2016年07月23日
3モデル インプレッション Vol.18/ANCHOR RT9(タイムトライアルモデル)
ANCHOR / RT9
全日本選手権エリート男子個人タイムトライアル制覇バイク。昨年リリースされたばかりだが、ビッグタイトル奪取に貢献した。一見するに海外メーカーがリリースするタイムトライアルフレームよりも質素な作りだ。だがジオメトリーや内に秘めたこだわりは如実なパフォーマンスへ繋がっている。限りなく低重心、高剛性であることを目指した理由は、タイムトライアルバイクに求められる高速安定性を高めるため。フォーク、ダウンチューブ、チェーンステーの剛性を高め、さらにチェーンステーを左右非対称形状として駆動系パーツ側の剛性をより高くし、確実な駆動力を獲得。シフトは電動変速のみ対応。バッテリーはBB下からフレームに内蔵する構造で低重心化にさらに貢献する。日本人女性ライダーにもフィットするSSサイズも用意している。
RT9■フレー ム:RT9 FRAME Aero HM-Carbon インテグラルヘッドPressfit BB■フォーク:HM-Carbon カーボンコラム+アルミインサート■試乗車のコンポーネント:シマノ・デュラエース■ホイール:シマノ・WH-9000■フレーム単体重量:1,900g(Mサイズ)■カラー:レーススタイル1色、エッジスタイル33色(一部アップチャージあり)■サイズ:SS、S、M、L■価格(税抜):410,000円(フレームセット、付属品:ヘッドセット、ANCHOR Aero-Aluminium TypeTT 75L(ステム)、ANCHOR Aero-CarbonTypeTT(シートポスト)、専用チェーン引き、マニュアルバック)
縦扁平しているバックステイ。標準的なフレームデザインからはややオフセットした位置に設けられる。
ストレートフォークはダイレクトマウントブレーキを搭載。ブレードもエッジが利いているエアロフォークだ。
IMPRESSION
前へ前へと気持ちを盛り上げてくれる■菊地武洋
僕はTTレースに出た経験もなく、試乗した数も少ない。なので、初めてTTバイクを買おうとしている人を対象に話をしましょう。今、TTレースに出場していてニューバイクを探しているなら、山本くんの評価を読んでください。さて、私の数少ない経験の中で、RT9は乗りやすいバイクの1つである。路面から振動が容赦なく伝わってくるが、ある程度は割り切りが必要。このレベルなら許容の範囲内でしょう。コントロール性にしても悪くはない。極端に前乗りになりすぎず、それでいて高トルクペダリングがしやすいのも美点だ。前へ前へと気持ちを盛り上げてくれる感じは、この手のバイクを買おうと思っている人にはたまらないはず。そもそも贅沢な存在なので、あまり金額の話をするべきではないかもしれないが、50万円以上が多いTTバイクの中では価格も安めだし、初めての1台としてはいい選択だろう。コンポはDi2専用となるが、用途やシェアを考えれば問題にはならない。むしろ、ダウンチューブのBB寄りにバッテリーホルダーを設けて、重心位置を下げるといった工夫が魅力とさえ言える。ジオメトリーを見ていくとフレームサイズは40㎜刻みのようだが、SとMに分水嶺がある。フォークオフセットはXSとSが50㎜,MとLは45㎜。同様にBB下がりも5㎜も違う。対象ユーザーの多いサイズなので、該当するユーザーにとっては悩ましいところだろう。
扱いやすさ抜群◆芦田昌太郎
DHハンドルに深い前傾姿勢、そしてこのフレーム形状。紛うことなく、これはタイムトライアル車である。一般的にこの手のものはTT専用車であり、限定的な状況下でのみ真価を発揮するものであるはずだ。しかしこのRT9はどうだろうか。勿論タイムトライアルに必要な性能は十分に備わっているし、速度が上がればポジショニングと相まってアゲインストにも耐える。バイクの反応も速く、安定感もある。そして何より立ち上がりの加速が良いのだ。まるでエアロロードに乗っているのではないかと錯覚してしまうほどだった。例えば「タテトラ」のようなコーナーの多いトライアスロンにおいて、このバイクを選択することは賢明な判断と言えよう。このフレームにドロップハンドルを組んで富士チャレのようなサーキット・エンデューロに出場したら速いだろうなぁ、超エアロロードだ!……なんて自転車バカ的妄想ばかり膨らんでしまう。それだけこのRT9の完成度が高いということなのだろう。
シンプルさに好感触★山本健一
タイムトライアルバイクはDHバーに肘を乗せて上半身を預けるというライディングフォームだ。よって重心位置も通常のロードバイクより前重心となる(極端な前重心はNGですが…..)。さらに高速巡航を要求されるので、安定性にも長けている必要がある。そういった意味で安定性を重視し、機敏な操作が必要なロードバイクとは一線を画すジオメトリーとなる。とくに下りでのスピード感と安定性はロードバイクでは得られないものだ。しかしながら小回りの利かなさなどは少しハンドリングがダルに感じることもあるはずだ。そういった点ではRT9は実に考えられていて、30km前後の低速時ではハンドルが切れ込むこともなく軽やかなハンドリングに感じられた。実際のところ試乗車のフレームサイズがSだったというところも影響していると思われるが、ポジショニング自体は写真を見ていただければわかるように悪くはないはず。そして昨今のタイムトライアルフレームに見られるケーブルが露出していることが悪のような風潮が見られるが、メンテナンス性とエアロダイナミクスにおける妥協点ギリギリに収めているのがRT9だと思う。つまりは扱いやすくてエアロダイナミクスに大きな影響を与えない設計。そもそも各社が公表しているホワイトペーパーに記載されるエアロダイナミクスの数値は各社独自の算出方法であって目安程度と判断していい。もちろんRT9にも同様のことがいえるのは間違いないのだが、色々なバイクを見てきた上では、この形状設計で十分ではないかと思わせる。ライディングフィールもTTバイクにありがちな重い踏み出しではなく、しなりはあるが軽やかに進んでくれるのが心地よい。フレーム剛性は標準的なレベルであるが、適材適所でバランスを取っているような雰囲気がある。シンプル(に見える)でパーツアッセンブルで悩むこともなさそうだし、極限デザイン唯一の欠点である”流りと捉えられる”こともなく、そのフォルムは長年色あせることもないだろう。なにより日本タイトルを奪取した日本ブランドのバイクとしての貫禄が良い。現在、追い風まっただ中にあるTTフレームといえそうだ。
(写真/和田やずか)
問:ブリヂストンサイクル http://www.bscycle.co.jp/
著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。