2023年11月16日
【ツール・ド・おきなわ】31年連続出場、市民最上級クラス29回完走! 増田謙一さん「自転車の旅は続く」
サイクリングレースはコースではなく選手がレベルを決めるというが、ツール・ド・沖縄(以下、TDO)の市民200kmはカテゴリーの中で最も長いコースでありながら、日本全国から脚に自信のある強豪選手が集い、その年に積み上げたトレーニングの成果を試す。
そのレースの強度は市民レースとしては国内最高峰といってもいいだろう。この最上級クラスに30年以上も挑戦し続けるサイクリストがいる。増田謙一さんだ。
増田謙一さんは1960年11月生まれの63歳。サイクリング歴48年のベテラン…というよりも日本の市民レースにおけるレジェンドと言える存在といってもいいだろう。
サイクリングを始めたのは高校1年生、1976年のこと。最初の自転車はランドナーだ。当時のことを第一次サイクリングブームと呼び、パスハント(峠越え)のツーリングが非常に流行っていた。レースに初めて出たのは1977年のチャレンジサイクルロードレースで、現存する日本自転車競技連盟主催のレースだった。
その後、強豪ライダーとして市民レースで多くの戦績を残していて、近年でもマスターズ年代別カテゴリー競技で日本チャンピオンを競うほどの脚力を維持している(MTB XCOでは21年、22年の60歳代マスターズ日本チャンピオンである)。
その中でもシーズン終盤に行われるTDOには、ただならぬ熱意を向けている。
初めてTDOに出場したのは1991年第3回大会とのこと。そこから31回連続出場を続けている。91年、92年は共に2位。93年はチャンピオンクラスに出場し21位という成績を収めている。
年齢を重ねても力は衰えを知らず、40歳代ではシングルリザルト(2001年6位)という成績を収め、50歳になった年(2010年)でも26位という素晴らしい記録を収めている。
しかし55歳くらいから急にペダルが踏めなくなり、スピードアップなどに対応できなくなってきた。またコロナ禍の3年間の中断を経てしまい、30回大会(2022年)を機にTDO引退を表明。
だが、やはりTDOの魅力の前には前言撤回。完走するだけならできると思い完走30回を目指すことにしたという。
<増田さんのFacebook投稿>
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=pfbid0WjFAxqwLMdqWr775b6qBrz9fmfnvaWDEPe5jGq2xchGjeSa5PBgqPxCaUyNEVwY6l&id=100004213629890
「連続出場を意識し始めたのは4〜5年ほど前から。TDOの魅力はなんと言っても公道を使用したダイナミックなコースで、総合力が要求されるレースが魅力ですね」と増田さん。
2023年のTDOはあいにくの雨。沖縄とは思えないくらいの寒さと土砂降り、そして強風により体温は気温以上に奪われる厳しい状況になった。この低温による影響で有力選手も影響を受けた。そんなサバイバルなレースの中、増田さんは見事に29回目の完走を98位で無事遂げることができた。
次回24年大会で完走できれば掲げた目標の30回完走を達成できる。いつまで続けるかの問いには「”200km”は30回完走まで最低あと1回はがんばります(笑)」と含みをもたせた応えが。次なる目標設定もすでにありそうだ。
黎明期のTDOと現在都の変化を聞いてみた。
「当時(3回目大会)はちょっと速い人が集まる市民長距離イベントレースみたいなもので(JCF未登録者が大半)、それがいつのまにかホビーレース甲子園と言われ始め、ガチ勢参加者が増えレベルが上がっていると思います。 ただし、当時は市民200km(or 210km)が最終スタートだったので、先頭通過から、15分遅れたらタイムアウトのルールがあり、参加が150人ぐらいだと完走者20数名と言う時もありました。今回は80分遅れでも完走できている。ある意味かなり緩い(笑)。 あとは、入賞トロフィーが5回大会までは、大きく重い琉球グラス製! また大会格式をさらに上げるためにも、復活したら良いのにと思っています」
第3回大会からの出場者のコメントは重みが違う。
当面の間はロードレース、シクロクロス、MTBの3種目をバランス良く楽しんでいきます。と今後も忙しなくレースを楽しまれるようだ。
「サイクルスポーツほどバリエーションに富んでいるスポーツはなく、生涯楽しめますね」とまさにそれを体現しているのが増田さんご本人だ。
おそらく未踏の記録である市民200km30回完走の偉業もいよいよ来年に迫る。サイクルスポーツは遊びの幅が広い。どんなレベルでも走り方でも許容してくれる懐の広いスポーツだ。増田さんの場合はレースという目標に向けて日々その情熱を傾けているが、目的や目標があればどんな形でもハツラツとした生活を楽しめるハズ。下方修正をしたって構わないだろう。勝ち負けに拘らず自分だけのレースを見つけて達成感が得られればそれでいいはずだ。
長く続ける秘訣は「余り頑張りすぎず、楽しむこと。ロードレースだけでなく、色んなジャンルに挑戦、転向する(CX. MTB 、ビーチクロス、王滝などのロングライドイベントにも挑戦中)のもいいですね」。ランドナーから始まった自転車の旅はまだ続くのだ。
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得