2022年06月26日
[前編]【Mt.富士ヒルクライム】JBCF・JCLの選手も参戦!新たな試みを選手はどう受け止めたのか?
コースレコード更新こそならなかったものの、今年もハイレベルな高速レースが展開された本大会。結果としては「アマチュア」の主催者選抜クラスが上位を独占した。今回の結果を受け、来年はファクトリーレーサー勢もきっちり対応してくるはず。主催者選抜クラスとエキシビジョンレースとしての参戦という試みを中心に、ファクトリーレーサーの声をレポートします。
INDEX
▷全日本王者が背中で感じた選抜クラスの意気込み
▷一方で主催者選抜クラスの選手たちもエキシビションのスピードを警戒していた。
▷前回王者も苦戦、優勝争いの行方は?
主催者選抜クラス男子・エキシビジョンレース混走を制したのは!?
▷全日本王者が背中で感じた選抜クラスの意気込み
今年の『「富士の国やまなし」 第18回Mt.富士ヒルクライム』は市民レーサー最高峰の主催者選抜クラス男子と、JBCF・JCL加盟チームの選手からなるエキシビションレースが同時スタートする初の試みとなった。ファクトリーチームの選手と市民レーサーが同じ土俵でレースすることが、大きな関心を集めたが、レースを振り返りながら今後の交流戦の可能性についても考えていく。
主催者選抜クラス男子・エキシビションレースがスタートする6月12日午前6時30分、前日から夜通し降っていた雨は幸いやんでいたものの、路面はウェットで気温もまだ肌寒かった。富士北麓公園のパレードスタート会場では、エキシビションの選手が前方、選抜クラスが後方に整列した。
エキシビションの中で注目を集めていた一人が、白地に日の丸の全日本チャンピオンジャージをまとった草場啓吾選手(愛三工業レーシングチーム)だったが、「後ろ(選抜クラス)からものすごいオーラを感じた。自転車の重量制限もないし、機材からウェアからすべて勝つための仕様、ボトルもまったくつけてない人もいた。こだわり抜いている人たちの命かけの気迫を感じた」と選抜クラスのモチベーションの高さを背中で受け止めていた。
ファーストアタックからハイペースな展開
胎内交差点でリアルスタートが切られると、アタック合戦が始まり、一気にペースが上がった。草場選手が「バーンと行った瞬間から、えっ、このスピードで行くの? すげーな」と舌を巻くほどのスピードだった。
2021年全日本王者の草場選手はロードレース的な展開であれば、自らにもチャンスはあると予想していたが、結果は違った。「ツアー・オブ・ジャパンでふじあざみラインを走っていたし、過去の富士ヒルの動画を見て勾配は緩いと思っていたけど、甘く見ていた。いざ走って見たら、きつかった」
▷一方で主催者選抜クラスの選手たちもエキシビションのスピードを警戒していた。
昨年の富士ヒル王者で、この日も優勝候補筆頭だった池田隆人さんは「エキシビションの選手がどれだけこのレースに本気で臨んでくるかわからなかったので、とにかく序盤からガンガン行っていたのを積極的にマークしてました」と振り返る。
昨年、選抜クラス2位の加藤大貴さんも「混走となることで例年と違う展開になると思っていました。料金所手前からグイグイ行かれて、あれは逃してはいけないとついていったけど、脚に来たというか、序盤にあのペースで行かれると最後まで持たないなと思いました」と、やや戸惑いを感じていたようだ。
動画を見返すと、選抜クラスの選手たちが積極的に仕掛けているように見えるが、集団の中にいると見え方、感じ方が違ったのかもしれない。あるいは、エキシビション勢と選抜クラスのお互いが警戒しあうことで、序盤のハイペースが生まれたのだろうか。
リアルスタートと同時に飛び出したのは、2015年富士ヒル王者の中村龍太郎さん、豊田勝徳さん、井上凌さんら3人。これは料金所を越えたところで捕まるが、その後は池田さん、加藤さんら優勝候補が早くも集団前方で積極的に仕掛ける。エキシビション勢でも米谷隆志選手(リオモ ベルマーレ レーシングチーム)、佐藤光選手(稲城フィッツ クラスアクト)、そしてエキシビション優勝候補のトマ・ルバ選手(キナンレーシングチーム)らが、集団前方でペースを上げていた。
主催者選抜クラスのアタックで、エキシビションが遅れる
散発的なアタックで集団のペースは緩むことなく、30人、20人と徐々に人数を減らしていく。二合目付近ではルバ選手、米谷選手が徐々に遅れ始める。
ルバ選手は今年のツアー・オブ・ジャパン、激坂のふじあざみライン(距離11.4km、平均勾配10.4%)にゴールする富士山ステージで3位に入り、総合でも3位表彰台とその上りの実力は誰もが認めるところ。しかし、同じ富士山のヒルクライムとはいえ、この日は本調子ではなかったようだ。
「とてもハードだった。初めてこのコースを走って、いい上りだったけど、とてもきつかった。ツアー・オブ・ジャパンの富士山ステージとはまったく違うレース。あざみラインは急勾配だけど、こっちはそれほど急じゃない。またヒルクライムだけのレースだったので、スタートからとても速かった。僕自身、ツアー・オブ・ジャパン、ツール・ド・熊野の後で、コンディションが少し下がっていて、休養をとったばかりだった。ベストを尽くしたけど、彼ら(選抜クラス)が強すぎた。彼らの方が僕よりスペシャリストだったね」(ルバ選手)
活躍を期待されたトマ・ルバ選手は、エキシビション4位(1時間01分32秒)でフィニッシュ。「いい1日だった。この2~3年はコロナで大変だったけど、今日は多くの人と走れた。僕の結果はよくなかったけど、一番大事なのはレースを楽しんだことだ」と爽やかに振り返った。
キナンの僚友でエキシビション5位に入った元全日本王者の畑中勇介選手も、この日のルバ選手を擁護する。
「トマは上りは強いとみんな思うけど、彼が本当にレース集中したときはすごいし、今日とは違う走り。そういう意味では今日は彼も楽しんで走ったかなと思います」
また、最終的にエキシビション3位(1時間00分43秒)となった米谷選手も「出るからには淡々と自分のベストを刻むというより、勝負がしたい、先頭集団になるべくついていこうと思っていたんですけど、選抜クラスのみなさんがメチャクチャ速かった。20分ぐらいついていったところでオールアウトしました」と選抜クラスのスピードに脱帽していた。
序盤、選抜クラスのスピードに合わせたことでオーバーペースとなった米谷選手。「スバルラインが初めてで、ゴールがどこにあるか、どのへんで勾配が変わるか何も知らなかったので、追い込み切れなかった。でも、先着した佐藤君、選抜のみなさんには完全に力負け。またぜひリベンジをしたい」
リオモの宮澤崇史監督がその走りを分析する。
「(主催者選抜クラスは)予想していたけど、予想していた以上に速かった。米谷のペースは、スタートが一番速かった。1時間のレースの最初の10分で、彼の10分走の最大Wの10%落ちぐらいのスピードでした。完全に突っ込んでいる状態(オーバーペース)で、それで1時間持つわけがない。それぐらいのペースでトップの選手が走っているということですね」(宮澤監督)
「ゴールタイム的には3分半~4分ぐらいしか差はないけど、山岳スペシャリストのペースは序盤から攻めていくようなレース展開で、そこに差を感じた気がしました」(宮澤監督)
10km地点を過ぎると、優勝争いが絞られていく。加藤さん、伏兵的存在の真鍋晃さんがアタックし、ここに池田さん、前回3位の板子佑士さん、久保田翔太郎さんの3人が食らいつき、先頭は5人となった。
エキシビション勢で唯一残っていた佐藤選手もここで脱落した。
「ヒルクライムに出るのがそもそも初めてで、(主催者選抜クラスが)どういう感じで踏んでいくだろうと思いながら、ついていかないとJプロツアーの名が泣くなと思っていました。10km地点まではついていったんですけど、アタック合戦が激しくなったときに、集団の後ろにいて反応できませんでした」(佐藤選手)
最後まで粘っていた佐藤選手も10km地点過ぎで脱落。エキシビションでは実績ある選手の中で優勝(59分58秒)し、「うれしく思います」と話しながら、選抜クラスとの総合順位では10位という結果に「総合では負けているので、悔しいところではあります」と語った。
ほとんどがぶっつけ本番で富士スバルラインを走ったという選手たちはこの日のベストを尽くしたものの、主催者選抜クラス上位陣のスピードについていくのは難しかったようだ。
▷前回王者も苦戦、優勝争いの行方は?
先頭集団では三合目過ぎで久保田さんが脱落し、15kmすぎにはついには池田さん、板子さんも遅れ、先頭は加藤さん、真鍋さんの2人に絞られた。
昨年、56分21秒の驚異的なコースレコードで優勝した池田さんは、その後、UCIサイクリングeスポーツ世界選手権の日本代表にも選ばれるなど、自転車界で広く知られる存在となった。しかし、連覇のチャンスはここでくじかれた。
「前半で脚を使い切ったというのがあって、その後は頑張って食らいついてたんですけど、2人のペースアップについていけずに見送ってしまいました」と、前半にエキシビションの選手を警戒して対応したことが、裏目に出たのかもしれなかった。
昨年、池田さんと優勝争いを演じた加藤さんは「池田さんも途中苦しそうだった。真鍋さんと僕でローテーションしていたら、2人(池田さん、板子さん)が千切れました」と、ライバルが昨年ほど好調でなかったと感じていた。
これで、加藤さんの優勝のチャンスは広がったかと思われたが、新鋭の真鍋さんも手ごわい相手だった。
「(真鍋さんと)協調して一緒に行こうかという話になりました。途中で『余裕あるの?』と聞いたら、『まだ若干あります』と言われて、こっちはいっぱいいっぱいなのになと、そういう心理戦もありました」(加藤さん)
ローテーションしながら後続との差を広げていた先頭2人だったが、19km地点の山岳スプリット賞・STRAVAセグメントチャレンジの手前、勾配が跳ね上がる区間で真鍋さんがアタックすると、加藤さんは見送るしかなかった。
「最後まで行って、スプリントで勝負できたらと思っていたけど、最後の平坦入る手前の坂で真鍋さんに行かれちゃった。あらためて自分の脚力のなさを感じてます」(加藤さん)
真鍋さんが得意の独走で富士ヒル新王者に!
独走態勢を築いた真鍋さん。終盤の直線区間が向かい風だった影響もあり、コースレコード更新はならなかったが、57分07秒の見事なタイムで富士ヒル初優勝を飾った。
香川県在住の真鍋さんは、普段は1人でヒルクライムの練習をすることが多く、自分の実力がどれほど通用するかわからないままスタートしていた。
「速い人と走る機会はあまりなくて、序盤は人も多くて、気分が上がっていました。テンションがいつもと違って楽しかった」とエキシビションの選手との混走にもワクワクしていた。
前半は、自分に勝てるチャンスがあるとはあまり考えていなかったという。
「一合目はきついかなと思っていたんですが、追い風だったので自分が想像していたよりついていけました。意外と自分は余裕があって、周りがきつそうでした。優勝を意識したのは、加藤さんと2人になってから。小さな大会ではいくつか勝ったことがあるんですが、いつもアタックして独走に持ち込みたいタイプで、今回も同じような展開を作れたかなと思います」
昨年の富士ヒル参加後、ZWIFTを通じて結成されたチームEMUに誘われた。ZWIFT自体は「週に2回できたらいいかな」とそれほど頻度は高くないが、「機材やウエアのことをいろいろ教えてもらった。去年はダボダボしたのを着ていたけど、今回はぴったりしたウエアで、これを着てから速くなった」とチームメイトからの様々なアドバイス、情報交換も勝利の大きな一因だったようだ。
惜しくも2年連続2位となった加藤さんだが「僕自身、去年同様、積極的に展開を作っていきました。もともと勾配がきついコースが好きで富士ヒルは若干苦手意識があったので、2位で終えて自分の中では積極的に走れたと思っているので、満足かなと思っています」と清々しい表情を見せていた。
連覇が期待された池田さんは3位。「ちょっとはプレッシャーはあったかもしれないけど、自分自身は特に気負わずに、今日の日を楽しみにして、楽しんで走ることはできました」と自らの走りには満足していた。
富士ヒルでの混走を選手・関係者はどう見たか? ほか
後編へ続く
写真:小野口健太
Mt.富士ヒルクライム公式サイト:https://www.fujihc.jp/
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著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。
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