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2018年11月18日

【THE EARTH BIKES】世界を制したアルベルト・コンタドール氏インタビュー in WAKAYAMA

アースバイクス代表の野口忍さんから寄稿、アルベルト・コンタドール氏インタビューをお届けします。野口さんはかつてトレックの現地法人であるトレック・ジャパンで来日した選手のアテンドを行なっていました。その経緯から今回来日したアルベルト・コンタドール氏のアテンドを行なったとのこと。


2017年10月、ジャパンカップ参戦の為初来日したコンタドール氏

アルベルト・コンタドールと言えば、サイクルロードレースファンであればその名前を聞いたことがない人はいないのではないでしょうか。グランツールと呼ばれる世界最高峰のステージレースである「ツール・ド・フランス」、「ジロ・デ・イタリア」、「ブエルタ・ア・エスパーニャ」をすべて制した数少ない偉大なロードレーサーの一人こそ、アルベルト・コンタドール氏なのです。

昨年宇都宮で開催されたサイクルロードレース「ジャパンカップ」のクリテリウムに参加するためにコンタドール氏は初来日し、現役最後となる勇姿を目に焼き付けようと多くの日本人ファンが宇都宮に集結しました。成田空港ですでに始まったその歓迎ぶりに非常に感動し、一気に日本好きになったと言います。私、アースバイクス代表の野口は前職であるトレックのマーケティング部にて彼の初来日時のアテンドを担い、滞在中少しでも快適に過ごせてもらえるようにTrek Segafredoチームに帯同し身の回りの世話を行っていました。そこでのつながりがあったので、今回和歌山に来ることになったアルベルトの通訳、一緒にライドや食事をするという非常にありがたい機会を和歌山県と和歌山観光連盟からいただいたのです。

和歌山県は現在「サイクリング王国わかやまWAKAYAMA800」という名称で、サイクリストに優しい環境作りに取り組まれており、またそちらに関しても野口が動画制作の協力をおこなったり、メディア向けにその魅力を語ったりアンバサダー的な存在として関わらせていただいています。コンタドール氏と和歌山県の双方に絡んでいるという関係もあり、今回のコンタドール氏の和歌山訪問に協力させていただくことになったのです。

野口さんも登場するWAKAYAMA800のPR動画はこちら※youtubeへリンクします。

今回、普段聞くことが出来ないような内容も踏まえ、アルベルト・コンタドール氏に直接聞いた話を基に、インタビュー形式で皆様にお伝えしようと思います。

1年ぶりに野口との再会を喜んでくれたコンタドール氏


野口:アルベルト、久しぶりですがまずは1年ぶりに来日してくれてありがとう。

アルベルト:昨年別れ際に「また必ず帰ってくる」と約束した通り、その約束を守ることが出来て良かったよ。シノブはトレックを退職してトレック専門店をやっていると聞いたけど、お店は順調?

野口:そうなんだ、THE EARTH BIKES(アースバイクス)って名前のトレックコンセプトストアを経営しているんだ。トレックのスポーツバイクは誰よりも愛しているし、良く知っているからそれをより一般のお客様に知ってもらいたいなと思ったんだ。トレックでの仕事は本当に遣り甲斐があり、それを辞める選択は簡単ではなかったけど、今はこの選択が間違いではなかったと感じられるほど充実はしているよ。アルベルトは引退後はどのような生活をしている?

アルベルト:練習から解放され、好きなものを好きなだけ食べることが出来るようになって選手時代にはできなかったことを楽しんでいるよ。

野口:全く体重も増えたように見えないけれど?

アルベルト:少しは体重も増えたけど、基本的にはロードバイクには乗り続けているよ。自転車には乗ることが好きだし、太りたくもないし、逆に急に乗らなくなると身体にも良くないからね。

野口:どのくらいのペースでライドを楽しんでいる?

アルベルト:仕事次第だけど、週に3日は乗るようにしている。だいたい1日3時間を平均約40キロで走っているよ。一人で走ることもあれば、1か月に3,000キロ以上走るロードバイク好きな友達がいるから、彼と走ることも多いかな。

野口:レースから離れて1年経つけど、またアマチュアレースでも参加したいとは全く思わない?

アルベルト:今はそれは思わないな。これまで100%レースに注いできたから、走るのは好きだけど、競うような走りはしたいとは思わない。グランフォンドとかは楽しんでいるよ。数週間前もタイで行われたグランフォンドにアンバサダーとして参加してきたばかりだよ。

野口:今回の和歌山県訪問は、なぜ和歌山?って思う人が多いと思うけど、どのような経緯で和歌山県に来ることになったの?

アルベルト:もともと「Wakayama」のことは全く知らなかったんだ。Wakayamaには、熊野古道という世界遺産登録されている昔からの巡礼の道があると聞いた。スペインにも「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」というキリスト教の祈りの道があり、世界遺産登録されている。世界でこの二つのみが巡礼の道として世界遺産登録されていて姉妹提携していることも知り、Wakayamaに興味を持ったんだ。2014年のブエルタで総合優勝したけど、この最終ステージが「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」だったんだ。だから自分にとっても非常に思い入れのある土地で、またそこと同じようなところが日本にあることを知って是非訪れてみたいと思ったんだ。


古座川の一枚岩をバックにメディア取材に応じる


レベルが違うのは当然だが、上りになるとついペースが速くなり苦しめられる

野口:実際に和歌山をライドしてみての感想はどう?

アルベルト:非常にサイクリストにとって走りやすい環境だと感じる。車のドライバーもサイクリストに対してリスペクトがありそうだし、安全にライドを楽しむことが出来たよ。そして何より、Wakayamaの美しい自然を見ながらライド出来ることも魅力なんじゃないかな。那智の滝や熊野本宮、熊野古道をライドで訪れたけど、もっともっと歴史を学ぶことでその魅力が何倍にも感じることができると思う。那智の滝で水を一杯飲むごとに寿命が1年延びると学んだので、毎年ここでたくさん水を飲んで長生きしたいね、笑。聞くところによると世界遺産登録されている温泉があったり、川底から温泉が湧き出ているところもあるみたいなので、次回はそういうところも行ってみたいね。

野口:ということは次回もあるってこと?

アルベルト:チャンスがあればもっともっとWakayamaを知ってみたいと思うし、多くのサイクリストにも是非訪れてもらいたいと思う。だから、自分も是非来年も訪れたいと考えている。

野口:トレックとの関りも聞きたいんですが、今はどのような形でトレックと関わっていますか?

アルベルト:トレックとはアンバサダーとして契約しており、イベント参加であったり情報発信であったりその魅力を発信しているんだ。自分自身、やはり選手の最後をトレックで終えられたことをうれしく思うし、やっぱりトレックバイクが自分には一番合っている。マドン、エモンダを中心に乗っているけど、新しいマドンはエアロ効果も高く、乗り味が良く軽量と素晴らしいバランスだ。エモンダはツールやブエルタでも使ったけど、やっぱり登るならエモンダがお勧めだ。トレックではデイライトを積極的に打ち出し、安全啓蒙に取り組んでいるけど、スペイン国内でもその効果で多くのサイクリストが日中でもライトを点灯するようになったんだ。

野口:日本でもそう。自分は普段お店にいるから、とりあえずお客様全員にライトの重要性は伝えるようにしている。少しでも事故を減らしたいし、実際自分の友人も後ろからきた車に追突され亡くしているから。そのような事故は絶対に無くさないといけないと感じている。


インスタグラム用に自撮り撮影


那智の滝をバックに記念撮影


野口:話は変わるけど、アルベルト自身が初めて優勝したレースって覚えている?

アルベルト:もちろん。13歳の時にサッカーに打ち込んでいたんだ。サイクリングも好きだったし、MTBに乗ってはいたけど楽しむ程度で練習などはまったくやっていなかった。ある日、サッカーの練習の間にサンドウィッチを食べていたら、友人が近くでMTBのレースをやっているから参加しようって誘ってきたので急遽飛び入りで参加させてもらったんだ。自分は一番最後尾からスタートで30分ぐらいのレースだったかな。一人ずつ抜いていったら気が付けば先頭を走っていて優勝したんだ。その時に自分には自転車の才能があるのかなって思い始めたんだ。当時から練習しなくても上りだけは誰にも負けなかったね。

野口:やっぱり上りのポテンシャルがあったんだ。上りと言えば軽やかなダンシング(立ち漕ぎ)がアルベルトの代名詞的な感じだけど、やっぱりダンシングした方が上りやすいの?

ボントレガーライトの明るさを撮影してくれと依頼するコンタドール氏

アルベルト:そうだね、やっぱり体格やライドスタイルにもよるけど、選手の時は立ち漕ぎで485ワットを20分とか練習でやっていたね。同じような質問をピーター・サガンから受けたことがある「立ち漕ぎするとすぐに脚がパンパンになるけど、どうすればそんな軽やかに登れるのか?」って。それに対して自分の回答は「どうやったら1500ワットもの出力をゴール前で出し続けられるんだ?」ってね、笑。結局同じ体型ではないから出来ないものは出来ないんだ。自分はもともとランニングでも短距離は遅かったけど、中長距離が向いていたからね。

野口:自分もそうだけど、ファビアンやサガンのような体重があるクラシックレーサーはあまり立ち漕ぎしないもんね。


和歌山県の山々に囲まれたライドを楽しむコンタドール氏

 

野口:日本人レーサーの今後についてちょっと聞きたいんだけど、どうすればあなたのような偉大なレーサーになれるんですか?そこまでとは言わなくても、フミ(別府史之選手)やユキヤ(新城幸也選手)のようなヨーロッパで活躍できる日本人選手に出てきてもらいたいと思うけど。

アルベルト:大事なことは彼ら(フミやユキヤ)のように、U23の時からヨーロッパで活動することだね。やっぱりヨーロッパではレースの数も、レベルも、選手層も厚いからそこで戦って場慣れしたり、レベルアップを図らないとまずプロとして走ることは無理だろう。その環境に身を置くことでそこに近づけるけども、そうでないと不可能だと思う。

野口:日本人選手もベルギーやフランスに若い時に行っている選手がいるけど……。

アルベルト:ベルギーに関していえば、総合系のレースではなくクラシック(フランドルやパリ~ルーベ)にフォーカスしている選手が多いと思う。またそのようなレースでの活躍を目指す選手も多い。でも自分のようなクライマーには不向きだし、もしかしたらベルギーで成功しなかった日本人選手もスペインで活動したら状況が違ったかもしれない。いずれにしても高校卒業と同時にヨーロッパで活動してU23の過ごし方次第で将来が決まるだろうね。自分達のチームもジュニアからあるけど、ジュニア時代はレースの走り方を教えるというよりも、むしろ人としての成長の方に重きを置いている。選手としてもだけど、まずは人として成功してもらいたいと考えている。

野口:日本からポテンシャルのある選手がいれば紹介したら受け入れてくれる?

アルベルト:もちろん。ただ、自分たちの方向性と同じ志をもっていないとダメだし、U23の1年目(高校卒業後すぐ)に来てもらえれば数ヵ月見てみるよ。それでその選手のポテンシャルがだいたいわかるから、プロになれる逸材であれば延長することができる。残念だがそうでない場合は日本に帰ってもらうことになる。

野口:わかった。じゃなんとか日本からポテンシャルのある選手を送り込めるように探してみるよ。


世界遺産登録されている熊野古道の一部アスファルト区間を走って記念撮影

野口:最後に日本のファンの方に一言お願いします。

アルベルト:日本人のファンの方の暖かさと、選手に対するレスペクトは他の国では絶対感じられないんだ。さいたまでの出来事なんだけど、ドラッグストアで買い物をしていたら女性のファンの方がサインと撮影してほしいっていうから応えてあげたんだ。で、その彼女がその後どうしたか想像できるか? 彼女は店の外に出て涙を流していたんだ。これまで長い間選手をしてきて、サインや撮影にもたくさん応えてきたけどそれで涙を流すファンの人は見たことないよ。そういうところが日本人の美しさであり、ヨーロッパ選手の多くが日本好きになる点じゃないかな。日本の文化や食が大好きでお寿司は本当に大好物だよ。

 

今でもロードには乗り続けているだけあり現役時代のダンシングと全く変わらなく軽やかに上っていく

 

 


このような形で野口の質問に気持ちよく答えてくれるコンタドール氏の優しさにも触れることができたいい機会でした。また是非日本で会おうと2度目の約束をして南紀白浜空港でお別れしました。


レース以外では冗談も言う陽気なスペイン人

写真:野口忍、THE EARTH BIKES

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Special Thanks to Wakayama & WAKAYAMA800
和歌山県 WAKAYAMA800オフィシャルウェブサイト:こちら
WAKAYAMA800の発表の様子はこちら

インタビュアー・プロフィール
野口忍
:トレックサポートのプロサイクリストとして、マウンテンバイク・クロスカントリー競技において、アジア選手権3度制覇、全日本選手権優勝など、数々の大会で勝利を収め、2007年度を最後に現役引退。引退後は、トレック・ジャパン株式会社に入社し、マーケティング部に所属。ファビアン・カンチェラーラ、アルベルト・コンタドール、別府史之といった世界トップアスリートのサポートや、新製品発表、プレシジョンフィット講師、メディア対応などトレック・ジャパンの顔として活躍。マウンテンバイクはもちろん、現役時代にはシクロクロスにて世界選手権日本代表や、ロードも「キナンサイクリング」のメンバーとしてツール・ド・北海道などにも参戦。現役引退後は、趣味としてトライアスロンに挑戦し、2015年宮古島ストロングマンでは年代別3位、総合16位でフィニッシュしている。 「ノグネン」のニックネームでみんなから愛されている。

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