2018年01月17日
【RIM BRAKE】いまだからこそ知りたいカーボンリム用ブレーキパッド インプレッション
世界中ディスクブレーキ ロードバイクの話題で持ちきりだ。もはやリムブレーキは駆逐されてしまうのだろうか。100年以上もほとんどその構造を変えなかった規格はそう簡単に無くなることはないだろう。軽量かつこれまでの技術の蓄積もあるので、むしろハイエンドな機材として残るのでは? なんていう考察もできる。
ブレーキとカーボンホイールとの組み合わせとしてはリムブレーキはディスクブレーキよりもセンシティブだろう。ディスクブレーキはリムとの干渉はないが、直接リムに接触させて摩擦によって制動するのがリムブレーキだ。金属よりも熱を持ちやすく耐熱性も低い樹脂とカーボンファイバー製のリムにとっては大いなる問題だ。ブレーキが効くということは摩擦力を十分に発揮しているということ。その副産物として熱が生まれるので耐熱温度を越えれば樹脂がダメージを受ける。さらに、内部のチューブにも影響を及ぼす。しかし効かないブレーキパッドをつけるわけにもいかない。だったらリムを強化するか、ブレーキ本体かリムに放熱性を高めるという方法をとる必要があるだろう。とはいうものの開発者に失礼ではあるが、カーボンリムの耐熱性に関してはここ10年ほどで、満遍なくわりと「マシ」になったという雑感はある。かつてはクリンチャーのアルミリムでも熱でリム部分がペロンと広がったことがあったので、それを考えると「マシ」だ。制動力にかんしては、ドライなら「マシ」だが、アルミリムのそれには到底敵わない。ウェットコンディションとなると、メーカーによって制動性能におおきくバラツキがあるという印象はある。とはいえ悩みのレベルが、破損から不具合程度にまで抑えられているのは、各企業の努力の賜物といえそうだ。
コンポーネントメーカーももちろんカーボンリム用ブレーキパッドを用意しているが、相性という問題は常につきまとうのだ。
あのホイールは止まるのに、このホイールはダメと。色々と試してみたいし、どんな傾向があるのか知りたいという人のために、あえてこの時期にこの企画にチャレンジしてみた。ディスクブレーキ用のパッドだってレジンやらメタルなどといろいろあるけれど、リムブレーキほどに多様なメーカーのブレーキパッドは存在していない。
こんなに試せるなんて、リムブレーキだからこそ、ですよ!
今回は4ブランドに絞ってテストライドを実施。サイクルジャーナリスト・菊地武洋、山本健一の両名のテストライダーはそれぞれの愛車にライトウェイト・マイレンシュタインで統一。
使用機材(抜粋)
菊地武洋
バイク:タイム スカイロン アクティブ
ホイール:ライトウェイト・マイレンシュタイン
ブレーキキャリパー:前後/シマノ・デュラエース
タイヤ:ハッチンソン・フュージョン5チューブラー 25mm
山本健一
バイク:ルック 795 エアロライト
ホイール:ライトウェイト・マイレンシュタイン
ブレーキキャリパー:前/ルック・HSC7 AeroFork 純正Vブレーキ 後/シマノ・デュラエース ダイレクトマウント
タイヤ:ヴィットリア・コルサG 23mm
(右上)アシマ/カーボンリム用ブレーキパッド、(右下)コリマ/アブソリュートブレーキパッド
(左上)スイスストップ/ フラッシュプロ ブラックプリンス、(左下)BBB/カーブストップ
Talk – 山本健一
ブレーキパッドに気を配ったことはあるだろうか? アルミリムを主に使っているユーザーはあまり気にならないと思うが、カーボンリムを複数所有しているようなブルジョア、あるいは筆者のような物好きは本当にパッドとリムの相性には悩まされる(はず)。ホイールとパッドはおおよそセットで交換しないと気持ちよく走れない、というなんとも不自由なのがカーボンホイールの贅沢な悩みといえる。そのアンチテーゼとしてディスクブレーキが普及するならば、大手を振って歓迎したい。とはいえ手持ちのホイールや機材を消耗しないうちはおいそれとは移行できないので、しばらくリムブレーキとの関係は続きそうである。
話題が逸れたがとにかくカーボンホイールの銘柄やモデルによってブレーキパッドの相性があるのはご存知のとおり。主に表面処理に依存しているが、放熱性なども強く関係しているだろう。冬は良かったけど、夏になると相性が悪いな、なんて思う組み合わせもあった(ゲレンデマジックか)。ざっくりとはしているが、長年の経験からすると表面にクリアがかかっているカーボンリムはコルクタイプが、ザラザラとしたリム面の場合は、樹脂タイプとの相性がいいように感じる。またブレーキキャリパーの剛性も大きく影響している。高級品が良いとは言わないが、ブレーキキャリパーへの投資は惜しむべきではないと筆者は考える。
リムとパッドの相性が悪い場合にはバイブレーションが発生することが多い。剛性の高いキャリパーはなんとか抑え込むが(それが良いことではないけれど)、そうでない場合はブレーキのたびにケタタマシイ音が発生し、周囲にいる人たちを振り返えさせるというチートな能力を発揮してくれる。もちろん想定する制動力は発揮できないし、そんな性能は必要ない(笑)。しっかり止まれてこそ、速く走れるし、鋭く曲がれるのだ。もちろん整備が行き届いていることが前提とはなるが、止まれないな……、怖いな…..と思ったら、“まず”ブレーキパッドを交換してみるといいだろう。
IMPRESSION & SPEC
BBB カーブストップ
問:ライトウェイプロダクツジャパン https://www.riteway-jp.com/pa/bbb/205109.htm
価格:2,800円(4個入り、税抜)
スペック:カーボン製リム用のハイ・パフォーマンスのブレーキパッド。従来のパッドと比較して、特殊なコンパウンドで高い制動力と非常にすぐれた耐久性。過熱を防止し、過酷な天候下でも高い制動力を発揮する。また制動表面にブレーキの汚れを残さない。
●シマノ105、アルテグラ、デュラエースに対応。
初めて純正以外のブレーキパッドへ交換しようと思っているなら、BBBの製品を試してみるというのは賢明な選択だ。なぜならカーブストップは全体的にマイルドな傾向にあるからだ。長期間のテストではないので初期性能に関していえば、制動力はレバーのストロークに忠実で、いきなりストッピングパワーが立ち上がって怖いと感じることはない。また、摩耗も早めなのでリムに対する攻撃性も低い。パッドの全高はあるほうだが、中空構造なのでリムに当たってからのソリッド感は高くない。より高い制動力を求めている人には物足らないと感じる人もいるだろうが、純正よりも少し制動感を抑えたい人には試してみる価値があるだろう。(菊地)
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白く化粧しているブレーキパッドで、見た目にも印象的。カーボンリム用としてはリーズナブルな価格だ。BBBは総合的にパーツを手がけるメーカーだが、手抜きはなく良くできた製品に仕上がっている。ホルダーへのパッドの装着も容易。コンパウンドは硬めの印象だが実際に使ってみると、コルクベースのパッドまではいかないが思ったよりもソフトタッチだった。だがブレーキレバーの握る力にたいして比較的リニアに制動力が立ち上がるので、ノーマルのパッドに近い使い心地である。(山本)
CORIMA アブソリュートブレーキパッド
問:トライスポーツ http://www.trisports.jp/?q=catalog/node/4400
価格:5000円(4個入り、税抜)
スペック:カンパ / シマノ / シマノ ダイレクトマウント に対応。カーボンリム用。これまではコルク100%だったが、異なる材料を少し混ぜることでパッドが柔軟になり、ブレーキ時の音も小さくなるように改善された。また、パッド自体も割れにくくなっている。ブレーキ面が摩擦の影響で照かってきたら制御能力が落ちるので、表面に軽く紙やすりをかけることで性能を維持できる。
カーボンリムがメジャーになってから定番商品として安定した人気を誇るコリマ・アブソリュート。硬度が低く、リムにパッドが当たってから制動力を発揮するまでに、不感帯域ともいえる領域がある。激坂の下りで、加速させないために当て効きをさせる場面などでバイクコントロールがしやすく、制動力が高まってきてからの安定感も高い。今作は純コルクから進化し、旧来よりも初期制動の立ち上がりが早くなった。制動力重視のエキスパートには満足できないかもしれないが、多くの人にとってはコントロールしやすいパッドだ。雨天や絶対的な制動力が求められるシーンでは少々物足りなさを感じるが、それは粗探しレベルの話。晴天時のほとんどシーンで不満を感じる人はいないだろう。(菊地)
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フルカーボンホイール黎明期から存在しているカーボン用ブレーキパッド。20年以上前の初代は黄色だった。コルク製でリムに優しく天候問わず一定の制動力が得られるので、このロングセラーにも納得できる。類似したパッドがいろいろなメーカーから発表されている背景もあり、最新モデルはついに改良が施されたようだ。一見して変わりはないが、明らかにリムにタッチしてから制動力が発揮されるまでのレスポンスが良くなった。かつては摩擦音が聞こえ始めてやや経ってから制動力が立ち上がっていくイメージで、少し強く握ると焦げ臭い匂いが立ち込めたものだ。現行品は、よりダイレクトに操作できるようなイメージで、焦げ臭くなるまで強くレバーを握らなくてもいいし、コーナーでのスピードコントロールが圧倒的に楽になった。繊細なコントロールにも反応がよく、このリムとの相性も抜群によかった。(山本)
ASHIMA カーボンリム用ブレーキパッド
問:マルイ
価格:1,836円(左右セット、税込)
スペック:シマノ・デュラエース7800に対応。57mm幅。2種類の素材を使い、パッド内部を中空にすることで、強度を損なわずに軽量化・放熱性を高めた。ウエットコンディションでも高い制動力を発揮する“PRO-CAC”コンパウンドを採用。ホルダーの厚みを抑えたワイドリム対応タイプ。
ブレーキパッドでチューニングするときに、もっとも肝心なことはパッドを常にフレッシュな状態にしておくことだ。フレッシュとは表面の焼き付きを研磨し、パッドが硬化する前に交換する。当たり前のようだけど、ほとんどの人はこれが出来ていない。評判の高い製品でも古くなると性能を発揮しない。だから、パッドのコンディション管理は大切だし、コスト面で優位なアシマのパッドを頻繁に換えるのも悪くない。パッドの性能は硬度が高く、カチッとしたフィーリングが好きな人向けだ。制動力自体はシマノの純正(R55C4)よりもマイルドで初心者にも扱いやすい。パッドに施されたサイピングの効果は体感できなかったが、雨天時やロングダウンヒルで違いが生まれるだろう。(菊地)
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かなり手の込んだ作りのブレーキパッドだ。かつてはホルダーへのパッド装着は、憂鬱になるほど手のかかる作業だったが、このパッドは非常にスムーズに着脱できる。パッドはホルダーに収まる部分に強化樹脂を用いており放熱性に長け、さらに付け外ししやすい。パッド部分にはタイヤのサイピングのような加工が施されており、水はけがよさそうだ。また蓄熱もしにくそうで、カーボンリムへの攻撃性も抑えられるだろう。ベースが樹脂であることなどもあり、フィーリングは硬め。カチッとした操作感が好みなら、フィットするだろう。ホルダー付きでこの価格はまさにバリュープライス。(山本)
姉妹品のカートリッジ ブレーキシューセット。こちらもPro-CACコンパクンドを用いたカーボンリム用ブレーキパッド。カンパニョーロ レコード、コーラス、ケンタウル(いずれも10S)に対応。価格は1836円(税込)
SWISS STOP フラッシュプロ ブラックプリンス
問:フタバ商店 http://www.e-ftb.co.jp/Item?syohin=7640121222139
価格:5,800円(4個入り、税抜)
スペック:シマノ ロード全モデル/スラム ロード全モデル/CAMPA Potenza 2016、Athena 2016、Veloce 2016に対応したカーボンリム用ブレーキパッド前後セット。従来のイエローキングより摩擦熱を低く、ウエット時でも高い制動力を発揮するカーボンリム用のブレーキパッド。ブラックカラーを採用したことでリムへのマークが目立たなくなり、使用寿命を伸ばすことに成功。検証データによると、濡れた路面上で60km/hからの制動距離で比較した場合、121mを要するイエローキングに対しブラックプリンスは90mで停止でき、摩擦による温度上昇の低減も果たした。従来のモデルよりコンパウンドがハードなプロフェッショナル仕様となるため、ブレーキを握る際により強い握力が必要である。
チューンナップ用高性能ブレーキパッドと言って、ほとんどの人が最初に思い浮かべるのがスイスストップ社だろう。その頂点に立つのがブラックプリンスだ。パッドの硬度が高い分だけ、レバータッチはしっかりとしていて、高速から低速まで安定した減速を可能にしている。ただし、フロントフォークやフレーム、ブレーキ本体にかかる負担も小さくない。高級レース用タイヤをはじめとする必要条件が整えば、ブラックプリンスはすばらしい能力を発揮する。逆に、ライディングスキルやテクニック、ハードウエアが揃わなければ、急に制動が立ち上がるコントロールしにくいブレーキになる。とはいえ、正確にブレーキを手なずけられる上級者にとっては魅力的な劇薬だ。雨天時も扱いやすく、耐摩耗性も高いので5800円を高いとは思わないだろう。(菊地)
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文句なしのパフォーマンス。プロも含めて世界中で支持されているだけのことはある。最高のレスポンスの良さで、クイックに操作できる。筆者のホイールにおいては、ただし装着角度など入念に調整しないと制動力をしっかりと発現できなかった。それは音鳴りとしてはっきりと表現されるのでわかりやすくはああった。しかし正しく装着すれば、最高のスピード感を楽しめる。カチッと止まってくれるし、経験上雨天時もパフォーマンスが高い。仕事をさせればそれだけ磨耗するのも早い。特に、よく効くブレーキパッドはレースの後には必ずチェックをいれよう。高価ではあるが、それだけの価値はある。(山本)
“走る、曲がる、止まる”に順位をつけるなら、間違いなく“止まる”が最優先される。たとえば、一時期、エアロバイクで変則的なブレーキが流行ったものの、すぐに姿を消したのを覚えている人も多いだろう。あれは空力よりも“止まる”ことがいかに重要かを物語るエピソードの1つである。速く走る=高いブレーキ能力というのは、自転車に限らない話だ。しかし、大切なのは無闇に制動力を高くすることじゃない。自分のテクニックに応じて、スピードをコントールしやすいように自転車をチューニングするのを目指そう。その第一歩として、もっとも手っ取り早くフィーリングを変えられるのがブレーキパッドの交換だ。値段も手頃だし、効果もわかりやすい。是非とも試してほしいが、その前に注意すべき点が1つ。純正品以外を使えば、ホイールやコンポのメーカー保証は適用外になる。特にカーボンリムの場合、発熱によってリムにダメージを与えてしまうこともある。アルミにしても、リスクがないとは言えない。でも、ブレーキに纏わるトラブルはスピードコントロールのミスが圧倒的だ。言い換えれば、思うようにスピードを扱えれば落車のリスクは大幅に改善される。ディスクブレーキ時代が到来したが、その理由は制動力アップではなく、コントロール性の向上にある。ブレーキのチューニングは複雑で簡単ではない。しかし、それを学ぶことで得るモノは、あなたが想像するよりも大きいだろう。コツはブレーキレバーの動かし方に集中すること。現状で走ったあと、すぐにパッドの表面を削って乗ってみる。どれだけの差が出るかわかれば、新しいパッドへの興味も湧いてくるはずだ。
写真;海上浩幸 文:菊地武洋、山本健一
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得