2022年11月01日
野辺山グラベルチャレンジ2022から推察する国内グラベル事情
10月最後の週末、長野県南牧村、滝沢牧場をメイン会場とした広域サイクリングイベント、野辺山グラベルチャレンジが開催された。ラファスーパークロス野辺山の弟分のイベントとして2019年以来3年ぶりの開催となった。
待ちに待った3年ぶり開催のグラベルチャレンジ
2日間の日程で、1日目は75km(ショートコースは45km)、2日目は60kmコースと、別種目のグラベルランニングというバラエティ豊富なグラベル遊びを提案。
今回はグラベルバイク・MTBなど未舗装路の走行に適したバイクを駆る290名の参加者を集めており、おそらく国内でも最大規模といえるグラベルライドイベントといえる。このイベント自体はレースではないが、コースの一部区間計測でのタイム順位を競うというイベント内イベントのあるクラスがあり、タイム計測では多いに盛り上がりをみせる。また計測なしのフリーの部門もあり参加者は思い思いのペースでチャレンジングなコースを堪能したようだ。
野辺山といえば標高が高く、この10月もとなれば冬に向かって季節もより進んでいる。当然気温も低地にくらべて非常に低くなるが、美しい紅葉が彩る風景と絶好の晴天に恵まれ、寒さも感じにくく非常に走りやすいコンディションだったといえる。
1日目はロングコースでグラベルは5ヶ所(5つのセクター)が設けられていて、いずれも上りか下りというレイアウト。「想像以上にハード(笑)」という、もはや笑うしかない参加者の姿も。
それもそう、会場の標高は1300m以上で、そこからさらに標高を重ねて空気の薄さも感じる。距離は75kmと距離は短めだが前述した上りも多く獲得標高は2000m以上。しかも未舗装を多分に含み、加えてダートタイヤであることから、ロードバイクで走る場合よりも相当負荷が高い。感覚では1.5倍から2倍の距離・時間を走行している印象になるだろう。そう考えるとなかなかボリューム満点の内容だ。
女性参加者の一人は「700x32cのタイヤで走ったのですが、上りは良かったけど下りはもう少し太めのタイヤが欲しかった。手が攣りましたね(笑)。2日間とも景色もよくて、普段走れないところなどもありとても爽快でした。ルートの分岐点を示すアローサインわかりやすかったですね。ルートのデータ(GPX)も公開されていて安心でした」。と楽しめた様子。
主催者の矢野大介さん(ラファレーシング)にお話を伺った
ラファスーパークロス野辺山(シクロクロス)は敷地内で完結しているイベントだからもっと南牧村・野辺山周辺のいいところをもっと見せたいよね、というのがきっかけ。人数的なキャパもないし、それでどういうところで野辺山らしさを感じてもらえるか、というとやっぱりグラベルということになります。そこでちゃんとしたグラベルイベントを開催できるだろうということで開催しました。
日本のグラベルは、北海道は例外として、どこも山の中になってしまいアップダウンが多くなってしまいます。それはどこも一緒ですが、この野辺山の標高の高さはユニークなポイント。ところどころ植生も山岳っぽくて洗練されていますから、非常に景色が素晴らしい。そこを見せたい。今回では特に2日目のコースはそういうポイントを感じさせるレイアウトにしています」。矢野さん自身も南牧村に拠点を置き、サイクリストとしてこの地域の魅力とサイクリングの楽しさを啓蒙している。グラベルを組み込んだイベントについても造詣が深く、また海外のグラベルシーンの今を日本のサイクリストの皆さんにネットワークを通じて伝えている。
今後のグラベルシーンは?
国内のグラベルシーンにおいてはまず走行する場所をキープすることが非常に難しく、代表的なグラベル走行イベントとしてはニセコグラベル、そしてこの野辺山グラベルチャレンジなど数えるほどしかない。
グラベル大国アメリカ合衆国で開催されているグラベルイベントというとイメージとしては当然クライムもあるが「平地の未舗装路」が延々と続き、平均スピードも高くツーリングのように楽しむことができる。一方で日本の「グラベル」というと、日常的に走れる場所は山の稜線を繋いでいてアップダウンを多分に含む林道であることが多い。
またそうした林道が通行規制されている場所の方が多いが、イベントともなれば許認可によっては、普段走れない林道をコースとして使えるので、それだけでもイベントに参加する意義となる。
国民性かヒルクライムカルチャーもあってか、上り+グラベルという組み合わせに関しては、参加者の様子を見ていると、悪態をついてもむしろそのシチュエーションを楽しむという奥ゆかしさを感じさせた。あるいは欧米人と比べて比較的小柄で軽量な民族なので上りを苦としていないのだろうか、という考察もしてみたが安直であるのは理解しているのでぜひこの辺りの親和性については有識者に検証をしていただきたい。
先日開催したグランフォンドピナレロ八ヶ岳では、走行距離117km、グラベル区間15%ほどのグラベルフォンドを開催したが、走行できるグラベルルートを組み込むことが非常に難しいことが関係者の話から伝わってくる。この場合もやはり上りか下りというシーンばかりであった。
そういった「走れる場所」は日常的に森林作業道として用いられているケースが多く、土砂の流出を避けるために砕石が敷き詰められていたり、水切りの大きな横溝が設けられていたりと”管理された道”を、間借りさせていただいている状況だ。実際に作業車両も多分に通過するので自転車が走行したところでそういった作業林道が大きく崩壊ことはないだろうが、路面の保持という観点は一般公道を利用していると同じかそれ以上の意識をもって走りたい。
前述もしているが一度道を逸れると市有地であったり、国有林で走行不可という場所も非常に多い。気分良く走れそうな場所に限ってそういうケースも多いので、ルールとマナーを遵守し節度をもって楽しみたいものだ。
また近県ではそういった林道を利用してサイクリングしやすいルートを検討する動きも見られており、グラベルライドの将来は決して暗いわけではないだろう。
野辺山グラベルチャレンジは、グラベルカルチャーを日本に伝える実に正統派なグラベルイベントであった。ただし「グラベル」の走行は自己管理を求められるシーンも多分にあるので100%堪能するためには、しっかりと準備=トレーニングと、機材のチェックをして臨むべきである。
関連URL:野辺山グラベルチャレンジ2022
https://sites.google.com/nobeyamacyclocross.cc/gravelchallenge/
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得