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2024年02月23日

サイクルショップ店長の視点から見た能登の現在。

2024年1月1日16時10分、日本の石川県能登半島にある鳳珠郡穴水町の北東42 kmを震央として発生した能登半島地震により、石川県をはじめとして多くの地域でいまも災害からの復旧活動が続いている。
7週間ほど経過し、中央のニュースやラジオなどの報道の割合も少なくなりつつある。しかしながら河北潟以北、輪島市や珠洲市などでは断水が続き、ライフライン復旧の目処が立っていないのが実情である。

ツール・ド・のと(以下、ツーのと)」の密着実走取材(2022)から2年、このような事態になるとは思いもよらなかった。2023年の「ツーのと」は筆者自身、多忙を極めており不参加としたのが大きな心残りとなった。大会運営に携わる成田加津利さんに、震災直後からコンタクトをとらせていただき、ようやく訪問する機会をえることができた。

成田さんは内灘町で「カツリーズサイクル&デザイン」という競技自転車中心の自転車ショップを営んでいる。
ショップは高台に位置しており眼下には内灘海岸が広がっている。地盤が隆起するほど広域かつ大規模な地震が発生した。ショップはガラス窓が割れたり店内展示品が崩れる「被害」を受けたが、周りを見たら「とても被害を受けたとは言えない」状況だと語る。
成田さんは現在、私財やECでの売上、多くの皆さんから個人的に送っていただいた義援金を原資に私的ボランティア活動を行っている。
ショップの従来の予約営業(火曜日・水曜日)の2日間を穴水町を中心としての災害支援活動日にあてている。
「穴水町は、立地的に輪島方面・珠洲方面へのハブステーションとなっています」。

成田加津利さん(カツリーズサイクル)、多くの皆さんから預かった義援金を炊き出しを行う私的ボランティアの支援をしている。震災後、月曜日は買い出しに、毎週2〜3日間は支援活動に当てられている。「珠洲からの帰り道、疲れてしまい穴水で車中泊することも」。
支援する側も非常に過酷な状況である

炊き出しのお手伝いを始めたのは震災翌日の1月2日から。石川県からは『被災地へ行くな』と発令があったが、能登半島全域に知り合いが特に多いことから支援を決めた。地元知人からの情報ネットワークにより、被害の少ない輪島方面の道路を繋いでいった。すると、なんと「ツーのと」のコースそのままで、輪島市の南に位置する門前町まで行くことができた。当初は食材や物資を届けるだけだった。

全国の有志から届いた物資。一時はショップの中が満載になるほどだった

私的ボランティアの場合、日をまたいで宵越しするときは車中泊になり横になって眠ることができないケースも。そんな過酷な環境のなか現在も支援活動が続けられている。
成田さんは「炊き出しの皆さんへ食材を」と提供をかって出たというが、ある日ある程度調理をした食材を届けたらとても喜ばれた。そこから炊き出しのお手伝いや清掃などでバックアップを続けている。

中央市場では顔なじみの業者から、野菜や食材を調達してもらっている

ツーのとではサポートライダーとして大会を支える一人である新出 洋さん。
金沢から北におよそ90kmほどの穴水町・穴水駅前のバルを営む。ここを炊き出しの拠点として、被災者や事業者に炊き出しを行っている。しかしガスや水道は現在まだ復旧をしていない。プロパンガスとコンロで火を起こし、2日に一度の給水が命綱になっている。

成田さんと新出洋さん(右)。穴水駅ほどちかくの鳥居が大きく崩れてしまった穴水大宮だが、本堂は開放されお参りもできる。
「成田さんから震災直後に物資や料理を届けていただいて本当に感謝をしている」新出さんは感謝を述べた

「1月2日の朝から、最初は穴水ロケットのメンバー3人で炊き出しを始めました。昼と夜の2回、1度に100食ずつ、40日間休まず行っています。被災者や車で寝泊まりしている方に食べていただいて。僕らも仕事を失ったので、2月15日から事業者の方向けにお弁当の販売を開始したところです」と新出さん。そしてこう続ける。

『7週間経っても何一つ変わっていない』

「最初の1週間は本当にきつかった。それは理解していたので、自分の持っていた物資だったり準備したものでしのぎました。次第にボランティアの方が2月から入ってきて、少しずつお手伝いをしてもらっていますが、街の復興はまだなにも始まっていないです。
生活としては何一つ変わっていない。
国や自治体からは決められた保証などは何も届いていないのが現状です。今後の進展を大きく期待しています。正確な情報が届いておらず、同じ報道の繰り返し。例えば指定避難所と自主避難所の違いなど、知る機会もなく憤りを感じる部分もあります。メディアは現状を伝えてほしいです」。トリアージという概念があることは理解しているが、歯痒い思いを述べた。
そして、自治体の職員の多くもまた『被災者』なのだ。

2月15日からは事業者向けにお弁当販売を始めた。体力を使う皆さんのためを思って大盛りだ
のと里山海道の現在の様子。斜面側は崩落しているその側を通過し北部へ向かう。もちろん片側通行となり、上りは開通していない。
しかし急ピッチで復旧作業は続けられており、少しずつインフラは回復しているのがわかるという
新出さんの営む穴水のバル。幸いにして倒壊は免れたが、地盤に不安があるという。もちろん営業は再開していない。店頭にテントを出して、炊き出しのための調理を有志と共に行っている

「何もかも必要」。
被災地で話を聞くと一様にその答えが帰ってきた。愛車のボックスバンが傾くほど支援物資を積載したが一瞬でなくなったと成田さん。そこで県外のサイクリストネットワークにもソーシャルメディアを通じて訴えた。すると全国に支援の輪が広がり、必要と訴えた物資が届けられた。水が足りないといえば熊本から4tの支援物資を陸路で運んでくれた方もいた。
取材中、支援を申し出る有志からの電話が幾度と鳴る。そのたびに目頭が熱くなる。
そんな支援者ひとりひとりに”いつかお礼がしたい”と成田さんは言う。

停車中に窓の外に目を向ける。こうしたシーンに少し慣れてきてしまっている、と成田さん

避難所に入らなかった人たちは配給などの支援が得られない場合もある。何らかの事情で車中泊生活や、家から離れることができない人へのケアのために私的ボランティア活動をする人たちがおられる。
個人の活動ではどうしても限界があるものだが、ミシュランシェフの川本紀男さんも同様に珠洲市で本格的な料理を振る舞った。そんな報道が孤独感を埋め勇気も付けられた。

料理の腕も抜群の成田さんは御夫婦で支援者向けに料理を用意している。今回は母のレシピという特製ハンバーグ

炊き出しをする人たちも体調を崩すケースも見られると成田さんは危惧する。宵越しするときは車中泊になり横になって眠ることができないなど、ボランティア疲れのケアも重要になる。炊き出しボランティアにも食材を提供していたというが、穴水ではまだ水道が普及しておらず「あるていど調理をしていったら、とても助かると言われた」と成田さん。
成田さんは料理の腕にも自信がある。それからはより衛生的な自宅キッチンで一品を調理して持ち込むようにした。

震災後、自転車のパンク修理などもとても増えた。当分乗れなくなりそうだから預かっていてほしいという方もいる。
炊き出し先で自転車を預かって、翌週に戻すということもある。
「被災地にはツール・ド・のとで知り合った、多くのサイクリストがいる」と成田さんはいう。お客様が困っている姿を見ると放っておくことができない。そんな人柄が支援活動の動機につながっている。

支援中に万が一、被災をした場合に備えて3日分の食料を車両に積載している

ライフワーク「ツール・ド・のと」は必ず開催する

抜群の走行環境を擁する能登半島。そこを舞台とするツール・ド・のとの大会運営に携わる成田さん。この国内でも最長規模のロングライドイベントのコースの中核に大きなダメージを負ってしまったことでこれまでの活動が水泡に帰すのではないかと一時は憔悴するが、成田さんを支えたのはやはり人のつながりだった。いろいろな課題はまだ山積みではあるものの本年の開催に向けて準備を進めているという。もちろんフルスペック開催には年単位での時間を要するだろうが、今できる形でのツーのとで、サイクリングの醍醐味を楽しみたい。
また隣県のサイクリングイベントである富山湾岸サイクリングは今年も4月開催で進められているといい、復興に向けた発信がテーマで能登半島への支援を表明しているのも明るいニュースといえる。
東日本大震災での様々な復興活動は、時を経て調査・分析が進んでいる。そのひとつの自転車でできる復興活動は少ないかもしれないが、教訓をへて持続可能な支援体制の維持を続けられることを期待したい。

また石川県でも被害の少なかった地域は、積極的な観光客誘致を行っている。そういった地域では風評被害にも悩まされているという。正確な情報を入手して冷静に行動をしたいものだ。

なによりも風化を恐れる

都内での報道も減少傾向にある。「震災のことが風化していくことを恐れている」と言うのは成田さんとともに炊き出しをサポートする妻の千恵子さん。
しかし今もなお、断水や電気が通じていない地域がある。懸命な復旧活動は最大限行われているが、思うように進まない現状について被災者は誰にもぶつけようのない不満を述べている。
継続的な支援が必要不可欠だが、せめて風化をさせないことが、今できることではないだろうか。

現在でも成田さんをはじめとした支援活動は今後も続けられる。当面の必要物資はeコマースのウィッシュリストサービスで募集を行っている。
詳しくはソーシャルメディアにて情報発信中である。

また『ツーのと』繋がりで復興に向けたクラウドファンディングも立ち上がっている。

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