2017年12月17日
【マスターズのためのホビーレース】UCI Granfondo world Series Spinneys Dubai 92に出場した話
UCIが主催するUCI Granfondo world Series。UCIが統括するマスターズ向けの本格的ホビーレースシリーズだ。日本で行われるニセコクラシックもこのシリーズに加わっている。
そして上位完走者(上位25%)には、まさに世界中のベテラン・ホビーレーサーの頂点を決める UCI GranFondo World Championships(UCIグランフォンド世界選手権)のパスが与えられる。このピラミッド式のチャンピオンシップシリーズによって、レースの一線を退いたサイクリストやベテランが、加齢したなりの環境で目標となるレースを楽しむことができるのだ。年齢区分は40-44、45-49……と5歳刻みで分けられる。最高齢は65-69で、まさに生涯サイクリングレースを楽しみ、この目的のためにトレーニング時間を費やすことができる。すなわち、生活にもハリがでる。ちなみに若者のためのカテゴリーもあり19-34歳までカテゴリーも地域でもっとも大きなレースとして人気があるようだ。
世界選手権というと、どんなスポーツであっても関わり合えるだけで誉れなもの。(いくつになっても)その片鱗にタッチすることができることがこのシリーズの醍醐味だろう。
今回筆者が参加したのは、2018年シーズンの初戦、ドバイで行われたUCI Granfondo world Series Spinneys Dubai 92 Cycle Challengeである。ドバイというとドバイ・ツアーやツール・オブ・カタールのレースシーンを想像するが、まさにそんな感じ。獲得標高は300m、95kmのハイスピードレースである。ドバイ・オートドロームからスタートし砂漠を貫く5車線はあろうかという国道を利用する。さらに幹線道路を西へ東へ、そしてサーキットに戻ってゴール。日本に置き換えていうなれば羽田国際空港から30kmほど離れたサーキット(さしずめ味スタあたりかな?)から環状線を閉鎖して90km走る……という感じか。参加者比率はドバイ在住の国内外の選手で多く占められている。
ドバイの12月は日本と同じで冬にあたる。気温は日中は25度くらいと低く、だが日差しは強烈だ。とはいえレース開始時間の午前6時は日が昇らず気温は15度ほどだった。肌寒いが日本からきた筆者たちにはちょうどよい。同行者はチームメイトの福田昌弘、長島純郎の3名。加えてチームFORCEの長妻さん、後藤さんのお二人という、日本人選手は合計5名参戦。
レーススケジュールは平日の金曜日早朝。レースの90%を公道で行うからだろう。これほどまでに豪快なプランニング、さすがは世界屈指のリゾート地ドバイだ。
昨年は数人の逃げが決まった。日の出前の闇に紛れて行ってしまったらしい。しかもゴール時間から予想すると平均時速44kmで逃げきったのだから、相当強い選手だったのだろう。
同行した福田・長島両名は昨年も参加している。昨年の記憶を呼び起こし数々のエピソードが語られるが、それに聞き耳を立てながらレースのプラン、もとい海外レースなので旅程をじっくりと錬る(もっとも経験者頼みになってしまったけれど)。彼らにとっても昨年は初めての経験。誰からの手引きもなく自らの手で道を開拓者だ。大げさかもしれないが、初めて踏み入れた異郷の地で行われるレースの緊張とストレスは彼らにしかわからない。笑って話す数々の失敗話(特に観光)だが重みがある。その対価だろう、今回の旅程は驚くほどスムーズに感じられた。
会場はオートバイのサーキット、オートドロームだ。スタート・ゴールもサーキット内に設けられている。EXPOエリアは観客席に。
受付エリアはテント2張。参加者2000人すべてをここで受け付けるようだ。
The Cycle Hubはオートドロームに併設されていた。ありとあらゆる物を揃えることができ、カフェが併設される理想的なショップをドバイで見つけてしまった。クラブチームもあり、今回のレースでは最大勢力であった。
現地到着当日に受付を済ます。UCIシリーズはむしろオマケで、ドバイでももっとも華やかなレース、Spinneys DUBAIサイクルチャレンジがメインイベントだ。受付直後にバイクの組み立て・チェックと試走を行う。会場には地元のバイクショップがあるが、どうも近隣にショップは無いようなので、バイクが正しく機能しているか確認をする。まずはバイクのチェックを優先すると、トラブルに見舞われてもリカバリーする時間が取れる。今回の輪行にはオーストリッチのOS-500の特別仕様を使う。心配になる梱包は筆者の経験と、プロサイクリストの輪行術を参考にした。この記事ものちほどアップしますのでお楽しみに。
日本の自転車用カバンや輪行バッグを製造するオーストリッチ製のOS-500。なるしまフレンド特注モデルの5cm延長モデルを使用した
問:なるしまフレンド神宮店、アズマ産業
サイクリングロードで軽く足を回す。日差しは強いが風は気持ちがいい
受付とバイクの整備が済むと体を軽く動かしたくなる。移動で12時間以上費やしているので、さすがに全身がこわばっている。コース沿いにはサイクリングロードがある。制限速度が100kmの道路のそばを並行して伸びる一本道は、想像するよりもずっと広く走りやすい。風が強く、路肩は砂漠。それでも道路が砂で埋もれていないのは、しっかりと管理されているのだろう。砂塵がときおり肌をかすめていくが粒子が細かいのでさらっとした感触だ。
走行を行ったのは、もっとも暑い時間帯だったが湿度が低くカラッとしているので、風を受けていると暑さを感じない。日焼けを危惧して薄手のロングスリーブを着用して走ったが快適だ。軽く30kmほど走って、その後は栄養を摂りながらレースの準備しつつゆっくりと過ごす。
計測チップ、ナンバーカードに補給食。スポンサーのバウチャーやクーポン、凍らせる前のココナツアイスに、ティーパックのお茶。ビオレーサー製のネックウォーマーにSpinneysで販売されるニュートリションなプロテイン。このメインスポンサーであるSpineeysは輸入食品を扱う大型のスーパーマーケット。もちろん毎日の食材はこちらで買い揃えました。
95kmのレースだが、走り方によっては消費エネルギーが大きく変わる。人の後ろについて後方待機しているなら、楽にレースを終えることができる。アタックや逃げ、集団の牽引を考慮するなら、それなりに補給食は持っていく。平地なら重さを気にすることはないので、多めに持っていっても困ることはない。公道を走るレースでもある。パンクやトラブルに見舞われた時のことも考慮して、修理キットや小銭も背中のポケットにしのばせる。
湿度が低いのでアンダーウエアを着用しても暑くはない。むしろ落車のダメージを少しでもダメージを軽減できる担保でもある。
レースのスタート時間は6時。従って起床時間も早くなる。4時にはホテルを出て、会場へ向かう。夜のうちに朝食を作っておき、移動しながら食事をとる。そくささと準備をするが、スタート時間ギリギリになってしまい、ちょっと動揺する。もちろん我々が最後尾。そして定刻よりも遅れてスタート。10カウントダウンが突然始まり、慌ててバイクにまたがる。サーキットは下り基調で闇の中を滑走するように下りる。これほど肝を冷やしたサーキットレースは経験したことがない。強力なライトを装着していたこともあり事なきを得るが、無灯火では萎縮してしまっただろう。
10分ほどのサーキット走行から公道に出る頃には、力尽きて中切れを起こす選手がでてくる。「すでに逃げが決まったかもしれない」と少し焦りつつハイスピードの中、ここが頑張りどころだとパワーを惜しまず順位を上げる。先頭に到達する頃にスピードがぐんと緩む。ここでチームとして機能できるならハイペースを維持するのが吉だろう。集団を分断できるチャンスだが、残念ながら意思の統一はない。一度切れた選手たちが続々と追いつき、大きな集団となった。
レーススタート。闇の中のサーキット走行は刺激的でした
アタックを仕掛けてみる。逃げは決まりにくいと判断し集団待機を選ぶ
集団からは切れ間なくアタックが発生する。動くものにすべて反応するかように必ず誰かがチェックする。集団は蛇行し波のようにうねる。これで落車などが発生しないのがやはりベテランライダーだからだろうか。あるいは総じて体躯が皆しっかりしているので、バイクコントロールに安定感がある。私もオランダ人の平均身長よりも高いのだが、それを圧倒する恵まれた体格の選手も多くいる。親しみがもてるし、久しぶりにスリップストリームを感じた。観察しているうちに切れの良いアタックを連発する選手を数人絞り込める。
20km地点あたりでアタックをしてみる。集団から数人で大きく抜け出すことができた。チームメイトの福田さんも一緒だ。2分間は全力で踏むつもりで加速するがローテーションが1〜2度しか回らず、あえなく飲み込まれる。捕まると集団のペースが緩むのでもう一度行く。もちろん決まらない。このあたりで逃げを観察しつつ、ゴールスプリントに戦略を変える。追い風基調でスピードが50km近くと高く、少人数で抜け出すのは困難だった。コースを折り返したところで向かい風。ここで抜けだすか? ともう一度行ってみるがダメ。この辺りで完全にスプリントだな、と作戦を決定…..しつつ機会を伺う。
しばらくこう着状態で単独アタックは散発的になるが終盤残り少ないところで、数人が先行した。筆者は集団中盤で見送ることしかできない。巨大なオーバーパスの上りで逃げの数人はキャッチするが、ここ日本から参戦した長妻選手が逃げ続けていることを聞かされる。チームとしては日本人選手が結果を残すことは歓迎できる。彼が捕まっても私が、という気持ちでゴール勝負をすることを決める。是が非にもポディウムに日本のフラッグを揚げなければ。
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著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得