2020年05月26日
サイクリングイベントの「現状と今後」……安藤隼人(スマートコーチング) × 山本健一(ジャーナリスト)
プロフェッショナルから、アマチュアサイクリストまで幅広いサイクリストをユーザーに持つスマートコーチング。代表の安藤隼人さんは、パーソナルコーチングのほか、サイクルスクールなどを運営する。
このコロナ禍において安藤さんはイベントに関するアンケートを実施した。その経緯をうかがい、今後の考察を進めるためにサイクルジャーナリストの山本健一が安藤さんに話を伺った。
「いままで自転車のスクールを年に7~8回実施しています。さらに取り組みを広げていくさなか、コロナ禍となってしまった。今後のイベント再開にむけて、どう進めていいかわからない状況です。
いろいろな識者と意見交換をする中で、ユーザーに聞くことを思いつきました」
スマートコーチングのエントリーをしたことがあるフォロアーは1,200人ほどいるという。
安藤さんは言う。「お客様にどういう需要があるのか、どういう形がいいのか確かめる、というのが経緯です。多くのフォロアーに加えて、ソーシャルメディアでも募集を行い、最終的には166人に回答をいただきました」
つまり回答者はスマートコーチングのイベントに参加経験がある、あるいは興味があるというDoスポーツにたいしてアクティブな人たち。
「学ぶことにお金を使う、ということに価値があると思っている人が多いですし、都内の方の比率が高いので一定のバイアスはあると思いますが、そういった人たちが安心して参加したいという形はいったいどのようなものなのか」
166名の回答者のうち、年齢層は40代(47.6%)がおおよそ半数を占め、続いて50代(33.1%)。スクール参加者にはトライアスリート層も多く含まれていることもあり、サイクリングイベントの統計よりも女性の比率が高い。
「自転車以外にもトライアスロン競技者も入っているからかもしれませんね。スマートコーチングのサイクルスクールに参加したことがあるというのは65%、未参加の方は35%。つまりスクールに参加したことがない人が35%も答えてくれた、というのがデータとしては面白いと思います。地域は東京都23区が42%、都下が9%。神奈川はサイクルスクールを実施する拠点が川崎と横浜の境界にあるので、川崎市、横浜市、川崎・横浜以外というデータを取っています」
スマートコーチングのスタジオの拠点は新宿区四谷だが、サイクルスクールは向ヶ丘自動車学校(川崎市宮前区)で行なっている。
アンケートを順に見ていこう。ライドスタイルに当てはまるもの、としての回答はソロライドが圧倒的に多い。次いでペアでのライド(パートナーや親しい人物)。複数回答可としてグループライドは3つ(ショップ、チーム、SNS)にわけている。グループライドではチーム、ショップ、SNSという順でグルーピングされているようだ。
「“過去に参加したクラス”の質問では、マスターズ1クラス(実業団登録など最上位クラス)は15%、マスターズ2クラス(実業団には登録していないがレースを楽しんでいるレベル)10%、マスターズ3クラス(エンデューロやサイクリングイベントが主体のレベル)19%、初心者クラスは21%、未経験は33%というデータになりました。
▷クラス1の割合がもっとも高くイベントに分類すると1はツール・ド・おきなわ、ニセコクラシックなどが目標といえます。
▷クラス2~3が主にサイクリングイベント系がターゲットになっていると分析をしています。
33%と大きいサイクルスクール未経験層が、今後イベントにどのように参加していくか、というところに注目したいと思います」
「サイクルスクール再開の是か非かについては、25%近い人が問題はないとしています。感染症が広がるなかでもレースやサイクルスクールなどの野外活動は、対応できると考えているのではないでしょうか。一方、45%の半数近い人は、集まることに関して何らかの不安を感じています。今後のサイクルイベントについて、という質問に対する回答もほぼ同じ割合ですね。
これまでのサイクルスクールのプログラムでは、そこに三密が発生してしまう。その対策の一つとして、プログラム全体の改変も検討しておりましたが、この25%と45%の層は一般的な感染症対策をすれば、今までと同じ内容で問題ないと捉えていると解釈しております。残り1/4の層は、どのような対策をしてもサイクルイベントに対してネガティブなイメージをもっていると考えられます」。
ひとつの考察ではあるが「趣味」としてのサイクリングは、ライフスタイルに潤いをもたせるためのアクティビティ。だが、その「趣味」のために生活自体を脅かしたくないという人も一定層存在していると推測できる。
家族や生活環境を重視して、感染リスクを最小限に抑えたいと考える人にとっては。これまで通りのサイクリングへの取り組みはやりたくてもできなくなるのは当然のこと。40~50代の方が多いことからも納得感がある。
走り方によるが、サイクリングでの感染リスクはスポーツの中でも比較的低い。その背景からかイベントにおいても「対策を講じていれば対応できるだろう」という意見が半数近い結果であった。しかしイベント運営においては感染予防対策を最優先に検討する必要がある。
イベントでの感染予防対策としては、参加者が集まった状態での説明を簡略化するなど、検討事項は多々あると思います。
大前提として検温やアルコール消毒など、一般的に言われている感染予防対策は講じますが、できる対策、効果のある対策を選別していこうと思います」
しかしながら当分のあいだはコロナ感染予防対策として三密を避けることが常習化されるので、集団走行は行いにくくなる。趣味で楽しむサイクリスト向けとしては、今後、ソロライド前提のプログラムが想定されるのだろうか。
「レースを主眼に置いているクラスの場合なら集団走行のカリキュラムは必須です。感染予防対策として「集団走行をしない」という意見は比較的少ないですね。統計データからは参加クラスによって意見内容に違いがでていることを示唆してます。しかしながらクラスによってプログラム内容に変化をつける必要はあると思います。気になるポイントは集団走行を見たときの周辺住民の印象でしょうか。参加者ではなく、近隣住民への配慮が難しいと思っています」
住民感情は世論につながっていく。イベントに向けられる目というものにも誤解を招かないように気を配る必要があるだろう。イベント側の負担は増えるが、参加者目線に立ったときに状況に応じた対策を取っていくこと。日々変わっていく状況を想定して、数段構えで適宜対応という準備が必要だろう。
「エンデューロで全てのカテゴリーを入れるというのは難しくなっていくでしょう。サイクルスクールはクラス分けしていますから、それらが密にならないようにプログラムを作る必要はあると思います。
参加者を絞るという意味では、もともと100人以下のイベントでしたので、それほど強い意見はありませんでした。プログラムにあるレースの15分走をタイムトライアルにしようという案には、あまり賛同は得られず、集団走行に魅力があると推測できます」
サイクリングの形態の変化についてはインドアが増えたようだ。頻度に関しては増えた、減ったという両極端な状況がうかがえる。ユニークなデータでは体重について、増えてしまったという回答が40%となった。
「インドアライドについて掘り下げてみたところ、コロナ禍を機にバーチャルトレーニング機器を用意したというのが16%。コロナ禍以前からバーチャルトレーニングをしていたというのは44%と高めです。サイクルスクールのフォロアーだからこそという、データですね。ローラー台は持っているが、バーチャルトレーニングをしていないのは23%ですね。これはバーチャルのポテンシャルユーザーといえますね。
実走とインドライドについては、走れない状況ですから実走が楽しいという意見が大多数を占めています」
実走をしたいという想いが現れた回答だろう。ソロライドに関しては、一人で走るのが苦ではないが、グループライドをしたいという意見が印象的だ。ソロは苦手なのでヴァーチャルトレーニングで、という意見も見られた。人はひとりでは生きれないものだが、こうした趣味趣向においても単独よりも複数のほうが喜びも楽しみも増える。
今後のレースイベントについて
「分析を細かくクラス別で行いました。クラスごとにサイクルスクール再開についてポジティブか、ネガティブかという統計です。上のクラスほどポジティブな意見がみられ、レクリエーションでライドを行うクラスはリスクヘッジにふっているイメージです。6割くらいの方はポジティブと捉えていいでしょう。
数十名以上が同時スタートし、集団を形成するようなレース系イベント(エンデューロ・クリテリウム・ロードレースなど)についてという質問に対しては、 “特に気にせず参加する。感染対策をルール化していれば参加する”という回答と“参加を取りやめる”という回答が逆転しています」
このデータは信頼性が高いだろう。
上級者であればあるほど気にしないという言い方は適切ではないかもしれないが無頓着になるという意味ではなく、トラブルに応じた対処を想定しやすいからだろう。
コロナウイルス感染以外のトラブルに対して対策を講じることが難しい初心者層が出にくいのは当然のこと。
また、これまでスポーツによって健康が保たれ、生活の下支えになっていたとしらなら、スポーツができない状況下で健やかな生活が送れるのだろうか。運動不足による生活習慣病のリスクについても課題ではないかと感じている。
自転車は適切なライドをしていれば比較的感染リスクが少ないと言われている。サイクリストにおいてはすぐにライドができる準備が整っている。感染リスクを高めない乗り方であれば、健康を維持するためにも適切な運動はすべきだ。
例えばサイクリングにおいてトラブルはつきもの。たとえばパンクリスク、交通事故も起こりうるもの。だがご時世、これらは普段よりもスピードを控えて走ることでより注意深く走ることができるだろうし、そうすることでトラブル遭遇率も減少するはずだ。
安藤さんの主催するサイクルスクールも再開されれば、開催日に向けて参加者の気持ちが前向きになるはず。当面はオンラインとリアルを使いわけたサイクルスクールの再開がベターではないだろうか。
イベント再開を多く方が待ち望んでいる状況である。主催者は感染予防の施策を講じながら、サイクリストの安全と健康を守る意識をもって、再開されたイベント運営のあり方を模索していくことが使命ではないだろうか。
まとめ:山本健一
データ提供:安藤隼人(スマートコーチング)
株式会社 スマートコーチング
〒160-0004 東京都新宿区 四谷 4丁目 18 高橋ビル地下1階
https://coubic.com/smart-coaching
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著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得