2025年05月26日
ツアー・オブ・ジャパン日本人総合最上位! 富士ヒル3連覇を目指す金子宗平が挑んだ未知の戦い

国内最高峰のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン2025」が、5月18~25日の8日間・8ステージで開催。国内外から有力選手が集まる中、日本人トップの総合10位に入ったのは、Mt.富士ヒルクライム2連覇中の社会人レーサー、金子宗平(日本ナショナルチーム)だった。
富士あざみライン初挑戦で日本人トップ!
普段は企業で働きながら、群馬グリフィンで活動する金子。Mt.富士ヒルクライム(富士ヒル)では2023~24年と2連覇中で、全日本選手権タイムトライアルでも2度の優勝を飾るなど国内を代表するロードレーサーのひとりだ。


しかし、これまでステージレースの経験はツール・ド・北海道の3日間が最長で、8日間のツアー・オブ・ジャパン(TOJ)は未知のレース。それでも初日の堺ステージの個人TTで12位に入ると、その後も総合10位前後をキープする。
勝負どころとなる6日目、富士山ステージ終盤の富士あざみラインは、距離11.4km、平均勾配10%の激坂。富士ヒルのコースとなるスバルライン(距離25km、平均勾配5.2%)とは異なる厳しさを持つ。金子は事前に長野県で行った合宿であざみラインを想定した練習を行っていたものの、実際に上るのはこの日が初めて。にもかかわらず、日本人トップの12位でフィニッシュとヒルクライマーとしての力を見せつけた。
しかし、金子自身は満足しておらず、「走り方が難しいなと思いました。前半は比較的(勾配が)一定ですけど、後半はつづら折りで急勾配と緩斜面が交互に現れる。作戦を練ればもう少しうまく走れたかなと思うので、悔やまれます」と経験不足を感じていたという。
こうして 最終日の東京ステージまで走り切り、TOJ初参戦ながら総合10位で完走した。
「チームが自分をエースとして任せてくれて、総合10位以内に入ろうという目標を立ててくれた。チームのサポートもあって、ギリギリ目標としていた順位をクリアできたのでよかったと思います」

日本ナショナルチームの小橋勇利コーチは、「金子君は想定していたようにチームを牽引するような成績を残してくれた。チームとしてもその目標を軸に動くという明確なゴールに向かっていけた。総合10位でUCIポイントを獲得できたのも非常に満足しています」と金子とチームの走りを評価した。


「疲れているけど、調子は上がっている」
長丁場のレースの中、金子は「疲れているけど、調子は上がっている」という一見矛盾する言葉をたびたび口にしていた。
「疲れる面もあるんですけど、日に日に調子は上がっていくっていう不思議な感覚がありました。(連日のステージが)高強度のいい練習になっているというか、それで整ってきた感じですね」

仕事を休んでTOJに参戦したことで、レースや回復に集中できる環境も功を奏したという。
「睡眠時間もすごく確保できたし、マッサージャーもいたので毎日回復できた。チームのサポートがよかったので、疲労をあまり溜めずにこられたと思います」

小橋コーチは、やや驚き交じりに話す。
「彼に話を聞いたところ、特段ホビーレーサーのトレーニングメニューと比べてそこまで大きな工夫をしている感じではなく、AIに聞いてお薦めされるトレーニングをしているという話でした」
「ステージレースでは疲労に対する耐性が非常に重要なポイントと思うんですが、そこは特にトレーニングで対策していないと話していました。それでも、これほど高い疲労耐性を持っているというのはポテンシャルの高さを感じます」
「他の選手がきつい場面でも前に行けているので、若い選手にも『金子さん、強いな』といういい刺激になっていると思います。国内を主戦場としている選手でも、ここまで戦えるという興味深い例になっていますね」
「富士ヒルは力で勝ちたい」
1週間後の6月1日には、金子にとって3連覇がかかった富士ヒルが迫っている。
「(TOJは)レースとしてもよかったし、ステージを走るにつれて調子が上がってきたので、明日から軽めに休養や調整を入れれば、いいコンディションで(富士ヒルに)挑めると思います。ステージレースって走っているときは大丈夫だけど、終わって数日経ったところで疲労がどっと来るらしい。今週どう過ごすかが来週に向けて重要かなと思います」
今年の富士ヒルは、勝ち方にも意識を向けている。
「本当に力で勝ちたいというのはありますね。去年は3人のスプリントになったので、もう少し地足を見せられるような走りをしたいです。タイムも狙っていきたいですね。(ライバルの)STRAVAを監視していて、この人は調子よさそうだなというのも見ていますよ」
富士ヒルが終わると、次の大きな目標は6月末の全日本選手権。昨年はTTで優勝するも、ロードレースで惜しくも2位に終わったため、ダブルタイトル獲得が悲願だ。異色のレーサーの走りに、これからも目が離せない。
著者プロフィール

光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。