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2022年06月26日

[後編]【Mt.富士ヒルクライム】JBCF・JCLの選手も参戦!新たな試みを選手はどう受け止めたのか?

前編はこちら

INDEX

▷主催者選抜クラス女子、例年まれに見る接戦を制したのは


▷富士ヒルでの混走を選手・関係者はどう見たか?


▷新たな才能発掘のきっかけに


▷主催者選抜クラス女子、例年まれに見る接戦を制したのは

白熱したレースとなった主催者選抜クラス女子にも触れておこう。例年、出走人数が10~20人のこのクラスは、スタート直後に集団がばらけ、単独走行になる展開が多い。

しかし、今年はまれに見る接戦となった。昨年優勝の望月美和子さん、自転車インフルエンサーの『篠さん』として知られるテイ ヨウフウさん、佐野歩さん、宮下朋子さんの4人が序盤から先頭集団を形成し、その集団のままレースの大半を走った。

終盤、佐野さんとテイさんが抜け出し、最後はハンドルを投げる0.07秒差のスプリント勝負で佐野さんが勝利をつかみとった。

優勝:佐野歩さん
「レースっぽくて楽しかったです。最初はペースの上げ下げもなく、アタックするわけでもなく、ずっとペースでいきました。四合目ぐらいからペースアップして、最後はスプリントしました」

2位:テイ ヨウフウさん
「選抜は3年ぶりなので、ほんとに走れるか不安だったんですけど、すごく楽しかったです。最後まで4人で走るのは珍しい。みんな何かしら考えながら走っているんだろうなと探りながら走ってて、めちゃくちゃ楽しかったです」

3位:望月美和子さん
「昨年優勝していたので、プレッシャーは大きかった。今回、自分のレース展開と違う守りの展開になってしまったけど、女子が固まって走っていたので、すごい貴重な経験をさせもらった。来年は挑戦者としてがんばろうかと思っています」

佐野さんが「今年でヒルクライム卒業、選抜はほんまに引退して、年代別で出ようと思います。勝ち逃げです!」と選抜引退をほのめかすと。他の2人は「えー、やめてよー!」と名残り惜しそうな表情を見せ、ともに戦った絆を感じさせた。

優勝は佐野歩さん(左2人目)、2位はテイ ヨウフウさん(左)、3位は望月美和子さん(右)。レース後、4位の宮下朋子さん(右2人目)も交えて健闘を称え合った

▷富士ヒルでの混走を選手・関係者はどう見たか?

池田さん「彼らは富士ヒルに合わせてこなかった」

池田隆人さん

富士ヒル初のエキシビション混走は、アマチュア選手が先着する結果となった。参加した選手、関係者はこの結果をどう分析するのか、今後の富士ヒルの可能性も合わせて聞いてみた。

選抜クラス3位の池田隆人さんは、「レースに対する入れ込みの違いというか、ファクトリーチームはこれからのシーズン後半に向けて調整していて、今日には合わせてこなかったと思うので、そこの違いはあるかなと思います」と指摘。選手たちがトップコンディションでこの日を迎えなかったということは多くの選手、関係者が口をそろえている。

佐藤選手「ロードレースとヒルクライムでは練習時間が違う」

佐藤光選手(稲城フィッツ クラスアクト)

エキシビション優勝の佐藤光選手(稲城フィッツ クラスアクト)は、練習やレース時間の違いを指摘する。

「(主催者選抜クラスには)全然、手も足も出なかったですね。僕たちロードレースの選手とヒルクライム中心にやっている選手たちとは練習も全然違う。僕たちは3~4時間の(ロードレースを想定して)練習をやっているので、太刀打ちできなかった。ヒルクライムは(高出力で)長時間踏むので、逃げに活かせるとは思いました」

今後も交流イベントが開催されることには賛成の考えだ。

「アマチュアのみなさんも走り方を学ぶことで集団走行の学びにもなると思うので、こういうイベントは開催するべきだと思います」

草場啓吾選手「主催者選抜クラスに攻めの姿勢を感じた」

草場啓吾選手(愛三工業レーシングチーム)

2021年全日本王者の草場啓吾選手(愛三工業レーシングチーム)は、選抜クラスが見せた序盤からの積極的な走りにも刺激を受けていた

「私たちと同じぐらいの意識をもってヒルクライムに向き合っていて、僕らも感じるものはありました。僕らはペース配分を考えてしまうけど、今日のトップの人たちはスタートから直感的に走っているというか、思い切りのよさを見習うところもありました。僕は去年全日本を勝ったけど、今季は全然勝てなくて。精神面をふくめすべてが噛み合わないと優勝できないと難しさを知ったところ。最近守りに入ることが多かったので、攻めるってこういうことかと感じました」

「イベントとしてはたくさんの人に来ていただいて、声かけて応援していただいて、僕もあらためて後半戦に向けて頑張ろうと思えました。みなさんからすごく刺激をいただいたし、一般の方も私たちと走る機会があって楽しんでいただけたんじゃないかと思います」

加藤大貴さん「エキシビションの選手の走りは勉強になった」

加藤大貴さん

対する選抜クラス2位の加藤大貴さんも、エキシビションの選手を間近に見て学ぶところがあったという。

「スタートで何人かガーンといったので、本気で走られるんだなと思いました。個人的に去年の全日本チャンピオン(草場選手)の走りを間近で見て、JBCFの選手はこういう走りをするんだと感じれました。ヒルクライムはヒルクライムの走り方があるので、僕の中では勉強になったと思います」

米谷隆志選手「峠のタイムをお互い知ったうえで、実際に戦うとおもしろい」

米谷隆志選手(リオモ ベルマーレ レーシングチーム)

エキシビション3位の米谷隆志選手(リオモ ベルマーレ レーシングチーム)は、今回の交流戦にはデータだけではわからない発見があると語る。

「おもしろい試みだと思います。両者がなかなか同じ土俵で戦うこともないですからね。実際、峠のタイムとかお互い知っているので、どのぐらいの実力差があるのか、どういうところで相手が強いかは、なんとなくわかっていると思います。わかったうえで、実際に戦うとおもしいし、自分たちとしても刺激になる。今日はなかなかレースで一緒にならない、接点がない人たちと話せて楽しかったです」

畑中選手「一緒に走って、情報交換したらお互いWin-Win」

畑中勇介選手(キナンレーシングチーム)

2017年全日本王者の畑中勇介選手(キナンレーシングチーム)は、SNSやZWIFTなどでホビーレーサーの動向をよくチェックしているそうで「僕は知ってましたよ。“神々”がいることを」と選抜クラスの強豪ヒルクライマーたちを独特の言葉で表現し、予想通りの結果だと指摘した。

「池田さんとかは、ZWIFTでよく会います。リアルではあまり一緒に走ったことはないけど、彼らのSNSの情報とかこれまでのリザルトやタイムから見て、神だなと思っていたんです。一緒に走ってみてやっぱり神でした。この大会にかける思いとか、機材の準備とかしっかりしているのを見ていたので、同じ自転車を使うけど、こんなに違うんだと肌で感じましたね」

「彼らは自分たちが目標とするものに対して、突き詰めている。この10年間で機材や知識を含め、ヒルクライムを専門にする方々がすごく進化して、1分1分詰めていった結果が56~57分というコースレコードなんでしょう。ZWIFTでも彼らは強くて、ロードレースの強い選手でも相手にならないことがある。UCIのeスポーツ世界選手権はボートの選手が勝ったりしているし、いろんな幅が広がっている。参考にしたい部分もあるし、すばらしいと思います」

また、上りで重要なのはパワーウエイトレシオと言われるが、それに加えて選抜クラスの上位陣は一定時間のヒルクライムでパワーを出し切る能力にも優れていると指摘する。

「パワーウエイトレシオはみなさん公開していて、僕も負けてない部分はあるけどパワーの出し方が違う印象です。上りだから簡単にパワーを出し切れると思うかもしれないけど、僕はまったく踏めなかったし、出し切り方もわからなかった」

「パワーウエイトレシオ的にはコンタドール(グランツール総合優勝7回のスペイン人元プロ選手)と変わらない人もいっぱいいます。もちろん、コンタドールは下りも下れるし、平地も踏める。上りにプラスしていろんなことができるわけですけどね」

それらを踏まえてこうした交流戦の機会は、双方にとってプラスが多いと展望する。

「僕らも彼らの特化した能力の一部を吸収したい部分もあるので、一緒に走ってみたいし、情報交換したらお互いWin-Winになるかもしれない。彼らの中には若い人もいるので、もしからしたらロードレースの能力をつけてそっちで活躍できる選手も出てくるかもしれない。初めての機会で、こうやってイベントに呼んでもらえておもしろい経験でした」

別府匠監督「自転車全体のレベルが上がっている」

右が別府匠監督(愛三工業レーシングチーム)

愛三工業レーシングチームの別府匠監督は、現役時代に招待選手として2004~2007年に富士ヒルを走り、2007年には58分35秒のコースレコードをマーク。この記録は2016年まで9年間破られなかった。

その別府監督も「選手が前に来ないんだと思われるかもしれないが、数値的にも主催者選抜の選手たちが速いのは知っていたので、なるほどという結果。トレーニングに打ち込んだだけ結果が出る大会なので、ファクトリーチームは全日本選手権や自分たちのレースがある中で参加していて比べるのが難しい。今はトレーニング理論が周知されて、プロと同じトレーニングができたり、機材に関してもあまり差がないと思います」とコンディションの違いとともに、選抜クラスのレベルの高さを認めた。

また、15年ぶりに富士ヒルの会場を訪れた別府監督は、サイクリスト全体の層が厚くなっているとも感じていた。

「当時も盛り上がっていましたけど、普段から自転車やっていますという人が多く参加していた印象でした。今回は初参加の人が多いと聞いて、スポーツ自転車を始めている人がより増えているのかなと思います。その中で、自転車全体のレベルが上がっているようです」

今後の交流戦についても、選手たちと同様に前向きな考えだ

「今後も富士ヒルや乗鞍に我々が出てもいいのかなと思います。(UCI公認の)ニセコクラシックやツール・ド・おきなわなどは出られない(プロアマ混走できない)大会もありますが、JBCFやJCLの選手がこういう大会に出て、お互いに刺激を与えるのはいいことだと思います」

宮澤監督「違う競技で違うスペシャリスト同士が争う」

宮澤崇史監督(リオモ ベルマーレ レーシングチーム)

現役時代、北京五輪に出場し、海外での経験も豊富なリオモ ベルマーレ レーシングチームの宮澤崇史監督は「彼ら(選抜クラスの上位)を表現するのにアマチュア、ホビーレーサーという表現はしっくりこない。もちろん、プロではないけど、ヒルクライムのスペシャリストとは言えますね」とリスペクトを込めて表現する。

「予想通りというか、今日の場合は山岳スペシャリストの方が強いのはデータでもわかっていたこと。ロードの選手と山岳スペシャリストでは、戦っている場所がそもそも違います」

「海外では当たり前にあることで、180kmのTTならトライアスリートが一番速くて、30kmのTTならグランツールに出ているロード選手が一番速かったりする。そういう違う競技の中で、違うスペシャリスト同士が戦うのはおもしろいと思います。ヒルクライムでは日本の山岳スペシャリストにロードレースのトップ選手が勝てないというのは、選手たちにとっていい刺激になるんじゃないかと思いますね」

「逆のパターンで、池田(隆人)選手は今年うちのチームからJPTに参戦して、逃げに乗って先頭交代していたけど、途中で力が足りずに遅れてしまうことがあった。彼もいろんなトライをしているし、僕は両方のパターンを見ているのが、おもしろい。今後もこういう試みがあっていいと思います」

今中さん「富士ヒルをエタップ・デュ・ツールに」

今中大介さん

1996年に戦後初めて日本人としてツール・ド・フランスに出場した今中大介さんは、今回はLIVE中継の解説者としてこのレースを見守り、主催者選抜クラスの速さにあらためて感心していた、

「ヒルクライムに特化している選手の方が強い、パワーウエイトレシオではプロ並みの選手がいるというのがよくわかりました。昨年の東京五輪やツールに出ているようなクライマー、ポガチャル(ツール・ド・フランス2連覇中)やログリッチ(ブエルタ・ア・エスパーニャ3連覇中)が来たら話は違うかもしれないけど、しっかり準備してこないと対等に戦うのは厳しい。集団走行や技術的なところはロード選手のようにうまく走れないかもしれないけど、ZWIFTなどが広まって新しい状況になってきたなと感じました」

富士ヒル第1回大会の大会アドバイザーを担っている今中さんは、新たな可能性も見据えている

「コロナ禍が明けて、世界中からサイクリストが集まるような大会になればいいなと思います。昔、エタップ・デュ・ツール(ツールの山岳ステージのひとつを、市民サイクリストが走るイベント)に出たことがありますが、そのような広がりがあればいい。そのポテンシャルが富士山にもあると思います」

▷新たな才能発掘のきっかけに

今回はエキシビションの選手がトップコンディションではなかったというのは大多数の見解だが、逆に見ればトップコンディションでなければアマチュアのトップが上回ってしまうほど両者の差がわずかしかないことの証明でもある。

双方の大きな違いのひとつは、練習時間の多寡だと言えるだろう。しかし、ZWIFTのようなヴァーチャルで練習できる環境が広まり、パワートレーニングの理論も浸透した今の時代は、少ない時間でも効率的にトレーニングできるようになり、アマチュアのレベルアップがより進んでいるのだろう。そこには、プロサイクリストにとっても参考にできるノウハウがあるのかもしれない。

ヒルクライムとロードレースでは同じ自転車を使う競技でも違う競技・種目という考え方もあるが、世界に目を向ければワウト・ファンアールト、マチュー・ファンデルプールのようなロードレースでもシクロクロスやマウンテンバイクでも勝てるマルチな才能も、数は多くはないが生まれている。

今大会、オープンクラスで出走した東京オリンピック・自転車トラック日本代表の橋本英也選手(チームブリヂストンサイクリング)は、ほぼ単独走で1時間2分48秒(エキシビション6位に相当)という好タイムで余裕の完走を果たした。橋本選手はロードレース、競輪でも活躍し、富士ヒル直後にはアジア・トラック選手権に遠征してスクラッチで優勝を飾っている。もしヒルクライムに向けた練習をしていたら、どのようなタイムを出していただろうと想像をかき立てられるし、まさに日本が誇るマルチな才能を持つプロフェッショナル サイクリストと言えるだろう。

笑顔でフィニッシュした橋本英也選手(チームブリヂストンサイクリング)。それでも1時間2分48秒の好タイムをマーク

多くの選手、関係者が指摘していたように異なる得意分野を持つサイクリストたちが異なるフィールドで競い合い、刺激し合うことが、新たな才能、マルチな才能を持つサイクリストを発掘するきっかけになるかもしれない。
「あの選手、上りも強いんだ」「あの人がロードレース走るところを見たい」といった気づきの場としても、来年以降も富士ヒルの交流戦に期待していただきたい。

写真:小野口健太

Mt.富士ヒルクライム公式サイト:https://www.fujihc.jp/

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