2019年02月25日
FUNRiDE x チャリダー★ x 宮澤崇史 自転車鼎談
NHKBS1の自転車情報番組のチャリダー★はサイクリストによる、サイクリストのための番組。まさにすべてのサイクリスト=自転車が好きな人のために作られていて、FUNRiDEのモットーとしている「すべてのサイクリストが主役」と通じるものがあります。
さてさて……今回のお話は、そんなチャリダー★と、元プロロードレーサー宮澤崇史さんという組み合わせの三つ巴の会合が。一体、どんな会話が交わされたのでしょう??
ファンライド編集部 山本(以下、FR):FUNRiDE、チャリダー★、宮澤崇史さんという鼎談(ていだん)となりましたが、自転車総合メディアとしてもチャリダー★っていう番組はどんな雰囲気なんだろうって気になってました。
発端はディレクターの林大介さんとの出会いから繋がったこの企画なのですが、私も興味津々です。とその前に、番組のスタッフのお二方より、この鼎談のテーマをお聞かせいただきつつ、進めたいと思います。
チャリダー★・プロデューサー街風建雄さん(以下、街):はい。ざっくばらんに今回、宮澤さんをお呼びしたのは番組スタッフの募集をしたくて。そこで一肌脱いでほしいんですけど。
宮澤崇史さん(以下、宮):えっ! そうなんですか(笑)。
街:自転車が好きな人でも、自転車の番組作りを仕事にしてみようという発想は意外と無いと思うんですよ。でも今回の記事をきっかけに、こういう選択肢も有ることを知ってもらえたらいいなと。
宮:なるほど。この記事を読んで番組を作っている人たちの雰囲気が伝わったり、自分もやってみたいなと思っていただければいいですね。
宮澤選手の「あの一言」が響いた
宮:でも、なぜ僕なんでしょうか?
チャリダー★ディレクター林大介さん(以下、林):なぜ宮澤さんにお願いをしたかというと、以前どこかのロケで「チャリダー★のロケって楽しい」って言ってくれたんですよ。
理由は「台本がないから」。
……わりと僕と宮澤さんが現場に行くと「どうしましょう?」からはじまったりするんです。
「この場所で」「こんなことを」「この人たちを強く」したいんですけど、どうしましょう? みたいな。
その場で「ああでもない。こうでもない。うん、それですね」と、ロケをする。
それを喜んでくれたんですよ。
最初からこれをやらなきゃいけない、言わなきゃいけないという番組もありますけど、うちはわりと台本なしでその場の空気で進行していくんですが、“うちの番組を一番楽しんでくれている人”というと宮澤さんだなと。
FR:なるほど。番組を作っていく中でそんなやりとりが繰り広げられていたんですね。
無茶振りを楽しめるか!?
2013年の放送開始当初から番組作りに携わってくれた、元プロロードレーサーの宮澤崇史さん。
チャリダーの番組を作る過程はもちろん、企画の段階からロケの現場まで関わりが深い人物の一人だそうです。
宮:僕が最初に出た回はなんでしたっけ?
街:ご自身のドキュメンタリーの企画でしたね。
FR:宮澤選手は稀有な経験をされていて、生体移植をしていながら、かつてのパフォーマンスまで戻したという、世界的にも珍しいアスリートなんですよね。
宮:そういうのをわかりやすく作ってくれるとすごく嬉しいですよね。半生的なものは、なかなか言葉で伝えにくいんです。
FR:最初の印象はどうでした?
宮:思い起こすと台本がなかったかもしれないです。でも、それがやりやすかった。出来上がった番組を見て一番驚いたのは「とてもよく出来ているな、すごいしっかりと作っているんだな」ということ。人が言っていることをただ伝えるのではなく、観た人がどう感じるかというのを考えて作っているんだなという印象がありました。
FR:撮影中にはどんなエピソードがありますか?
林:面白いエピソードとして、宮澤さんからの無茶振りみたいなのがあればいいんですけど(笑)。
宮:あの魚をさばいた話は無茶振りでしたよね! あれは普通やらないだろーって思いましたけど。僕は楽しかったですけどね!
FR:聞きたいですね。
林:11月に山梨県の1泊2日のロングライドイベントの取材に行っていただき、グループライドをしてもらったんです。事前の打ち合わせで、宮澤さんは料理得意でしょ? という話があって……。
それでグループのメンバーのために、夕食で腕をふるってもらえませんかねとお願いしたんです。
まず無茶振りその1。そしたら、宮澤さんから無茶振り返しがきまして。
宮:「魚とか捌きたいですね」と。無茶振りその2ですね(笑)
林:晩秋の時期に魚って……。店頭に並ぶ種類も少ない。しかも山梨……。そんな中、調べてみたら山梨で育てている甲斐サーモンという魚がいると。マスを品種改良した高級魚だったんです。しかしこれがまた季節を外していて手に入らない(笑)。スタッフが探しに探して。ようやく活きの良いサーモンを届けてもらいまして。
宮:届けてもらったんですが、スーパーから買ってきたわけではないので生きてましてね。もちろんウロコもひいていなくて。厨房でウロコ引きありますかって(笑)。
林:そこにウロコを引く器具があってよかったなあと。もちろんドッカーンって盛り上がりましたよ。“宮澤さんがこれを作ってくれたの!”って。
宮:あれは楽しかったですね。
FR:その場に居合わせたかったですね(笑)。
林:そんな無茶振りがあってから番組本番という流れに。
冴えわたる宮澤さんの包丁さばき(photo:チャリダー★)
無茶振りその3
街:宮澤さんから急に「アレ、ないかな〜?」っていうのもありますよね(笑)。印象深いのはガムですね。
ヒルクライムレース取材の朝、「アレないかな、ガム」って(笑)。
宮:あ〜(笑)。ビジネステーブルとかミーティングの間にガムを配ったりするじゃないですか。ガムって、頭の中をフレッシュにするし、噛む動作をすると集中力が高まる。
だからガムを噛みながら走ったらいいんじゃないかということで。僕自身選手をやめる前の2年間はクリテリウムのレースでガムを噛んで走っていました(笑)。ガムを噛むという別の行為をすることで、体ってリラックスをするなあって。
坂バカ女子部のメンバーにおもむろにガムを渡す宮澤さん(photo:チャリダー★)
FR:急にガムが欲しいって言われて現場は混乱したでしょうね。
街:眠いのかなー? とか、口臭が気になったのかな〜とか(笑)。ああ、なるほど。集中力ですか、と。
林:でもみんな走り出したら噛むのを忘れていたという(笑)。でもレース前に噛んで集中できたのは良かったみたいです。これはオンエアには乗りませんでしたけどね。
宮:伝わりにくくてすみませんでした(笑)。
FR:常識にとらわれないアプローチが面白いですよね。
林:ご自身でいろいろ試行錯誤していますよね。誰かがやっていることをよく観察していると思いました。とくに外国人選手の動きとか。
街:宮澤さんとやると面白いのは、こちらが想像していないことがポッと出てくるんですよね。練習方法とかもそうです。
FR:やはり一線で戦ってきた選手だからこその、一般人では知り得ない部分を言語化するというのが面白い。
宮:でも翻訳が必要ってことだね(笑)。
チャリダー★が伝えたいこと
宮:この番組に出演して、自転車もテレビ番組になるくらいにメジャーになったなあと思いました。
街:自転車の番組があるっていうのは嬉しいことでしたか?
宮:そりゃうれしいですよ。いまはネット化されている中で、いろいろな動画はあるけど、専門的に作り込まれているものは少ないですし。それを観て感動するとか、そういうものはそんなに多くない。それにチャリダー★独特の切り口がありますよね。
例えば、自転車の番組といったら可愛い女子が峠を上ってみて…というのが定番ですが、チャリダー★はそうじゃないですよね。
街:最初は関係者に言われました。おじさんたちが坂を上っているところを映して面白いの?って(笑)。
宮:自転車をやっている人たちはおじさん層で遅いし、太っているし、上りはもちろん苦しいし。その苦しさをちゃんとテレビで表現しているのってほかにないでしょ。
街:パッと見でかっこいいものや綺麗なものではなくて、ボロボロとかちょっと汚くて惨めだけど、とにかく全力。そういう味わいですよね。怪訝だった関係者の人も出来上がったものを見て「確かに面白い」って。
林:それが自転車の“美しさ”かなって思っています。鼻水垂らして頂上まで上って「うわー足攣った〜」って言っているところが、尊いというか。それを伝えることを目指して番組を作っていますね。
宮:自転車をこよなく愛する人たちの魅力をうまく引き出す。これがチャリダー★。だから観ている人たちが感情移入しやすい。最終的に自転車を好きな人たちが、面白いことをやっている番組なんだなあ、と。だから僕も自分のやりたいことができる。
チャリダー★・プロデューサー街風建雄さん
2人の熱い男の話
街:宮澤さんの愛もすごいですよね。東北の高校生とのエピソードとか。
林:東北高校の自転車競技部を取材で訪ねたのですが、当時一年生に吉田くんという子がいまして。当時の彼は自転車部で一番小柄で、遅くて。でもすごく一生懸命なんですよ。その彼に宮澤さんがマンツーマンで教えてくださった。
宮:当時、この競技部には沢田圭太郎(現チームブリヂストンサイクリングのプロ選手)が居たりしてね(笑)。普通なら沢田君が話題になるけど、弱い子を教えるっていう。
街:私たちもどちらを取材するかとても迷ったんですよ。事前にディレクターは部員全員と会いに行っているんですが、宮澤さんと会わせたらどうなるかは、実際にやってみないとわからない。宮澤さんが「沢田くんに教えたい」ってことになれば、そっちになりました。
FR:吉田くんをどうして教えたいという考えになったんですか?
宮:強い人は、「ああ、速いね〜すごいね〜」ってわかりやすいんですけど、感情が入るかというとちょっと違くて。チャリダーはオリンピックみたいに試合だけを流しているわけではなくて、大会までにどういう風に頑張ってきたかを見せるわけじゃないですか。華やかな方は世の中に溢れているので、どっちかっていうと泥臭い方が、見ている側の気持ちは入りますよね。
吉田くんを見ていると昔の自分を思い出すし。なんかこう自分の過去を思い出しながら、何か人に伝えることとか、自分ができなかったことを人に伝えられることが、いいなあって思うよね。
1年半後。再び東北高校を訪れた宮澤さんの前には、キャプテンとなった吉田くん(左)のたくましい姿があった(photo:チャリダー★)
エースとアシスト
FR:番組1回の制作期間はどれくらいなんですか?
街:最初にこれをやろうというテーマは早ければ半年以上前に出しますが、本格的に動き出すのは撮影の1ヶ月前くらいでしょうか。その後でスタジオ収録や編集が有って、トータル2~3ヶ月で作っている感じですね。テレビ制作って文化祭のようなイメージで、ロケとか収録の日が文化祭の本番。そこにむけて全てを準備してゆき、本番で一気に燃え尽きる。
FR:文化祭というと面白そうですよね。
街:年に何回も文化祭(笑)。だから楽しいのかもしれないし、予想外の力が出せるのかも。例えば自転車イベントもお祭りだから、実力以上の力が出ちゃうこととかあるじゃないですか。初めての距離を走れたり。
FR:いいですね。仕事で実力以上の力を出してみたいです(笑)
林:番組作りってロードレースに似ているなあーって思うんですよ。アシスタントディレクター(AD)さんってアシストなんですよ。いいアシストは、エースがやりたいことをサポートするじゃないですか。
FR:アシストと言ってもエースをサポートする力が必要ですから、エースと同じくらいの走力が必要……。うん!やりがいがあると思いますね。
街:ハードルあげましたね(笑)でも、ディレクターを経験した人がまたADをやることもよくあって、その方がディレクターが考えていることがわかるので良いアシストができる。なので若いうちからどんどんディレクターをやってもらってます。
林:中にはエースにしかなれないヤツもいますけどね。「こいつはADとしてはダメだけど、ディレクターとしては良い!」みたいな(笑)
FR:適材適所ですね(笑)
林:選手ではいますか?
宮:いますね。スプリンターには多いかもしれないですね。例えばナセル・ブアニとか。そういう意味ではカヴェンディッシュの転身は見事ですよね。
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FR:チャリダー★のスタッフはみんなサイクリストなんですか?
街:当初は自転車を持っていない人ばかりでしたが、番組制作をきっかけに乗り始めたスタッフも多いですね。
林:体験しないと描けないことっていうのはありますからね。自転車をバッチリ体験している人が入ってくれたら、さらに番組がパワーアップできるかもしれませんね。
宮:番組スタッフって根底にあるのは、なにかモノ造りをするのが好きというか。なんでも良いから、それを作ることで喜んでくれる人がいればいいとか。チャリダー★のファンが笑顔になってくれるといいって思える人が応募してくれたらいいなあって思いますよね。
辛いことって何事にもあるけど、今ここで起こっているライブ感が番組につながっていくから、楽しいはずですよね。緊張感もあっておもしろいんじゃないかな。
…と話題につきませんが、ひとまずこのへんで。第2回目はあるのか!?
そこで……
『チャリダー★』は番組を一緒に制作をしてくれるスタッフを募集しています!!
【職種】
▽アシスタントディレクター
主にディレクターの補佐としてリサーチや撮影準備、編集補佐等を主に行いながらディレクターやプロデューサーを目指す。新卒、業界未経験者可【応募資格】
20歳以上、普通自動車免許取得者歓迎その他の詳細・エントリー情報はこちら
問合せ先:テレコムスタッフ株式会社『チャリダー★』採用担当
電話:03-5411-2311(代表)
メール:sakabaka@telecomstaff.co.jpご興味がある方は、ぜひご連絡を……
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得