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2018年07月31日

アマチュアのクラブチームスタッフはどのように選手をサポートすればいいのか by福田昌弘【全日本選手権 補給編】

日本で一番ロードレースが速い選手を決めるレース。
それが全日本自転車競技選手権大会ロードレース。最近では海外に活動拠点を置くチームや選手が参加しないこともあり「本当に日本で一番速いのか?」という意見もありますが、このレースで優勝すれば日本のチャンピオンという定義があることは間違いなく、参加をしていない時点でその権利がないだけとも言えます。

ツール・ド・フランスを頂点とするステージレース、1日のレースで終わるワンデイレースとロードレースも色々とありますが、私が一番好きなレースは世界選手権、そして次に好きなのが全日本選手権です。

理由は、どの選手も優勝したい、このレースでなければ次のレースが無い、という気持ちが一番強く現れると思うからです。
そんな全日本選手権ですが、申込みをすれば誰でも出場できるというものではありません。日本自転車競技連盟が決めた申込資格獲得大会で一定以上の成績をおさめた選手だけが出場することを許されます。

私たちのチーム、Roppongi Expressでも出場資格を得ている選手が何人かいたのですが、今年は一人、エースの高岡亮寛のみが参戦。年初から苦手なクリテリウムにも多く参加して結果を残し、過去最高のパフォーマンスでレースへ望みました。
私こと福田昌弘は、高岡のサポートとして全日本選手権に参加しました。その様子をお伝えします。


今年は、島根県益田市の公道を使った特設コースで1周14.2kmを15周する213kmという国内最長の長丁場です。

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車でコースを試走した印象としては、全体的には一部急勾配な箇所もありますが、緩いアップダウンが続き、また平地もあり楽にそうに見えて実はキツイコース。集団の後ろにいる分には脚を温存できますが、一端前に出ると休みどころがないため実力が顕著に速度差となります。

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また、一番長い坂がスタート直後にある補給所の坂であるため、ここがアタックポイントにもなっています。

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他のカテゴリーのレースもココで勝負が決まったようです。レースの週になって急に暑くなりました。当日も酷暑を想定していつもの3倍程度の氷を用意しました。周回数の多いエリートでは、補給の戦略も勝負をわけるカギとなりました。

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高岡は暑さに強い選手ですが、だいたい選手が「暑い」と感じた時には手遅れ。無理やりにでも選手に冷却を促します。
そこで、今年用意したのは、排水口などに使う水切りネットとメラミンスポンジ、それと輪ゴムです。ツール・ド・フランスなどを見ているとストッキングに氷を詰めたものを渡すことが多いようです。しかしストッキングは100円ショップで購入しても1袋あたり50円、これが水切りネットであれば30枚程度入っているため3円強、気兼ねなく使えます。

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そしてメラミンスポンジ、これはマラソンやトライアスロンの大会ではおなじみのアイテム。たっぷりと氷水を吸わせて使います。ボトルの水を被るよりもピンポイントで好きな箇所に当てることが出来ます。私自身、酷暑のトライアスロン大会でメラミンスポンジに救われたこともあり、高岡は使ったことがないとのことでしたが準備しました。

そして輪ゴム。他チームでは補給員が数名いることも少なくありませんが、Roppongi Expressの補給員は私一人です。限られた回数の中でより多くのものを渡したい。必要に応じてジェル、水切りネット、メラミンスポンジなどを輪ゴムでボトルにくくりつければ一緒に渡すことが可能です。

実際にそれを見た他チームの方も輪ゴムを欲しがり、現地で譲ってあげました。

中々レースへと進みませんがもう少し現場の話を。
戦略に応じて、敵チームであっても協調することがあるのがロードレース。さらに補給所ともなれば、他チームであっても多くの選手をサポートしようという気持ちは変わりありません。
過去には、フラフラになっていた他チームの選手にボトルを渡したこともあります。
限られたリソースしかない私達ですが、今年もイナーメ信濃山形の中畑監督にはお世話になりました。高岡が過去に所属していたチームということもあり、つねに高岡のことまで気にかけてくださいます。

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またFIETS GROEN 日本ロボティクスにはテントを貸していただきました。テントが無ければ高岡の前に私が熱中症になるところでしたね。本当にありがとうございます。

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ということでいよいよ15周回のレースがスタートします。
スタート地点では、知り合いの選手を見かけるたびに、水切りネットに入った氷を渡していきます。一人でも多くの選手にベストを尽くして欲しいというのが素直な気持ちです。高岡にも氷を渡しつつ調子を聞くと
「いいんじゃないかな?」
フルタイムで仕事をするホビーレーサーとしてはトップの14位となった昨年のレース前と同じ発言。おそらく調子はいいんだろうな。こちらも忙しくなりそうだと感じました。

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レースは1周目にホビーレーサーが起点となって30名程度の逃げが決まります。
エース級の選手はメイン集団にいるものの、ほとんどのチームが複数の選手を逃げに送り込んでいることもあり、タイム差はどんどん開いていきます。2014年に佐野選手が優勝した時(岩手・八幡平)と似たような展開になるだろうなと感じました。

逃げも追走もしばらくはペースが上がらないはず。そして高岡のいる逃げは30名程度ということで補給を渡すには都合がよい展開でもあります。

この補給ですが、どこでもいつでも渡せるわけではありません。補給を渡してよい周回と場所が決まっています。今回の補給エリアはスタート直後の上り、渡してよい周回は3周目から最終周回までとなっています。

このほかに機材交換可能なエリアもあるのですが、補給所よりは少し下の位置に。スペアホイールの準備はあるのですが、1人しかいないためホイールの交換が必要となったらホイールを抱えてダッシュするしかありません。
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出来れば万全の体制でサポートしたいところですが、小規模チームの厳しいところでもあります。

3周目

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いよいよ補給開始です。
ダブルボトルに十分な補給食を持ってスタートした高岡は何も取らず。普段から長いエンデューロなどを走っている経験もあり、どれくらいの補給食が必要かは本人が十分に把握しているはずなので、もし補給食を欲しがるようなことがあれば、緊急事態ということでしょう。

4周目

空になったボトルを捨てスポーツドリンクを取りました。
3周で1本ということは、全部で5本、2本は持ってスタートしたので途中で3回のボトル補給が必要になるだろうという皮算用をたてています。

5周目

なので、この周回では水分以外のものを要求される確率が高くなります。
ネットに入った氷かメラミンスポンジか?
高岡の要求はメラミンスポンジです。一応、ボトルと一緒に渡せるように準備していたので、ボトルから外して高岡にパス。大きさや形状的に渡しやすいのもよい点です。
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6周目

高岡は再びスポンジを受け取り、身体を拭きました。
暑さは、かなりのものです。
補給所の面々も、十分な水分補給をしてなるべく日陰で体力を温存するようにします。
補給所は大会側から渡されたパスを持つ関係者のみが入れます。毎年、そういうルールにはなっていたはずなのですが、残念ながらチームによってはパスが無い人が補給することも多くありました。今年は、例年以上に大会側も注意をしているため、補給所での混乱も少なかったように感じます。
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7周目

三度、スポンジ。
ここまでくると、無理やりにでもネットに入った氷を渡したくなってきますね。
ここで逃げとメイン集団との差が8分50秒に拡大。
ひょっとして後ろは全員降ろされるんじゃないのか? そんな空気が補給所でも感じられるようになってきます。
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8周目

無理やりにでも氷を渡したかったので、飲み口にひっかけてボトルごとパス。
予定より1周多いタイミングでボトルを取っていきました。本人の余裕が感じられます。
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9周目、10周目

ボトル以外の周回ではスポンジでの冷却がルーティンとなってきました。

11周目

レースが動きはじめます。

樋口選手(那須ブラーゼン)が逃げ、石橋選手(チーム ブリヂストンサイクリング)が反応、高岡も追っていったので補給は無し。
このコース、前述の通り、補給所がアタックポイントとなるため、タイミングによっては補給を受け取れなくなります。
ここから補給所でもJ SPORTSの中継を見ながらレースの展開を見守ります。ただし山間で電波の入りも悪く、日差しで液晶が反射して画面も見づらいという、非常に厳しい環境ではありますが。
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12周目

また補給所前でアタック。小石選手(チーム右京)が強烈なアタック。逃げ集団では誰も補給を取ることができませんでした。
高岡は苦しい顔、ここからがレースの山場です。

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13周目

先頭集団はバラバラになり、高岡は6位集団となるサードグループに。少し落ち着いたところで、氷付きのスポーツドリンクを取っていきました。
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14周目

選手は近づいてくると欲しいものを要求するのですが、何も発しない高岡。流石に余裕がなくなってきたようです。
「何ほしいの?」
思い出したように「スポンジ!」と。
慌ててボトルから外し、一歩だけ踏み出してギリギリパス! 本当はあまりよくない動きなのですが、人数が少なかったので事なきを得ました。
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15周目

高岡は何も取らずに最終周回へ!
もうサポートに出来ることはありません。
あとはゴール後に飲むためのコーラの準備ぐらい。さっさと荷物を片付けてゴール前へ移動。

優勝は一人で逃げ続けた山本元喜選手(キナンサイクリングチーム)。お見事! 
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バラバラとゴールする選手たち。

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フルタイムワーカー対決は井上亮選手の勝ち(8位・Magellan Systems Japan)。こちらもお見事。

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高岡は、自己最高位となる11位でのゴールとなりました。

国内のホビーレーサーが参加できる大会では、ここまでの補給が必要となることは、ほとんどありませんし、ツール・ド・おきなわなど大会側での補給がある大会でも、ラインレースの場合は多くて2回程度の補給が一般的です。

それゆえに、これだけの補給回数があるレースは滅多にはないことです。
補給の回数が多い分だけ、チームによって補給の戦略は大きく変わってきます。
私たちはアマチュアのクラブチームですから、各自が出している限られた予算の中でレース活動を行っています。その中でも工夫によって解決できることがいくつもあることが分かっていただけたかと思います。

今回は、選手としてレースを走る側ではなく、サポートとしてレースに参加する。
そういった楽しみ方をお伝えしました。

ぜひ機会があれば選手のサポートをしてあげてください。
最後になりますが、サポートでもレースに参加する以上はルールの把握は必須です。最近ではJBCFや地域の車連がJCF公認チーム・アテンダントの講習会を開催しています。1日の講習で資格取得が可能です。機会があれば受講してみてください。

写真:山本健一・福田昌弘 文:福田昌弘

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