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2017年02月11日

【EDDY MERCKX】三船雅彦×エディメルクス は、なにを生み出すか

ランドヌール三船雅彦さんは2017年よりエディメルクスを駆る。ベルギーの英雄、とよぶにはあまりにも大きな存在である、エディ・メルクス氏自身が自らの名を冠したブランド。そしてベルギーは三船さんにとっても第二の故郷ともいえる地である。この出会いは一体なにを生み出すのだろうか?

編集部:三船さんはずっとベルギーで生活されていて、かの地に思い入れがありますよね。このエディメルクスとの契約を結ぶのは必然的だったのでは?

三船雅彦さん:深谷産業さんが僕に興味をもってくれて、オファーをいただいてから話はすんなり進みました。僕が活動してきた中でのキーワードのひとつ、“ベルギー”というところに共感していただけたのが一番大きかったかなと思います。今はまだ成果は出てないですが、今後は私の現役時代のベルギーでの活動と、エディメルクスがベルギーの英雄によって作られたというところがうまくリンクして、どんどん相乗効果が生まれればビジネスとしても大きくなる気がしています。自分にとってもプラスになると思うので、エディメルクスとの関係は望んでいたというか、初めからなるべくしてなったという感じはしますね。
エディメルクスのバイクっていうのは、全然マイナスな部分がないですね。もちろんプラスはあるんだけど。ラインナップすべてのバイクにストレスを感じないというか。長くこの世界にいるので、極論からすると自分はプロ的感覚が強すぎるっていうのがある。多くの方は機材に関する執着心というのは「ヒルクライムは速いからもっとヒルクライムに特化したバイクがほしい」といったようなポジティブな部分しか見てないと思う。でも僕の場合はマイナスがなかったらなんとでもなるっていう感覚が強いのかなって思っています。

編:エディメルクスとベルギーのイメージというのは日本のサイクリストにどのように伝えていきたいですか?

三船さん:とくに最近、自転車というのはカラーであったりファッション性が進んでいて、僕たちが10代の頃に憧れていた自転車の機能美であったり、スペックと選手が一体となって出てくるはずのなにかが、出てきてないし、アピールされていないという気がする。
ファッション的な部分でカラーリングがすごく派手であったりとか、デザインがエアロ形状でっていうのは見るからにインパクトが強いですよね。そういう世界だけでいうと、エディメルクスは正直ちょっと出遅れているかなっていうのが否めない。
機能美っていう部分、ベルギーには石畳のコースだったり、悪天候が日常的という中でも、選手の「自分が勝ちたい、明日飯を食うために走り続けたい」といった思いをを支えなくてはならない。……という美しさが伝わり切れていないかなと。そこは、エディメルクスはここ数年くらい少し損しているかなって。
そこで僕を通じて、自転車が好きといって乗り始めたなら、ちょっとくらいの悪天候でも乗りに行こうよっていう、泥だらけになってもいいじゃないってという、自転車の世界観のひとつを感じてほしい。
最近ではグラベルとか、注目されているので、荒れた舗装や簡易舗装であっても、ちょっと近道的なあぜ道みたいなところを、こういうロードバイクでさっと行って、うまく走れた時にはまた違った喜びがあるのでメルクスを通じて、本場ベルキーの雰囲気であったり、エディメルクスのフィロソフィーを伝えられたらなと思います。

編:もっとバイクに乗ろうよ、といったようなエールに聞こえますね。

三船さん:そうですね。やっぱり自転車って乗らないとダメでしょ。やっぱり乗ってなんぼだと思うし、もっと言うと僕が自転車で一番満足する部分っていうのは自分が成長する、もしくは疲れていく過程でも、ポジティブに前に進んでいるって感じる部分。自転車は、前に進めば進むほどバイクの寿命を削っていく。だから自転車に乗りすぎて割れちゃったとか、実はその瞬間を美しいって感じるんだよね。
自転車がこの世からなくなっていく。走ったからこそ、そこに行き着くのであって、だから自転車のいちばんいい部分っていうのが乗っていて最後にそこで寿命がまっとうできる。そこまでやるのが乗り手として喜びであってほしい。
事故して潰したっていうのはイレギュラーなことであって、やっぱり乗って乗って乗りまくって、傷一つまで愛せるじゃないけど、そうして最後に乗りすぎて折れてしまったっていうのがね。そこまで乗り続けられたら幸せですよね。立場的にはプロモーションもあるので、どうしても1年や2年のスパンで新しいバイクに乗りかえるけど、個人的にはそこがストレスな部分でもあって、やっぱりそのバイクの最後が見たいっていう思いが強い。でも乗ってる時はその次の入れ替えまでに“そこまでやってやる”っていうのをつねに思っています。だから去年、現役引退してから初めて25,000kmという距離を乗ったけど、その行程でいろんな部品が朽ちていく瞬間を見ると、やっぱり乗るっていうことは素晴らしいことだなって思う。

編:前向きな壊れ方というか、壊れたらそれは悲しいけど天寿を全うしたな、といった前向きな感じがありますよね。

三船さん:“ちゃんと壊れてほしい”って気持ちがあるね。逆にブルべとロードレースでは同じ自転車は使いたくないっていうか。やっぱりロードはロード、ブルべはブルべとできっちり使い切りたい。

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編:先日、三船さんの通勤のSNS記事を読んでいて、インナーしか使わないんですかっていう質問に対して「そんなにアウター使ったら歯が減ってまうやろ」っていう返信をみて、ブルベのためにとっておくという考えがあるんだなと。私は運動強度を保っていたいというのもあって練習の時は上り以外ではアウターしか使わないんですが、機材の愛し方もいろいろあるなって思いました。

三船さん:やっぱり通勤で結構痛むんだよね。雨でもガンガン走ってまた次の日も掃除しきれなかったら、それでチェーンとか駆動系が痛む。
現時点はムーラン69だけがスタンバイされていて、しばらくすればEM525もスタンバイされる。一応、サランシュ64であったりサンレモ76あたりも、いろいろ人にバイクの特徴を説明するために乗らせてくださいっていう打診している。それが通ればロングターム的な感じで使えるので、そうなればブルべ用であったりグランフォンド用のバイクをセーブできるかなって。

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エディメルクス・EM525

 

編:今聞いた台数だけ供給されたとして、本当に乗りつぶすまでいくとなると至難の業ですね。

三船さん:でも1年1台って考えると、僕の活動内容の中でピンポイントでなら、そういうことが可能というか。まあちょっと欲張りなんで、グランフォンドもやりたいしブルべもやりたいし(笑)。

編:三船さんの自転車好きも筋金入りですからね。

三船さん:いやいやいや(笑)。筋金入ってないよ。最近カーボンバイクだし(笑)。

編:うまいですね(汗)。

三船さん:でも僕が常々思っているのは、自転車好きなんだったら乗ろうよ、ということ。天気が良くて乗れないのは誰でもイヤでしょ?でも、天気が悪くても乗らなきゃいけないんですよ、って言われたらどうしますか?  天気よくても乗れないってことが続いたら、天気が悪くても我慢して乗ると思うんですよ。
だから“乗るため”に乗れるんだったら、あれも乗るこれも乗るというふうにしていかないとって思っているから。乗りたくても乗れない人は世の中にいっぱいいるからね。
僕は乗ろうと思えば乗れるし、ちょっと仕事を次の日に倍に増やせば、乗った方が得だと思うから。

編:エディメルクスのバイクを供給されて間もないですが、現時点でどんな印象をお持ちですか?

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エディメルクス・ムーラン69

 

三船さん:今ムーラン69をブルべに使っています。ポジションを合わせたいので通勤ライドなどにも使っていて、結構頻繁に乗っていますね。エンデュランス&ロングライド系のバイクということで選んでいますが、700×26〜28Cというある程度は太目のタイヤが入らないとね。最近、ブルべもそうだけどある程度の太さがほしい。シルエットがエアロって感じのかなり太目のフレームワークだったので、見た目の印象からすごく硬いんじゃないかなと思った。でも思いのほかスッと乗れるというか、路面からの振動ががんがん来ることもなく、そのくせ立ち漕ぎした時はスムーズに前へササっと抜けていく。元選手っていう部分があるのかもしれないけど、レスポンスの良さは自分に合ったバイクだと感じるので、ホント乗っていてストレスがないですね。個人的にはもう1台ほしい感じ。ブルべ用にきっちり整備しておきたいから普段のライド用にも同じセッティングでもう1台ほしいって思うくらい。
フロントフォークのシルエットがフレームとは逆にすごく細くって、なんかフォークが負けるんじゃないかなって思わせるけど、実際乗ってみるとそこまで弱くない。トップレーサーがダウンヒルを全力で、極限のところまで攻めるとちょっとワンテンポ遅れてるかなって思うかもしれないですけど。例えばブルべで速いって言われている人や、実業団レベルでJPTで走っているようなレベルの人でなければ、今のムーラン69の性能限界まで到達しないっていう自信がある。割とブレーキをがっつりかけて曲がっていくとちょっとワンテンポ反応が遅いかなって。まあこれがレース用だったらそういう評価になる。レース用って考えればもうワンテンポ早くって思うけど、ブルべでそんな勝ち負けや、タイヤ一本分の差で競うシーンはまずないとなると極限のブレーキの限界性能ってまったく必要ないんですよね。そこまでやらないと見えない性能ってことは、実際エンデュランスで考えると合格点だし、そういう意味では立ち漕ぎがシャキッとしてて長距離乗った時に楽で、というのはストレスなく、現在僕が目指しているものにぴったりフィットするので、不満もなく乗ってますね。

編:価格的には?

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三船さん:価格はね、かなり安いですよ。今まで廉価版でずっと自転車やられてて、さあ2台目にはイイのを買うぞっていう人から見たときに、値段だけでいうと上位のカテゴリーに入らない。ちょっと見てもらえないかなって危惧しているけど乗り味でいうと1つ上のカテゴリーだと思うので……。完成車にアッセンブルしているのはシマノ・105。この設定しかないけどアルテグラとかデュラエースなどのコンポに次ぐグレードで使いやすい。そういう意味ではすごいお勧めできると思うんですけどね。

編:かつて試乗した時も良かったと感じましたね。

三船さん:正直試乗する前はエディメルクスって印象があまりなかったけど、乗ってみるとすごくいいじゃんと。どっちかというとサクッサクッっていくっていうよりも、ベルギーの石畳じゃないけど、そういう激しいコンディションでエクストリームに使いやすいって印象のが強いかな。

編:三船さんのバイクはカンパニョーロで組みなおしたんですか?

三船さん:そう。全部レコードで組んでいます。今年は敢えて普段使い慣れたEPSから機械式のものに変更しました。ロンドン〜エディンバラ〜ロンドン(1400kmのブルベ)で使う予定。カンパニョーロEPSだと、1400kmの距離はカタログスペック上問題なく走れるけれど、もしかすると何かあると無理かもしれない。2年前にパリ・ブレスト・パリのときは、1330km走って、翌日80kmほどライドへ。後半はアラームなりっぱなしだったから。だからそれを考えるとかなりリスキーだなと思って。とはいえ今のコンポはサクサク動いてくれるのでまずストレスはないけどね。

編:メルクスを使った活動としてはそういった海外のブルべシーンとか、UCIグランフォンドなどに出るのかなと予想していますが?

三船さん:そうそう。今年は一応ニセコに行く予定。ちょっとまだ正式に決まってないけどね。

編:開催日が重なってるんですか?

三船さん:開催日が近いんです。実際、ニセコの直後にロンドン〜エディンバラ〜ロンドン。これはいけるとして、この直後にフランスのグランフォンド世界選手権がある。もうそれこそ2週間後くらいなので、さすがにそれはきついなって。今年はロンドン〜エディンバラ〜ロンドンだね。

編:それはぜいたくな悩みですね。

三船さん:でもニセコの直後に世界選の用意ができるかって話もある。ニセコでアウトだったら行けないって考えると、フランスの世界選を想定するのは、正直ちょっときついなって言うのがあるんだけどね。

編:国内のブルべの活動予定は?

三船さん:国内のブルべは、去年より若干少なめ。ただ今年は春のうちにSRをクリアするように3月中には全部やるつもり。極寒の天気も悪いようなときにエディメルクスと一緒に走るっていう意味ではとてもメルクスチックな感じというか。

編:確かに(笑)。エディメルクスと三船さんの親和性はかなり高いですね。ロンドン〜エディンバラ〜ロンドンの回顧録もまた御伺いしたいと思います。そして2年後のパリ〜ブレスト〜パリにも向けて……。

取材協力:深谷産業 http://www.fukaya-sangyo.co.jp/eddymerckx/
(写真と文/編集部)

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