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2023年02月21日

あの日の夢~これからの夢  EF エデュケーション-NIPPO デヴェロップメントチーム監督 大門 宏さん(後編)「これからも目指すのは」

これからも目指すのは  引退後、チームのスタッフに関わる人へのメッセージ

大門さんが目指すのは、日本の自転車競技の競技力向上。そこに向かっていく過程で、スポーツやビジネスの分野で世界に挑戦し、道を切り開いていった先人たちに励まされるという。

「偏った意見として参考になるか解りませんが、世の中には育成にしてもなんにしても成功者ばかり評価して失敗例から目を背ける人が圧倒的に多い。
ワールドチームや3大ツールの雰囲気はたしかに華やかだが、そこの舞台に立てるチームに所属出来る可能性はサッカーのプロリーグに比べれば遥かに低いです。
それはヨーロッパ人にとっても同じ。毎年多くの選手が挑戦して、多くの選手が辞めて行くのが当たり前の世界。どんな素晴らしいトレーナーに関わっても実るのは氷山の一角って例は嫌になるほど見てきました。
冷静に日本人とヨーロッパ諸国の競技人口差を考えると3大ツールで優勝する日本人選手は100年経っても現れない可能性は非常に高いです。
近代ロードレースが始まってからすでに100年以上が経過しているので、あくまでも楽観的な数字ですが、まずは悲観的に捉えず、少しでもステップアップ街道を歩み続けることが大事だと自覚しています」。

「岡部哲也さん(アルペンスキーでW杯を転戦し、日本人初の表彰台獲得。3度の五輪出場)、片山敬済さん(二輪の世界GPで日本人初の世界チャンピオン)、ホンダF1、ブリヂストン、シマノだってそう。みんな最初はヨーロッパで嫌がらせを受けたり、言葉で言い表せられないほど理不尽なパッシングにさらされて苦労してきました」。

「ホンダF1の初代監督だった中村良夫さんが、本の中で『絶対ヨーロッパの下請けになるな、平等な立場で戦わないといけない』と、多くの困難と対峙した詳細が書かれていて、日本人として頑張らないといけないなと思いましたね」。

「日本から遠く離れた欧州で多くの失敗を繰り返しながらも投資、挑戦を続けた高度成長期の日本から学んだことは多いし、在る意味でそう言う時代に欧州に居合わせたのもラッキーだったと思います。近年の日本は何事も失敗を恐れて投資に慎重になってるうちに諸外国にどんどん追い越されてる雰囲気を強く感じています」。

「日本のロードレース業界ではメディアも選手も、昔からツール、ツールと語る人達が多いのは変わらないけれど、それは日本人選手の成長や勝負の次元から目を背けて主催者のA.S.Oやヨーロッパのロードレース界の「下請け」になっているだけじゃないかと思うことも多い。
もちろんメディアやメーカーからの視点で捉えれば、仕事や雇用の確保という意味では重要で『下請けの何処が悪い?』って揶揄される意見の方が圧倒的に多いと思いますが、今後世界で活躍する日本人が出てこない限り状況は変わることはないでしょう」。

このような悲観的な状況や数字を大門さんは坦々と話す。突きつけられた現実を直視しながらも、なぜ大門さんは歩みを止めないのか。

「亡くなった僕の恩師であるシマノの辻さんが本当にやりたかったことは『世界に向けて日本人を何とか強くしたい』というストレートな意志だったと思うんです。ツール・ド・フランスやワールドチームを目指すということではなく、先ずはその前に日本人が自転車競技で存在感を示しヨーロッパと対等の立場で争える様に成長すること。
そこが僕にとっては原点で永遠のテーマで在り続けるでしょうね。先輩から僕が引き継いだ様に、これからは次世代への引き継ぎの任務とも真剣に向き合って行きたいです」。

誰も挑戦しなければ可能性はゼロのまま。ゼロを1に近づける活動を、大門さんは粛々と続けている。


大門宏さん/Hiroshi Daimon

1962年生まれ、石川県出身。金沢高校、中京大学を経て、シマノレーシング、日本鋪道などで選手として活躍。スイスでもレース活動を行い、1991年世界選手権ポイントレース6位入賞、1992年バルセロナ五輪ポイントレース11位。1990年代半ばから日本鋪道・NIPPOの監督を務め、日本人選手の競技レベルや競技環境向上に尽力している。

写真:小野口健太、TEAM NIPPO

前編『サイクリスト あの日の夢~これからの夢  EF エデュケーション-NIPPO デヴェロップメントチーム 監督 大門 宏さん(前編)「出会いが生み出したストーリー」』はこちら

関連URL:https://teamnippo.jp/


サイクリスト あの日の夢~これからの夢 アーカイブ
・浅田顕さん(前編)(中編)(後編
・今中大介さん(前編)(後編

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