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2016年04月20日

【佐藤悠基選手インタビュー】長距離界のトップランナーが、東京五輪を目指してロードバイクでトレーニング

SATO-24

 


箱根駅伝で3年連続区間賞、日本選手権10000m4連覇、ロンドン五輪5000m・10000m出場など 輝かしい実績を誇る日本長距離界のトップランナー佐藤悠基選手(日清食品グループ陸上競技部)。現在はマラソンを主戦場にし、2020年東京五輪を目指してトレーニングに励んでいる。最近はロードバイクを活用したクロストレーニングに取り組んでおり、先日、2台目のロードバイクとして「Specialized Venge ViAS(スペシャライズド ヴェンジ ヴァイアス)」を手に入れたと聞き、話を伺った。


 

マラソンのための持久力強化と疲労回復

ーー いつごろからロードバイクに乗られているんですか?

佐藤「4、5年前ぐらいからです。それまでトラックレース専門でやってきたんですが、マラソンに移行するにあたって、走る以外のトレーニングも取り入れたいと思い、クロストレーニングに活用できたらと始めました」

ーー どういうトレーニングをされているんですか?

佐藤「持久力を鍛えることと、疲労回復がメインです。マラソンは2時間を超えるレースで、つねに身体を動かしていないといけない。でも、長時間地面の上を走ってトレーニングするのは身体へのダメージも大きく、ケガのリスクも高くなる。自転車だったら1日中走っても、身体へのダメージはそんなに大きくないし、長時間身体を動かすことに慣れられる。身体への効果は実感しにくいですが、意識面では長時間、身体を動かすことが苦にならなくなりました」

ーー 距離はどれくらい乗られるのでしょうか?

佐藤「長くて、70㎞ぐらいです。練習拠点が都内なので、信号ばかりでストレスが多かったり、合宿も多いので乗れる日は少ないですね。でも、こないだは江の島まで往復しました。ロードバイクに乗ることは気分転換にもなりますね」

ーー 具体的な自転車でのトレーニングメニューは?

佐藤「細かいメニューはないのですが、マラソンのレースから逆算して3カ月前の練習導入期にたくさん乗るようにしています。下地作りの期間は長時間を身体を動かすことが重要なので、ロードバイクを重宝しています。あと、長く走ったり、きつい練習をした後は、疲労回復のために家でローラー台をこいでいます。心拍数140ぐらいで軽めに回して血流を良くし、うまく疲労を抜くアクティブレストですね。試合が近づくと、外で乗るのは接触とかのリスクがあるので、ローラー台が多くなります」

ーー 自転車以外にクロストレーニングとして何か取り組んでいることは?

佐藤「トラックがメインのころは種目の距離が短いので、練習量もあまり多くはないし、クロストレーニングは必要ありませんでした。ただ年齢を重ねると、若いころと同じトレーニングができなくなってきて、何か変えたいなと思うようになりました。いろいろ手を出したんですが、ウェイトトレーニングは自分に合わなかった。水泳は昔やってたんですが、水の中よりもロードバイクで身体を動かして血流を良くする方が疲労の回復が早かった気がします」

20150222佐藤悠基*東京マラソン

自身2度目のマラソン挑戦となった、2015年東京マラソンでの佐藤選手(写真提供:日清食品グループ陸上競技部)

 


ロードバイクでのクロストレーニングを取り入れている佐藤選手。その主な目的は、持久力の強化と疲労回復の2つにある


 

市民ランナーにもロードバイクはおすすめ

ーー ランナーの間でも自転車でトレーニングする人は増えてきているんでしょうか?

佐藤「周りのランナーで自転車に乗っている人もいますし、トレーニングに取り入れる人も少しずつ増えてきていると思います。でも、普段の自転車でトレーニングするときは1人のことがほとんどです。チームメイトを誘っているのですが、興味はあるけど、自転車自体が高価なものなので、もう一歩踏み出せないようです」

ーーまだまだこれからなんですね。

佐藤 「ただ一般のランナーで自転車を取り入れている人は多いですよ。ランナーは自転車にハマりやすい傾向があると思います。市民ランナーのみなさんは僕ら実業団選手より筋肉が少ないぶん、走るだけの練習だとヒザを痛めたり、いろんなところをケガしやすい。自転車をトレーニングに十分に活用してもらえると思います」

ーーこれからは、もっと広まっていくには何が必要でしょうか?

佐藤「ランニングの指導者がまだ自転車について十分な知識をもっていないのが、広まっていない理由だと思います。でも、若い世代の指導者は自転車に興味をもっている人もいる。最近のランナーのコミュニティはSNSで情報が広まるのが早いので、良いものだとわかれば広まっていくと思いますよ」

ーー佐藤さんが、その先駆けの1人となるわけですね。

佐藤「マラソンは、これをやれば正解というトレーニングが見つけにくい。走るだけではなく、いろいろなトレーニングが必要だと思います。毎回試行錯誤ですが、自転車をうまく活用できればいいですね。僕も周りに効果を聞かれたときは、『自転車は筋肉に負荷をかけず心肺機能を追い込む効果がある』と言っています。まだ勉強しないといけませんが、知識をつけて取り組んでいきたいですね」

ーー自転車の選手から情報を聞いたりすることはありますか?

佐藤「自転車ではないですが、ロンドン五輪のときはトライアスロンの細田雄一選手、田山寛豪選手と親しくなりました。一緒に自転車で走りに行きたいねと話してますが、スケジュールが合わず、まだ実現していないです。彼らからもいろんな知識を吸収したいです。僕も水泳をずっとやっていたので、競技生活を終えたらトライアスロンもやってみたいなと思います。せっかく良いバイクも買ったので(笑)」

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箱根駅伝で燃え尽きる大学生ランナーが多いなか、29歳となった今もトップレベルで走り続けている佐藤選手。「大学のときから海外遠征を経験していて、世界で勝負するという明確なビジョンがあったから」とモチベーションを高く保っていたためと、自ら分析する

 


佐藤選手のスペシャライズド ヴェンジ ヴァイアスは、今年2月末に購入したばかり。世界最速のバイクを作るという目標を掲げて開発されたヴェンジ ヴァイアスは、自転車ロードレース界のトップ選手も愛用する。佐藤選手にとって重要な大会であるロンドンマラソン(2016年4月24日開催)を直前に控えた時期に、新しいロードバイクを手に入れたのは、ある思いがあったからだ。


 

ヴェンジ ヴァイアスは一目ぼれ

ーーヴェンジ ヴァイアスを選ばれた理由は?

佐藤「これまで乗っていたバイクはエントリーモデルなので、物足りなくなってきました。スペシャライズドを選んだのは、ヨーロッパへ合宿遠征に行ったときツール・ド・フランスをテレビで観て、乗っている選手が多くてかっこいいなと憧れがあったから。ヴェンジ ヴァイアスは見た目もかっこいいので、一目ぼれでしたね。乗るからには見た目も重視したいし、モチベーションが上がるバイクに乗りたい。僕の中でグッときました」

ーー乗ってみた印象は?

佐藤「以前のバイクとは全然違うと実感しています。進みが違うし、ストレスがない。良いマシンを買ったので、自転車のレースに出るまではいかないけど、しっかりトレーニングで活用したいです」

ーー今後、ロードバイクで走ってみたいところはありますか?

佐藤「今はマラソンの合宿で乗る機会があまりないんですが、マラソン後は少し休みがもらえるので気分転換を兼ねて遠くへ走りに行きたいですね。温泉に入って、ゆっくりしたいなと計画しています。暇があれば、静岡の実家まで帰ってもいいかな。いつか海外の合宿にも持っていければいいですよね。アメリカはどこまでもまっすぐな道が続いているし、スイスも景色がきれいだから、走ってみたいです」

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ツール・ド・フランスにも注目しているという佐藤選手「3週間ほぼ毎日何時間も体を動かしているので、マラソン以上にスタミナがないといけない。同じ持久系競技としてどんなトレーニングをしているか気になります」

目標は東京五輪「自分もバイクも、ワンランク上に行きたい」

ーー陸上での今後の目標は?

佐藤「これからはマラソンをメインにしていきます。最近、日本の男子マラソンは低迷していると言われているので、そういう声をなくしていきたい。日本記録(高岡寿成さんの2時間6分16秒/2002年シカゴ)も10年以上更新されていないので、それを更新することがまずは目標です。まだ世界記録(ケニアのデニス・キメット選手の2時間2分57秒/2014年ベルリン)とは3分以上差があるので、日本記録を更新して世界のトップ選手と戦えるように力をつけていきたい。そして、2020年東京に自分のピークを持っていけるように考えています」

ーーこれまでは3度マラソンを走られていますが。

佐藤「今回のロンドンマラソン(4月24日開催)が4回目と、僕はまだまだ経験は少ない。マラソンは1年に何度も走れないし、30km以降は経験がないと難しい。これから経験を積み、4年かけてタイムを上げて、世界で勝負できるように持っていきたいです。過去3回はマラソン用の練習をほとんどしていなくて、ゼロの状態でどこまでできるか試してきました。結果を出すよりも、課題をもって取り組んだ実験みたいなもの。でも、これからは結果がすべてのレース。覚悟を持ってやっていきたいです」

ーー次のロンドンマラソンが大事なレースなんですね。

佐藤 「ロンドンマラソンからが、自分にとって本当のマラソン人生のスタートだと思っています。実は何か自分にプレッシャーをかけること、自分にプラスになることをしたいと思い、いろいろ考えた中でバイクもワンランクアップしたいとヴェンジ バイアスを買ったんです。自分も結果を出して、ワンランク上を目指したいです」

ーーどのような走りを見せたいでしょうか?

佐藤「僕は武器はトラックで培ったスピード。世界のマラソンは高速化が進んでいるので、このスピードを生かして世界のトップ選手と勝負したいですね」

日本マラソン界に新たな1ページを刻むべく、挑戦を始めた佐藤選手。サイクリストの視点からも、ロードバイクを取り入れたトレーニングがどのように実を結ぶかは注目だ。今後も佐藤選手の走りに声援を送り続けたい。

SATO-25
佐藤選手の愛車、スペシャライズド ヴェンジ ヴァイアス。現ロード世界王者のペーター・サガン(スロバキア)、現役最速スプリンターのひとりマルセル・キッテル(ドイツ)も同タイプのモデルに乗る。「いじる方にも詳しくなって自転車愛を深めたいし、いつかはイベントにも出てみたい」と佐藤選手

 


 

SATO-19
佐藤悠基 さとうゆうき
1986年11月26日生まれ(29歳)
静岡県出身
経歴:佐久長聖高校~東海大学~日清食品グループ陸上競技部
身長/体重:179cm/60kg

中学、高校時代から数々の記録を打ち立て、東海大学では箱根駅伝で3年連続区間賞。実業団・日清食品グループ陸上部に進んでからも、日本選手権1万m4連覇(2011~14年)、2012年ロンドン五輪1万m・5000m出場、世界陸上2度出場と活躍。初マラソンは2013年東京マラソンで、フルマラソンのベストタイムは2015年9月ベルリンマラソンの2時間12分32秒。来る4月24日、ロンドンマラソンに出場する。


(写真/中島健一)

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