うんですね。僕と同じで目標のリングを取れなかったんだろうけど、大泣きしていたんです。それを見て『富士ヒル、すげえ』と思いましたね。それぞれの目標があって人生かけてるんだなって。プロレースとは違う世界観というか、あらためて初めて参加して圧倒されています」
ここ最近は一サイクリストとして自転車熱が高まり、レースにも積極的に参加しているという栗村さん。
「最初は自転車通勤がきっかけで、自転車少年の心を思い出してきました。昨年の10月ぐらいからヒルクライムに出たり、シクロクロスデビューもしたので、今日が5レース目です。ZWIFTなどで練習を本格的に始めて10ヶ月くらい経つので、次はシルバーを目指したい。年齢は今年で54歳。ゴールドは高望みかもしれないけど、もうちょっと力をつけたい。この富士ヒルに感謝して、頑張りたいと思います」
日本の自転車界を盛り上げる立場としても、国内最大規模のヒルクライムから大きな刺激を受けたという。
「日本の自転車文化って、TOJのような国際レースよりも富士ヒルやツール・ド・おきなわなどの一般参加型のイベントの方がYouTubeの再生回数伸びたりする。そういう一端を見ましたし、まだまだどんどん大きくなってきているのを感じて、勉強になりました」



シマノレーシングの元選手、湊諒さんが主催者選抜クラス男子にエントリー。現役時代はチーム一のクライマーとして活躍したが、引退して3年が経ち「以前から憧れだった」富士ヒルに初参戦。1時間03分09秒でフィニッシュし、ゴールドリングを獲得した。
「楽しかったですね。プラチナ(1時間切り)をなんとなく目指してたけど、そんな甘いもんじゃないと感じました。みなさん速いし、レース展開を踏まえて練習してきたんだろうなって。僕的にはつらかったです(笑)」

自転車ジャーナリストの小俣雄風太さんが、MCとして富士ヒルに初参加。富士ヒル当日はスタート会場の進行を途中まで担当した後、参加者と一緒にスバルラインを走り、下山後は表彰式のMCを務めるなど、大車輪の活躍だった。
「いつもMCを担当するのは、みんなの顔がわかるイベントが多い。それと比べて今日はスタート台に立ったときに多くのみなさんのヘルメットが光で反射して、その光の粒がどこまでも続いてて壮観でした。これはえらいところに来たなと思いました」
富士スバルラインを走った経験はあるものの、富士ヒルは初めてだった小俣さん。

「すごくハマっちゃう人の気持ちが理解できました。今後の自分の仕事にも生きてくると思いましたけど、もうちょっと練習して走りたかったですね。そういう気持ちが自転車業界をよくしていくかなと思いました」
参加するサイクリストの雰囲気も肌で感じることができた。
「(他の参加者から)声をかけていただいてすごくうれしかったし、フィニッシュではみんな晴れ晴れとした表情をしていたのが印象的。下山のときも、まだ走っている人に対して“頑張れ”と声がけしているのを見て、日本の自転車乗りって捨てたもんじゃないなと思いました」
写真:光石達也、小野口健太、池ノ谷英朗
関連記事
年代別入賞者発表! 雨上がりの富士で繰り広げられた例年以上のアツい闘い
著者プロフィール

光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。