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2016年10月31日

4賞ジャージが集結した4年目のさいたまクリテリウム

今年で4年目となる「J:COM presents 2016ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム」が10月29日(土)、お馴染みとなった、さいたま新都心駅およびさいたまスーパーアリーナを中心とした特設コースを舞台に開催された。

今年の大きなトピックは、4年目にして大会史上初めて本大会の4賞ジャージ獲得選手が全員参加したことだ。また、4賞ジャージ選手のほかにもマルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)やサイモン・ゲランス(オリカ・バイクエクスチェンジ)、ロメン・バルデ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)など、ロードレースファンならばお馴染みのトップ選手がさいたまの地に集まった。

対して日本選手もワールドプロツアーチームに所属する別府史之(トレック・セガフレード)、新城幸也(ランプレ・メリダ)をはじめ、国内チームの主力級も名を連ねて、ホスト国としてワールドツアーチームを迎えた。

メインレースの前には顔見世も兼ねた、タイムトライアルレースとポイントレースを今年も実施。タイムトライアルレースでは、日本の女性ライダーやパラサイクリストの面々も1周のタイムアタックに挑戦。ポイントレースでは、「狙っていた」とレース後話していた新城幸也(ランプレ・メリダ)が、海外勢をおさえて勝利を収めた。

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日本ナショナルチャンピオンジャージを着る与那嶺恵理(ポワトゥーシャラント・フュテュホスコープ・86)らもタイムトライアルに出場したDSC_7738
クリス・フルームもタイムトライアルに参加888A89773C0A8478
お手製の応援グッズを片手にレースを応援する方々も

 

目まぐるしく展開が変わるメインレース

メインのクリテリウムは、一周約3.1kmを20周する計62kmで競われた。スタートは15時。1周目から内間康平(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)を筆頭に日本人選手が逃げ集団を形成するが、まだニュートラル走行中とのことで、オーガナイザーから集団へ戻るよう指示が入る。選手側の勘違いではあったものの、スタート直後から見られた日本人選手の気合いの走りに会場が沸いた。

仕切り直しのスタート後には、サミュエル・デュムラン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)のアタックをきっかけにワールドツアーチームと日本チームの混成逃げ集団が形成される。メイン集団では、新城幸也が先頭でコントロールする姿が多くみられた。

最初の逃げ集団が捕まると、窪木一茂(NIPPO・ヴィーニファンティーニ)やマルセル・キッテルなどによる新たな逃げ集団が形成された。中には、ロメン・バルデの姿も。結局この逃げ集団は終盤まで先行し、マルセル・キッテルがポイント賞を、ロメン・バルデが山岳賞を獲得した。一方の逃げを追うメイン集団はチームスカイやティンコフがコントロール。この逃げ集団は残り6周を残したところで、キャッチされる。

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マルセル・キッテルやロメン・バルデが積極的に牽く逃げ集団
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序盤は新城幸也がメイン集団をペースコントールする時間帯が多かった
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さいたま新都心のビル群を駆ける
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何やら別府史之とクリス・フルームが言葉を交わす


 

終盤は真打ち達が活躍

逃げ集団が捕まったタイミングで、アレクシー・ヴュイエルモーズ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)がアタック。そこに新城幸也と別府史之の2名がジョインし、集団との差を広げる。

アシストに徹した新城が別府を放ち、残り3周回から別府の独走がはじまる。その力のこもった走りに会場の盛り上がりも最高潮に。前週のジャパンカップのクリテリウムも制している別府の走りに会場の誰もが日本人初の優勝を期待したが、残念ながらラスト2周を残して集団に吸収。

するとそこから飛び出したのはクリス・フルーム。ツール・ド・フランス第8ステージの再現のような下りアタックを披露した。フルームのアタックに合流したのはペーター・サガン(ティンコフ)、アダム・イェーツ(オリカ・エクスチェンジ)そして、日本ナショナルチャンピオンジャージを着る初山 翔(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)の4人。ツール・ド・フランスのマイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール、マイヨ・ブランに日本ナショナルチャンピオンという豪華な面子が一気に加速していく。
4人の先行は決定的なものとなり、最後はスプリント勝負に。早掛けした初山の後方から、落ち着いて自身の間合いでスプリントしたペーター・サガンが大会初勝利を収めた。

手に汗握る世界と日本のトップの競演に会場は大きく湧いた。

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終盤、新城幸也が別府史之のために前を牽く
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ラスト3周。別府史之渾身の走り
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豪華な4名が先行する
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スプリントを制し、ペーター・サガンが初優勝を飾った

 

ロードレースの魅力を伝える貴重なイベント

昨年までさいたまクリテリウムは毎年過去最高の観客動員数を更新していたが、今年は動員数に若干の陰りが見えたように感じた。沿道の人垣も昨年よりも少ない。雲が多く、肌寒く感じられた天候の影響もあるかもしれない。しかし、運営の違いからか、本場のツール・ド・フランスやジャパンカップに比べると選手とファンとの間に距離があるように思えたのも事実だ。

一方で、クリテリウムのレース終了後に一人でも多くの観客とハイタッチを交わそうとする、ペーター・サガンやマルセル・キッテル、新城幸也らのファンを大切にする姿が印象的であった。マルセル・キッテルとタッチを交わせた沿道の子どもたちの喜びようは、小さなロードレースファンがまた1人誕生した瞬間に立ち会ったような気分にさせられた。選手と観客の交流が深まっていけば、このイベントの人気はより確実なものとなっていくはずだ。

さいたまクリテリウムは世界のトップレーサーの走りを国内で、しかも間近で見ることができる貴重なイベント。「10月にどの選手が来日してくれるのか」そんなことを考えながら、ツール・ド・フランスを観戦できるのはなんとも贅沢。このイベントの発展は日本におけるロードレース文化の定着にもきっと繋がっているだろう。

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レース後、沿道の声援に応える選手たち
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間近で見るトッププロの走りに子どもたちは目を輝かせていた
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各賞を受賞した選手たち

 
~レース後記者会見より~

優勝したペーター・サガン
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「最初から早いペースのレースでしたが、逃げ集団が発生してからはメイン集団のペースが落ち着きました。レースがはじまる前から最後の3,4周で仕掛けようと思っており、そのタイミングでフルームら強力なメンバーで先行できたことが勝因だったと思います。あと私に対する沿道から声援がとても多く、母国スロバキアの国旗もたくさん掲げられていたことが力になりました。勝利できたことを日本のファンに感謝したいと思います」



クリテリウム2位の初山 翔
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「毎年このレースに参加させてもらっていますが、今年はナショナルチャンピオンジャージを着ての参加だったので、いつもとは違う覚悟でレースに挑みました。レースは例年ラスト数周で決まるので、今年は勝負が決まるタイミングを逃さないようにと集中していました。最後はすごいメンバーでの逃げだったので、確率的に勝利は厳しいのは分かっていたのですが、なかなかない機会でしたので、真向勝負でスプリントに挑みました。スプリントでサガン選手に先行しましたが、抜かれたときにはトップスピードの差を感じました。世界に放映されているレースで2位に入れたことはすごく自分にとって大きなことです。キャリアのなかでも大事なレースになりました」


 

ポイントレースで優勝した新城幸也とクリテリウム敢闘賞の別府史之
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新城幸也
「先週のジャパンカップではあまり良い走りができなかったので、今日はポイントレースをがんばろうと思っていました。結果、優勝できたことを嬉しく思っています。ギリギリの勝負でゴールしたときは勝てたのか分からなかったのですが、沿道のみなさんに祝福してもらい、あっ勝てたんだなって安心しました! クリテリウムでは序盤大きな逃げ集団ができてしまって、それを追いかけるので、だいぶ脚を使ってしまいました。後半は回復に努めて、最後は別府選手と一緒に飛び出したのですが、なかなかうまくいかなかったですね。2人で逃げた時に歓声がすごく大きくて、いつも以上に力が出ました。こうしてさいたまに再び帰ってこれたことを本当に嬉しく思います。本場のツール・ド・フランスが日本に来たような感じで、通るたびに多くの方が声援をくれて、走っていてとても気持ちが良かったです」

別府史之
「終盤逃げが捕まったタイミングでカウンターでアタックできればなと新城選手と2人で話していました。新城選手はポイントレースで脚を使っていたので、アシストをしてくれ、自分が前に飛び出したのですが、ちょっと出るタイミングが早かったですね。自分の脚質的にもスプリントに備えてもよかったのですが、うまくいかなかったです。吸収されてからも、マルセル・キッテル選手の後ろについてスプリントを狙っていましたが、残念ながら先行する4名には追いつかなかったですね。それでも自分たちの精一杯の走りを見せることができたかなと思います。自分の生まれ育った国にこんなにサイクリングファンが多いということを実感できたのはすごく嬉しかったです。みなさんの声援に応えたいという思いに我慢できなくで、少しアタックが早すぎました。そこが敗因ですかね(笑)。普段ワールドツアーを走っていますが、こうして帰ってくる場所があるというのは本当に幸せです」

~リザルト~

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クリテリウム
1位 ペーター・サガン(ティンコフ)
2位 初山 翔(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)
3位 クリス・フルーム(チームスカイ)
4位 アダム・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)
5位 マルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)

敢闘賞
別府史之(トレック・セガフレード)

ヤングライダー賞
1位 アダム・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)

ポイント賞
1位 マルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)

山岳賞
1位 ロメン・バルデ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)

チーム総合成績
1位 ティンコフ

日本チーム総合成績
1位 ブリヂストンアンカーサイクリングチーム

タイムトライアル
1位 ペトル・ヴァコッチ(エティックス・クイックステップ)
2位 窪木一茂(NIPPO・ヴィーニファンティーニ)          
3位 西薗良太(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)

ポイントレース
1位 新城幸也(ランプレ・メリダ)                
2位 クリスティアン・メイヤー(オリカ・バイクエクスチェンジ)
3位 ファビオ・サバティーニ(エティックス・クイックステップ) 

 

(写真/中林正二郎、編集部)

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