2020年10月13日
【サイクリングの楽しみ方】サイクリスト・テイ ヨウフウさんの場合
ロードバイクとランニングは同じ有酸素運動として比較されることがあるが、どちらにも優位な点はある。サイクリングには様々な楽しみ方がある。
ことロードバイクに関しては、ランニングよりもずっと低い強度で長時間続けられるのがポイントだ。慣れてくれば100km以上走ることもできるようになる。
さらにコースや一緒に走るメンバー、気候によって負荷強度が大幅に変化する点もランニングとは大きく異なるポイントだろう。フィットネスアプリで、区間計測などで盛り上がるのはサイクリングで、ランニングでは区間計測に固執する人は比較的少ない。
同じコースでも走る人・季節によって様々な印象として体感できるのがサイクリングで、五感をフルに活用して走ることが醍醐味といえる。
そこで飯能市に拠点を置くYOUTUBERの篠さんこと、テイ ヨウフウさん。山岳サイクリングを楽しむ女性サイクリストの遊び方を紹介したい。
数年前にサイクリングを始めて、自転車のコミックや知人の影響もあり次第にヒルクライムの魅力にとりつかれていく。それまでは都内に住んでいたが豊富な山岳コースを求めて飯能へ拠点を移した。ヒルクライムレースにも出場し、第15回Mt.富士ヒルクライムでは女子年代別で入賞を果たすほどに実力を伸ばす。
そんな折にコロナ禍がおこる。篠さんは2020年に計画をしていたイベントはすべてキャンセルし、レースやイベントには出場しないことを決めたという。
そこで個々の楽しみ方、いわゆるソロライドとしてユニークな方法の遊びを配信している。
そのひとつが林道を繋ぐエピックライドだ。
初夏にエベレスティング(8848mをひたすら反復して上る)が話題となったが、同時期に林道をつないで8848m以上の獲得標高を達成。距離にして260kmを走る。熟練したサイクリストでもハードだ。周到な準備もした。そして独力で走りきった。なぜそんなハードなチャレンジを思いついたのか。
篠さんから学ぶのは、地の利を生かした遊び方だ。その地に根付ける楽しみ方というものを模索すると、一人遊びだったとしてもサイクリングするモチベーションになる。ゲストを招いて走るのも一興だろう。
まさに今回は手荒い(失礼)歓迎を受けたのである。およそ200km・獲得標高6000mのライドは実に達成感があった。上っては下り、景勝地で小休止を繰り返す。バリエーション豊かで飽きない。たしかにこれをDoor to Doorでできるって贅沢かも。飯能に住めばできます。
「ルートを引くとき、走りやすい広い道をつないで点と点を結びますが、地図を拡大すると山にむかって脇道があります。飯能だとこれが林道で、もちろん公道なので走れます。メインルートからわざと脇道に逸れて進んで上っていく。頂から下ってみたら、“ああ、この場所に出るんだ”っていう発見が楽しい。そういう遊び方をやっているうちに、このあたり(飯能・秩父界隈)の林道に詳しくなって、様々なルートを作って楽しんでいます」。
今回のルートはほぼ頭の中にあるという篠さん。通行止めになっているルートなども把握しており、その場でアレンジもできるほど、知り尽くしている。
「大変楽しめたライド。20%超の登りをこんなに何度も上ることはそうはないけど、それぞれの道が単調ではないので非常に楽しかった。こんだけ登っていれば地脚はつくんだろうな」と高岡さん(noteより引用)。
上りは飽きないという。手足の長い篠さんのペダリングはスムーズ。後半でもペースが落ちず、よく乗っている証だ。さらに下りも非常に得意とみえる。上った分だけ下りもあるので当然か。
1日の運動量の計算も独特だ。距離で計算をするのが一般的だろう。篠さんの場合はユニークで指標は獲得標高だという。もちろんカロリー計算も獲得標高なのだ。
「今日はこれくらい上ったからいいだろう、と。獲得標高でカロリー計算もしていて。以前、平地コースのエンデューロに出場しました。補給食を摂るにも計算が狂ってしまって。獲得標高が少ないからカロリー摂取が少なくなってしまったんです」。
たしかに同じ距離でも獲得標高が多いほうがカロリー消費も高くなる。運動強度も上がる。
走行距離も当然だが、月間の獲得標高は選手のレベルに近い。
「飯能の林道は古くてとても荒れています。昨今の台風の影響で崩れてしまっている箇所も多いです。この先も同じような台風などの天災が続くと、もっと傷んでしまうかもしれません」
確かに山々をつなぐ道はかなり荒れていて、ロードバイクのタイヤでは心配になるような箇所も見受けられた。悪路を走るという先駆者へのオマージュといったライドが流行っているが、生活道路として使っているなら深刻だろうとハタと気がつく。篠さんはそういった視点も持ち合わせている。
山岳が好きなら、平地が好きならそれぞれの楽しみ方を模索してみる。これはレベル問わず誰でもできることだ。イベントがなくてもレースがなくてもこういったエピックな挑戦を楽しむというのもたまにはいいもの。
ただし無理は禁物。前述のエピックライドも無理はしていない。安全マージンを保った上での“ハードな遊び”だ。
無謀な挑戦をするのではなく“背伸びをする”イメージで、少しずつ達成目標を高めていくのがいいだろう。
写真:山本健一
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得