2020年01月21日
【トム・ボシスさんインタビュー】方向性をひとつにすれば道はひらける
日本の自転車競技のシステムをどう思うか。
ロードレースにおいて自転車先進国と比べると日本は後進国と言わざるを得ないだろう。大きな違いはなんだろうか。
トムさん:いわゆる「世界基準」という視点で比較すると、わかりやすいですね。各国の自転車競技連盟(NF)のトップには、UCI(国際自転車競技連合)があります。ここで定めた基準に沿って各国のNFが運営をしていきます。日本のNFはJCFですから、その役割を担っています。
そして現在のJCFはUCIが求めている最低限の業務をこなしているというのが現状でしょう。
つまり諸外国のNFが仕切っている多岐にわたる業務などは日本では自然に他団体が補っている。そこにはビジネスになる可能性がありますから。
フランスを例に挙げると、NFがすべてを仕切っています。だから明快で調整がしやすいのです。
自転車競技をやりたいと思った人は地域の自転車屋さんに相談すると、街のクラブの連絡先を教えてもらえる。そのクラブへ入会すると、クラブ自体がNFに加盟しているため、自動的に加盟されます。レースに出たいと思ったら、すぐに地域のレーススケジュールを送ってもらうことができます。すごくシンプルに競技を始めることができ、エントリーまでクラブが担当してくれます。それがフランスです。
アメリカの場合も日本のような部活制という側面があったりと、やり方は国それぞれですね。
イタリアのアマチュアレースの場合はジュニア以降の年齢になると、アマチュアという大きな枠になり、カテゴリーが統一され皆同じレースを走ります。ホビーレーサーはグランフォンドなどを走っているようです。
このように国の文化の違いで特徴がありますが、それでも共通しているのがスポーツが中心になっていること。
日本では体育が中心になっている※。そこにスポーツが乗っかっている。
そもそもがここから始まる話なので、フランスのように全部まとめてやっていこうというのは大変難しいことは理解しています。
※スポーツの定義は自発性、自主性のもと行う運動としている
よりよいシステムを構築するためには
ではフランスのようなシステムを作ればイイのか?
トムさん:様々なシステムを決めている人たちが別々の団体です。我々は地方レベルでしか影響できませんので、そもそもが、あるレースにしか出られないし、出るためにはあるシステムに登録しなければならない。しかし、その中でも、最初は地域レベルでもいいから、我々なりに方向性を明確にしていき、少しずつ見本となっていければなと考えています。
“システム全体を良くするためにはどうすればいいのか”というのは我々の手が届かない話で、やり方や順番もいろいろあると思います。
仕方がないけれど、ある程度はひとつの方針にすべきなのは間違いないと思います。
バラバラのリーグをひとつにまとめるために共通の意識・価値観を作っていかないと、選手に対する指導を行う際に、たとえば高校の教師とナショナルチームのコーチの指導内容に矛盾が生じることもある。
そうなってしまうと構想自体が間違っていると言わざるを得ず、まずはそこを直さないといけません。
組織の位置付けとして、もっとも動いてくれているのはJBCFです。新リーグの構想も発表されており、良い方向に向かっているといえます。但し、楽観視できない部分もあるように感じています。
2021年から本当にできるのか。
いままでずっとバラバラの意識だったプレイヤー・オーガナイザーをひとつにまとめることは、容易ではないでしょう。
ただそれを目指していくのは間違いはありません。そのために、我々も力を貸していかなければならないと考えております。
具体的にどうすればいいのか……、以前意見書を書かせていただき、JBCF理事の方々に提出しました。
「Jプロトム」新リーグの構造を考えてみた トム・ボシス
http://www.sisbos.fr/wp-content/uploads/2019/11/J%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%A0.pdf
いまJBCFがやろうとしていることはJプロツアーを通じて「プロ化」を進めることですが、プロの管理をしているのはUCIなのです。そのシステムの一環ではなく独自で進んでいます。そのため、世界に繋がらない、閉鎖的なリーグになってしまうのではないかと危惧をしています。
本来はJCFがアマチュアの基盤を整えた上で、プロはUCIのシステムを活用して作っていくべきでしょう。
リーグの仕組みとしてお金がちゃんと回るように、そして回るようになったら投資をして、発展をしていくようなビジネスモデルを作っていくといいと思います。ようするに、「順番を守る」ということですね。
今の日本には自転車競技に対する理解が少ないのでスポンサーとなる企業や、団体との連携もとれない。運営スタッフも人数が少なく営業にいく環境を作る人材もいない。
提案のひとつですが、日本にはサーキットコースが各所にあります。これをどんどん活用してたくさんのレースを開催する。
走れる機会をたくさん設けて年間でもっと楽しめる、強くなれるようにしていく。
それが楽しければ登録者も増える。それに従い資金ができます。人気が高まれば一般の理解も深まるでしょう。
お金ができたら公道レースを開くために自治体との連携に使える。企業や団体にも協賛の話をもっていきやすくなる。
これは我々が行なっている事業と同じですね。
基盤ができてきたら、価値がある公道レースを大事にしたい。
現在はひとつのレースで多くのカテゴリーを走らせていますがトップ選手のみ、あるいはジュニアの全国大会などを入れ込んで“観るためのレース”の基盤を作っていきたい。
サーキットコースは運営業務のハードルが低いので手頃な金額で、誰でも参加できるような設定をするとリスクも少なく、リーグのしっかりとした基盤が作れると思っています。
以上は、僕がそう思っているだけで他の識者は違う意見があるかもしれませんが、ある程度統一された方向性を決めて、お互いの考えをまとめていく必要があると考えています。
社会性を大事にしたい
若い選手を育てるのがチームの役割。そのひとつとして大学と提携し競技活動を行うという取り組みを今後チームで行なっていくが、両立は可能なのだろうか。またその狙いは。
トムさん:どういう意識をもって打ち込むか。スポーツに打ち込むことで、学力が低下するということはありません。
我々は若い年齢の選手が所属している組織として同時に教育する責任も担っています。
選手の保護者に“責任をもって育てていきます”とは、相当の覚悟を決めないと言えないことです。
そういうところを大事にするのが、本当に子供を守るためには重要なことだと思います。
全てのスポーツにいえますが、選手というのは見本になるのが役割。
憧れの存在となるからスポンサーもつくわけで、そこが原点だと思います。
それを忘れてはいけません。高いパフォーマンスを出すのがすべてではありません。
もちろんそれは一番大事なことですが(笑)。社会的立場を果たすこと、それが選手の仕事ですね。
その道のプロになるということは、つねに見られているという意識をもつべきだろう。
“プロになる”ということは強い決意が必要だ。
取材協力:山中湖サイクリングチーム http://www.yamanakakocyclingteam.fr/
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得