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2016年06月01日

【Mt.富士ヒルクライムに向けて】宮澤崇史の富士ヒルクライム直前 テクニック&バイクチェック (前編)

宮澤崇史に聞く、Mt.富士ヒルクライム当日までにできること

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「僕はあまりヒルクライムは得意ではないんです。でも不得意なりに自分より強い選手に対抗するための上りの技術はもっていると思いますね」そう語る宮澤崇史さん。得意な選手の言葉よりも深みがあるお言葉。富士ヒルクライムまであと2週間を切った。今できるタイム短縮へのスキル、そしてこれからできることを伺ってみよう。

編集部(以下):ヒルクライムで成績を残すためには、いかにトレーニングを積んだか、にもよりますが、これからできるタイムアップの方法ってありますか? 

宮澤さん:まずは「最初の1kmはゆっくり走りましょう」。これはヒルクライム全般にいえます。多くの人は自分との戦いなんですね。

編:そうですね。

宮澤さん:集団の前方で大会記録の更新などを狙って走っているレベルでは、他の選手との駆け引きみたいなものもあるけれども、基本的に全体の98%ぐらいのサイクリストは、自分との戦いとなる。そういった人は最初の1kmの区間の中で、どれだけ自分が気持ちのいいリズムに入れられるかっていうのがもの凄く重要です。ほとんどの方が最初の1kmの間に力を使い切ってしまって、残りの時間は苦しさとの戦いみたいになってしまう。車に例えるならレッドゾーンですよね。レッドゾーンに一度入ってしまうと、もうどうしようもなくなるんです。なので、レッドゾーンに入らないところで、淡々と上っていかなければいけないです。

周りを気にしない

編:そのためにはどうすればよいのでしょうか?

宮澤さん:『周りを気にしない』ことです。

編:周りのペースに乗せられないように。

宮澤さん:そう。周りの選手は絶対『最初に』頑張っているので、『後になったらペースが落ちるんだろうだろうな~』っていうくらい、大らかな気持ちでスタートしたいですね。ちょうど1km地点くらいで、『もうちょっとスピードを上げていけるかもしれないな』っていう気持ちになれたら勝ちです。反対に『もうアゲていけそうにないな』って思ったら負けです。

編:なるほど。なんか調子がいいと逆にペースは突っ込みがちになるので、そういうときこそ、むしろ余裕をもったスタートを切れるといいですね。

宮澤さん:そうですね。僕は特に上りが苦手だったので、もうそこは一番意識しましたね。

編:レースでは苦手な部分をもっている選手の方がいろいろと対策を練っていると思うんですよね。

宮澤さん:そうですね。まあその対策っていうのは、例えばレース序盤とか中盤だったら、遅れることが許されない。なるべく集団の前の方から上りに入って、少しずつ少しずつ、後ろに下がりながら、マイペースをとにかく維持する。『自分が弱いことをわかっているっていうのが大事』で、遅れてもその後挽回すればいいので。
例えば、山岳TTでは、タイムアウトにならないように、とにかく序盤はゆっくり、後半に向けて、こうゆっくりゆっくりスピードを上げていく感じですよね。例えば1時間のレースだったら、最後の20分間に力を最大限発揮できるように。スタートからの40分間というのは、抑えて最初の10分がウォーミングアップ的な気持ちで入っていってください。10~40分ぐらいまでは淡々とリズムを保ち、最後の20分間は最大限頑張る。これが『ペーシング』になりますね。
『ウォーミングアップ』といってもくるくるペダルを回しているわけじゃないので、気持ちの中にちゃんと大きな余裕がもてるっていうところがウォーミングアップ的なマインドですよね。

編: ラスト20分で最大の力を発揮できるような余力を残して走るということですね。

PACE_MIYAZAWAaa右から、ライディングフォームのイメージだ。スタートから1kmはリラックスを心がける。10〜40分はイーブンペースで走り、ラストにむけて20分は最大の努力で走る。

宮澤さん:そうですね。例えば心拍計とか使っている方がいらっしゃったら、アプローチから心拍が見られますよね、自分の最大心拍数をレースの前に1回測ってみると良いですね。

編:最大心拍数を測ったら、具体的にどう使えばいいですか?

宮澤さん:レースのとき、例えば最大心拍数の65%ぐらいからスタートして、5~10分間ほどで到達した地点ぐらいでは70~75%。そこからはちょっとずつ上げていって、最大心拍数の80~85%ぐらいで40分地点まで頑張る。さらにその上の一番苦しい80~95%ぐらいのところで、最後の20分走り続けられると一番いいんじゃないかなと思います。

編:徐々に高めていくというのがコツですね。

宮澤さん:パワーメーターを使っている人は、FTPを計測しておきましょう。FTPのちょっと下、90~95%ぐらいからスタートして、最後はFTP以上、105~108%で走れるようになってくると、かなりイイですよね。

レース直前のトレーニング方法!

編:あとは、「初めて出場するのでどう走ったらいいのか」。Mt.富士ヒルクライムは初参加の方も多いのです。スタート直後のゲートまで500mほどの急勾配で結構、足を使ってしまう人も多いですね。

宮澤さん:平均勾配が5.2%、最大勾配は7.8%。序盤の勾配がキツいレイアウトなので、初めての人は最初の500mは隣の人とお喋りをしながら上がるペースでOKですね。「ゲートをくぐったら、さあがんばろう」でスタートしてみましょう。

編:ウォーミングアップの気持ちですね。

宮澤さん:呼吸がキツくて隣の人と話すのも大変なペースだと、アウトですから。

編:その先に待っているのは……。

宮澤さん:……最悪のシナリオです。『最初のゲートをくぐるまでは、女子高生の通学ペースでいきましょう』。
中級レベル以上、何度もヒルクライムを走ってきたことのある人でも、最初の500mの対策を練っておいたほうがいいですね。
例えば、家で室内トレーニングをするときなど、500mなので1分30秒の全力走、その後に1分ぐらいのダウンを入れて、そこからミドル走のトレーニングをしておくと、ペースが上がっても、落ちついて対処できるようになります。

編:急なペースアップに身体を慣らしているわけですね。

宮澤さん:そうですね。例えば、『1分30秒を全力×1分ダウン×20分FTP90%のトレーニング』を3回ぐらいできるのが理想。でも。超上級者向けですね。

編:3回っていうのは1日にですね!?

宮澤さん:1回のトレーニングで3セット。そのぐらいできるようになってくるとレースでもイイ感じになるんじゃないかなあ、と思いますね。

編:なるほど。このトレーニングが遂行できなくても、よい目安になると思います。やっぱりレースの序盤が肝心で、中盤以降は、ラストに備えて……ということですね。

宮澤さん:平坦しか走るところがない場合ですが、ちょっと重いギアで高速域のトレーニングをしておくと、レースの後半踏めていけますよね。とにかくトルク負けすることが、勾配の緩いレースでは一番問題になります。

【TIPS】2時間を切ってゴールしたい!

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編:『2時間を切りたい」っていう方に伝授できることは?
宮澤さん:『軽いギアをつけて』というのが一番ですね。最低でも90~95回転/分で回せるギアを用意してほしいですね。
編:自分の出せるスピードを把握した上で、回転数が90回転/分になるギア比を求めればよいですね。
宮澤さん:90回転/分ぐらい回るギアじゃないと、自分のペースを作りづらいです。だいたいギアが足りなくて、70回転/分くらいで走っている初心者の方は多いです。
編:重いギアで走り続けると、どうなりますか?
宮澤さん:ある特定の大きな筋肉のみを使ってしまい、そこだけが疲労して上り続けることになる。長い時間チカラを発揮し続けられない。疲れやすいんです。
編:特定の大きい筋肉というのは?
宮澤さん:大腿四頭筋だったり、例えば肩の筋肉だったり。大きいチカラを出せる部位ですよね。ちゃんとペダルを回せるようになってくるとインナーマッスルなどもちゃんと使えるようになってくるので疲れにくくなるんだと思います。

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ダンシングで疲れを飛ばす

宮澤さん:あとは、ダンシングの練習しましょう。シッティングでずっと走っていると、辛いだけになってしまう。脚の疲労を拡散するように、ダンシングを交えるといいです。例えば1~2分、ダンシングを続けられる練習はしておいたほうがいいですね。都内でも1分~2分だったら実施できる場所もあると思います。 
平坦だったら、ちょっと重いギアを使って、50回転/分くらいまで落としてみましょう。これなら河川敷でもできますからね。

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山に行かなくてもできるヒルクライムの練習方法!?

宮澤さん:例えば、平坦を一定ペースで速く走ることも良いトレーニングになります。上り坂って一定に前に進んでいるように見えるんですけれども、ペダリングにまだ慣れてない方っていうのは、踏んで踏んで、っていうチカラが強く、力んでしまっている。左右のペダルを踏みこむ間で、実は速度が若干落ちている。そしてまた踏みにいっている。まさにインターバルを続けちゃってる状態なのです。そういう方の平坦の走りを見ても、同じように踏んで踏んで踏んで踏んでっていうインターバルが続いてしまっているので、できるだけ力が抜けてしまう時間が少なくなるように、脚をちゃんと回せるようにトレーニングを行なうといいですね。それが身体に染み付いてくると、上り坂でも脚をしっかり回せて、インターバルをかけずに上り続けられるので、かなりラクになります。例えば、『チェーンのテンションを一定に保つようにペダルを回す』ということでしょうか。

編:ギアを重めにっていうのは、ケイデンスとかは気にしないで、とりあえず上りの雰囲気でギアを重くする感じですか…?

宮澤さん:富士ヒルクライムって、上っていけばいくほど勾配が緩くなるので、重めといってもレースペースですよね。85~90回転ぐらいで、例えば、15~20分ペダルを回し続けられる自分のスピード域を探しながら、トレーニングを行なうのがいいですよね。これはロードレースと同じような回転数ですが、少し高いケイデンスでトレーニングをしていると、そこから少し低くなったときでも回しやすくなるので、精神的にも余裕が生まれます。

編:例えば初心者向けの人に、ケイデンスのわかるメーターがついてない人に、『90回転ってどんなイメージですか?』って聞かれたときにどう答えます?

宮澤さん:一番やりやすいのは、時計を自転車にくっつけて行くといいですね。チッチッチって…。ケイデンスメーターを買うのが一番ですが、初心者は特にすぐには買えない。ケイデンス90回転って結構速いですよね、初心者にとっては。メトロノームを使うのも手ですね。これはスマートフォンのアプリケーションを利用するんですよ。そういうものを駆使してトレーニングをするというのもレースに活きると思います。

【TIPS】肩を回してリラックス

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「肩にチカラが入ってしまう人が多いのでリラックスしましょう。例えば走りながらでも肩を回すと良いですね。走りながら補給が摂れない人も、路肩に避けて補給食のジェルを摂りながら肩を回す、というのは効果があるものです」

補給について

編:2時間以上かかってしまう場合、補給を摂る必要がありますね。

宮澤さん:必要だと思います。ヒルクライム自体は強度の高い運動になるので、レース前はあんまり食事を多く摂らない方がいいと思います。レース直前の1時間30分前までにちゃんと朝ごはんをしっかり食べておき、直前に摂取しないようにしましょう。レースがスタートして50~60分したらジェル状のものを摂取しましょう。50分おきくらいに食べるといいですよね。また、水分も同時に飲むことで、しっかりと身体に吸収されていくと思います。休むポイントとしてはキツい場面ではなくて、走り出しやすいところで休むのがいいですね。

後編では宮澤流のバイクチェック方法をご紹介しよう!


(写真/和田やずか)

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