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2016年03月01日

サイクリストの意識を変える“サイクルセイフティーサミット2016”

2月29日、千葉県船橋オートレース場にてスマートコーチング代表の安藤隼人氏を発起人(実行委員長として白戸太郎氏/株式会社アスロニア、須田晋太郎氏/株式会社ウォークライド)として、サイクルセイフティーサミットが開催された。これは近年、自転車イベントで起こる落車 事故が増加傾向にあり、比例的に重傷事故にも発展するケースも増えていることが発端である。さらにそういった場面に直面する可能性が低くはない状態になり つつある。そこで的確な応急処置(ファーストエイド)ができる、知る機会としてこのサイクルセイフティーサミットを開催したのだ。

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安藤さんからの挨拶の後は参加者同士の”アイスブレイク”。イベントや大会のスタート前にも行なえば、集団走行中の雰囲気もよくなるだろう。

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4つのセクターに分けられたプログラムは、

1.安全確保と状況評価

2.初期評価とCPR

3.全身観察・詳細観察

4.処置と搬送

である。

落車事故が発生したら、まずは認知と認識を行なう。そして安全確保、状況評価、初期評価、全身観察、詳細観察および処置。その段階までに119番通報をし、救急隊の到着を待つ。これがフローとなるが、実際に行動に移すとなると、訓練を受けているのといないのとではまったく行動が変わってくるだろう。

 

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携行品の中にゴム手袋を忍ばせておく。処置の際に血液からなどの感染症を防止することができる。ホイッスルも二次被害防止に役立つ。それぞれはほんの数グラムのもの。

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事故外傷時は頸椎を保護する。腕による保持方法や、全身観察、詳細観察の方法を学ぶ。

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シナリオトレーニングでは、選手側、スタッフ側、救護側に分かれてそれぞれの立場に。講師を交えてディスカッションを行なう。

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心臓マッサージからAEDのトレーニング

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長元坊 バイシクルツアーズ 飛松巌さん。自身の経験談を元に講義を行った。

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エベレストに7回登頂、七大陸最高峰登頂などを達成した近藤謙司さん(アドベンチャーガイズ代表取締役、国際山岳ガイド)も駆けつけてくれた。

 

これらのプログラムを山岳医師、山岳ガイド、ランニングドクター、消防、自転車ツアーガイド、看護師という違う立場の経験豊富な講師によって講義が進められた。

講習内容はそれは濃厚な時間であった。豊富な経験を積んだ講師たちの話は尽きることはなく、おそらく単身であったとしても1日みっちりと受講できる内容だ。今回は駆け足ながらファーストエイドの流れを知る良い機会となった。

講習を終えた講師のみなさんからの言葉を届けよう。

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平泉裕先生 昭和大学病院 整形外科医・ランニングドクター

私が一番やってきた領域をそのままやっていただけたので、自然に身体が動けたと思います。このような機会をもっと広めていただき、皆さんがファーストエイドでリーダシップを撮ると言うところまで。予見と言いましたけど、いつも予測しているというのは大事ですが、いざ起こると対応できないこともあります。今回行なったことをいつも考えていれば、いざ遭遇したとき完全に違う対応がとれると思いますので、ぜひこれを広めていってほしい。

 

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大城和恵先生 北海道大野病院 循環器内科医 国際山岳医

大会運営と登山の違いを考えたんですが、最近はきちんと人が登れるように安全管理をしないと管理側に問題があるのではないかと言われてしまいます。なので運営をする人の立場のような感じです、私も一登山愛好家なんですが、登る前に自分に言い聞かせるのは、自分が入った以上、その地域の救助レベルは理解して入るべきだろうと思います。山のことでファストエイドの講習会を開いていますが、応急処置を教える以上に予防することを主眼にしています。事故が起きないようにするにはどうすればいいのか、ということを考えていかないと事故は減らないです。人を助けるということ同時にどうやって予防したら良いかという啓発を進めていけると良いと思います。

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橋隅和明さん(横浜消防自転車チーム員 横浜消防司令・実業団登録選手)

事故の現場、現場にいる皆さん、救急隊や消防隊、ドクターへリなどの連携を上手くつかっていけばもっと助けられる人は多くいると思います。皆さんも、私たちも含めもっともっと勉強して救える命をもっと増やしていきたい。

 

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講習のスタッフとして参加した宮澤崇史さん(元プロロードレーサー)

ロードレースはなにが起きるかわからないという特長をもったスポーツだと思います。助けられる側、助ける側、見ている人たち。すべてを巻き込んで救助というものだと思う。皆さんは別の会場やレースで会うこともあると思います。今日顔見知りになったことがきっかけになりコミュニケーションを作っていくことで、今後も同じ意識を共有できるのではないかな、と感じました。

 

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サイクルセイフティーサミット発起人の安藤隼人さん(スマートコーチング)

宮澤さんが言ったようにもっともっとこういう輪を 広げ、東京オリンピックがゴールではなく、その先の自転車文化の発展、を今のうちから考えていかないと遅いかなと思っています。その中のひとつとして ファーストエイドです。また大城先生がおっしゃったように、コーチとして選手からアマチュアまでどうしたら落車しないかということも当然お伝えしていま す。この2本立てが必要になってくると思います。今後、みなさんと第2回、3回と開催できて、こうした輪を広げていって、自転車界の中央を動かせていけたらいいか な、と思っています。

 

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2014年、MTB全日本選手権で頸椎を損傷し、肩から下の感覚を失ってしまった、元MTBプロライダー新谷直也さんが当時の様子をふまえ、ファーストエイドの知識の重要性を語ってくれた。落車当時、現場に居合わせた方に知識があったことで、命をつなぎ止めた。当事者しかわからない辛さや焦りを語ってくれる。転倒して倒れていてもレースは続いていく。10番手前後を走っていて、コンディションもよく手応えあがった。そんな中の落車だった。横になっている脇をどんどん選手が抜かしていき順位が落ちていくことに焦りを感じたという。40人の参加者への言葉として新谷さんはこう話す。「僕のこれからの活躍についてですが、このリハビリに関してはゴールが見えない戦いが続いている。このような場で、僕が経験したことを伝えていく。第二の新谷を作らないように。競技では難しいかもしれないが、僕が伝えられることは伝えていきたい。できるかぎりレース会場に脚を運びたい。僕の状況は、ぱっと見は車いすに座っているだけの健常者と変わらないように見えますが、基本的に1人で外出することができません。手の麻痺が強いので自分で車いすを動かすことができないのです。専用の杖があれば200mくらいは歩けます。足元の安全が確保されていればですが。一番苦しいのは排泄です。自分の意志で行なうことができないのです。こうしてこの場所に来られて、外の空気を吸えて、リハビリをやりながら、次の目標を見つけていきたい」。

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ファーストエンドを学んだからといって、いざ事故に直面したときちゃんとした処置がとれるか。その行為が人の命を左右してしまうことになるのではないか? だが、新谷さんは言う。「事故現場に対峙したとき、どうしても恐れてしまうと思います。本来できること(介助)もできなくなってしまうので、思い切ってやってほしいですね。ここで学んだことを活かしてほしい。ショップやイベントを催している方には、どんな小さなイベントでも最悪の場面を想像して運営してもらえると、もっと変わっていくと思います」

身につまされる。だが新谷さんの気持ちを本当に理解できただろうか。ファーストエイド、そして予防措置。この2つの重さを知ることができたイベントだった。

 

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なお本サミット参加コーチやショップ関係者には、安全対策に意識のあるセイフティーコーチ、セイフティーショップとして、実行委員会認定の参加証明ステッカーとデジタルアイコンを発行している。


(写真:サイクルセイフティーサミット)

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