2023年10月18日
【2023ジャパンカップ】海外選手の中で孤軍奮闘! アジア最優秀選手賞獲得の愛三・岡本隼が集団の中で得たものは?
今年30回目の記念大会となった国内最高峰のUCI公認ロードレース「2023ジャパンカップサイクルロードレース」が、栃木県宇都宮市で開催された(10月14日:クリテリウム、15日:ロードレース)。世界のトップ選手が熱い走りを繰り広げてファンを沸かせた中、雨のロードレースで日本勢として孤軍奮闘した愛三工業レーシングチームの岡本隼選手の走りを振り返ってみる。
アラフィリップが単独アタック! 序盤からハイペースの展開に
日曜日のロードレース(宇都宮市森林公園周回コース)は、朝から冷たい雨がしとしと降るコンディションに。レースは16周(164.8km)から13周(133.9km)に短縮され、スタートした。
あらためておさらいすると、今大会は19チームが出場。その内訳は、ツール・ド・フランスを始めとするUCIワールドツアーにレギュラー参戦する最上位のワールドチーム(WT)が7チーム。日本開催のUCIレースでは最多で、この数字がジャパンカップが国内最高峰ロードレースと言われる理由のひとつだ。その下位のUCIプロチーム(PT)が3、さらにその下位、第3ランクのUCIコンチネンタルチーム(CT)が8(海外1、国内7)、そして日本ナショナルチームというラインナップだ。
数年前までジャパンカップは序盤に日本人選手を中心とした逃げができ、後半ペースアップした海外勢が逃げを捕まえたところから優勝争いが本格化するという展開が定石だった。しかし、近年は序盤からWT勢が逃げに乗ったり、ハイペースで集団をバラバラにしたりと、積極的にレースを動かしていく傾向にある。そんなことは十分承知の国内CT勢は、スタート前からWT勢の動きを警戒していた。
とはいえ今年はレース距離の短縮、さらに雨というリスクのある条件で、WT勢はさらに早めに前方で展開したいという意識が強まったのかもしれない。中でも今大会注目選手の1人、元ロード世界王者のジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)がスタート直後から他の選手を引き連れて逃げ、3周目には単独先頭に立つ。
想定された展開に唯一対応した岡本隼
集団はいくつかに分裂し、数10秒~約1分の差でアラフィリップを追うメイン集団は早くも20選手ほどに絞られていた。その選手たちのレインジャケットやジャージを見ているとWTやPTの海外勢ばかりで、日本人選手はすでに1人も残っていないかと思われた。しかし、愛三のウエアを来た小柄な選手が古賀志林道の上りで必死に集団にくらいついていた。岡本だ。
このときの展開を岡本は振り返る
「2周目の上りで集団は割れてないけど、スピードが速かった。下りが不得意な選手がいたので集団が割れて、なんとかジャンプアップして20人ぐらいの集団に入れた。僕の後ろは誰もいなくて『これは、決まった!』と思いました。そこから残りの周回は、ワールドツアーの選手相手にどこまで耐えられるかが自分の戦いでした」
愛三の水谷壮宏監督は「前半からきついから、前で上って前で展開しないと前に残れないと、選手たちには伝えていた。言うのは簡単ですけど、実際、唯一うちのチームで対応できたのはスピードがある岡本だけでしたね」と語る。
もちろん他の国内CT勢も同じように警戒していたはずだが、狙い通りの展開には持ち込めなかった。
この集団は多少の人数の増減はあったものの、3、4周目のフィニッシュライン通過時はきっちり20人だった。内訳は、WTが6チーム13選手。この中には最終的にこのレースを制する、もうひとりの元ロード世界王者ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)、ジャパンカップ過去2勝のバウケ・モレマ(リドル・トレック)といった世界的な名選手もいる。PTは、2チーム5選手。といっても、その2チームはロット・ディスティニーとイスラエル・プレミアテックで今季PTに降格したものの、昨季までWT登録で実力的にはWTと引けを取らない。この強豪たちに国内CT勢で喰らいついたのが、岡本とJCL TEAM UKYOのベテランスペイン人、ベンジャミン・プラデスの2人のみだった。
この中で岡本が感じていたのは、統率された集団コントロールだった。
「集団内で『誰が引くの?』というけん制する時間が少ない。つねにどこかのチームが引いていて、休まるところがない。もちろん緩むところは緩むし、メリハリはあるけど、基本的にどこかのチームが引いているのは印象に残りました」
もしけん制してペースが落ちると、後ろの集団が追いついてレースが振り出しに戻る。そうならないように、レース展開を見据えた意思統一が各チームでなされていたのだろう。その結果、この集団はある程度以上のハイペースで走り続け、終始スイッチONの状態でレースが進んでいたことになる。
一方、日本人唯一のWT所属選手である新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)はチームの誰もメイン集団に乗れず、追走を強いられる。その後、新城はレース中盤の6周目にチームメイト2人を前の集団に合流させたところで仕事を終えている。
粘りの走りでアジア最優秀選手賞獲得
岡本はレース半ばを過ぎても、沿道の声援を力に集団にしがみついていた。
「プラデス選手と一緒に、集団の動きに合わせていました、その中でもアタックが何度もかかるので、そこで後手に回らないようにしました。脚で真っ向勝負したら、もたないとわかっていたので、最後まで粘れるように考えて走りました。毎周、僕だけ『岡本! 岡本!』と名前を呼ばれていたので、ここでは千切れないなと思っていました」
単独先頭を走り続けファンを沸かせていたアラフィリップは、8周目にいったん集団に捕まる。このペースアップで岡本も他の数選手とともに遅れるが、最後まであきらめない走りを続け、15位でフィニッシュ。アジア最優秀選手賞も獲得した。
「結果的に集団の中でも分裂されて、最後はバーレーンの選手と3人でローテーションしながらゴールを目指す展開に。アジア最優秀選手を獲れてよかったです」と岡本。
若いころからスプリンターとして活躍していた岡本だが、近年は上りのあるコースでも上位に入るレースが増えている。水谷監督はその走りに目を見張りながらも、岡本の準備も称えていた。
「彼は昨日のクリテリウムで勝ってもおかしくないぐらい強いスプリンターなので。このコースであそこまで上ってくれるのは驚いています。でも、去年のジャパンカップも15位といい成績残しているので、ベストを尽くしてくれてよかった。実際、彼は例年よりも1.5kgぐらい減量しているので、レベルの高いレースでも山を越えて勝負できる展開に持っていけました」
世界との差を埋めるために必要なこと
出走107選手中、完走48人のサバイバルな展開となった今年のジャパンカップ。岡本の奮闘はあったものの、日本人選手は出走33選手中、完走は9選手に留まった。
岡本には、世界を相手に戦っていくために必要なことも見えてきた。
「アタックのタイミングは、残りの周回数の兼ね合いとかで自分が思っているよりも展開が早く勝負が決まるのがわかりました。練習でも本数が大事ですね。スピード、スプリント力というより、複数のアタックに耐えられる力をつける時間が必要かなと思いました」
水谷監督は、経験を積むことの重要さをあらためて強く実感していた。
「自分たちも毎回こういうレースを走らない限り上のステップに行けないと思うので、(今年10月に初開催された)ツール・ド・九州のように大きな大会がどんどん増えるか、もしくは我々がヨーロッパ遠征に行って、そこでもまれて強くなるしかない。そんなことを今日は考えましたね」
「自分も(現役時代に)ヨーロッパで走ってきたので、絶対的なレベル差があるのはわかっている。その中で岡本の今日の走りは評価します」
あらためて、世界と日本と差を痛感する結果となった今年のジャパンカップ。「日本人、情けないぞ!」と嘆くファンも少なからずいるだろう。それでも世界王者クラスを含む並みいるスター選手たちがシーズン終盤、長距離移動や時差もあり、さらにこの日は悪天候も重なる中、リスクを冒して手加減することなく戦った意義は大きい。
国内チームや日本人選手にしてみれば本場ヨーロッパに行かずともそのレベルを知り、自分たちに足りないものを見つめ直す機会となった。世界につながる扉のひとつとして、ジャパンカップは31回目以降も歴史を刻んでいくのだろう。
写真と文:光石達哉
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著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。