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2023年02月21日

あの日の夢~これからの夢  EF エデュケーション-NIPPO デヴェロップメントチーム監督 大門 宏さん(後編)「これからも目指すのは」

EFエデュケーションと提携 ワールドチームの運営から学ぶこと

2021年からはNIPPOはワールドチームのEFエデュケーションのスポンサーとなり、別府史之(2021年)、中根英登(21~22年)が在籍。さらにその傘下の育成チーム、EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチームを設立し、若手日本人の海外進出拠点のひとつとして精力的に活動を続けている。

「コロナ禍でEF本体の語学留学事業が世界規模で多大な損失を抱えていて、GMのジャナサン・ヴォータース氏もスポンサードの減額分の穴埋めに必死だった事情もあったと思います。
EFの前身のガーミン・シャープで選手だったロバート・ハンターも相談を受けていたようで、僕にジョナサン・ヴォーターズさんを紹介してくれたんです。
厳しい行動制限やロックダウンの最中、会うだけでも大変な労力を強いられる状況下でしたが2020年8月に直接会うことができました」

ツール・ド・フランスで南アフリカ人初のステージ優勝を挙げたことで知られるハンターさんは、1998年に日本鋪道に所属していて、群馬CSCで開催された東日本実業団でも優勝経験がある。
大門さんとは旧知の仲。現在はEFのディベロップメントチームの運営スタッフの1人だ。

「NIPPOは単純なスポンサーではなくスタッフを含めた日本人の育成という目的も掲げていて、選手、マッサージャー、メカニックを受け入れ雇用していただいた上で色々と学ばせていただいているんです。
彼らには、ほとんど広告媒体としての収益のメリットはNIPPOに求めてないように思える。そこはある意味でワールドチームの余裕かもしれません」

「EFより巨額を投じているワールドチームは多いけれど、スター選手の契約金には糸目はつけないが、現場監督、メカニック、マッサーなどのスタッフの給料を安くして節約しているチームも少なくない。
そういう意味でEFはスタッフの給与も平均以上を維持しています。ですから優秀なスタッフの定着率も高い。
おかげで今シーズンで3年目の坂本(拓也)マッサーも南野(求)メカも、彼らにとって欠かせないスタッフとして成長を遂げています。
ワールドチームの運営陣はスポンサーの担当者を含めて100名以上が内部情報を共有していて、Team NIPPOとしても彼らの運営を通して学ぶことばかりです」

最高峰の環境で若手育成 新たなトレンドの日本人選手が生き残る道は?

大門さんはディベロップメントチームの若手日本人選手の中でも、昨年から所属する留目夕陽(中央大学)は期待を寄せている1人だ。

「もちろん、ワールドチームとともに情報を共有しながら活動することは、育成面でも大きなメリットを感じています。
留目は素質的にも同じ年代のヨーロッパの選手と比べても決して劣っていないと、昨年からEFのコーチからも言われてます。昨年のツール・ド・ランカウィ(EFは、ワールドチームとディベロップメントチームのミックスチームで出場)でも、ティージェイ・ヴァンガーデレン監督が彼はいいねとお世辞抜きで報告してくれました。
本人もレースの中盤、総合20位以内に入ってUCIポイント獲りますと僕に表明していたけど、エースのヒュー・カーシーが総合優勝圏内で争っていた(最終結果は総合2位)ので、当然ですが、レース後半の2日間は仕事をしてポイント圏外に去りました。
でもそこでの評価が圧倒的に大きかった。
留目自身も『チームからの評価』の意味を多く学んだと思います。とは言え最終的な彼の総合順位も決して悪くなかったです。
これまでアンダーの2年目でこのレベルで走れる日本人選手は殆ど居ませんでしたから…新城幸也も比較対象として忘れられませんが、彼は3年目に急成長してプロの登竜門と言われる欧州の大会で度々表彰台に登りましたから僕にとって今でも彼は別格です」。

「留目のようなデータ的にも素質にも恵まれた選手が現れれば、近年のワールドチームの獲得選手の傾向を分析する限り、若手と真剣に向き合い接してくれる可能性が高い。もちろん素質だけでも駄目です。見守ってくれている一定の期間の成績も大事ですが、才能のある選手は凄くチャンスがあると思います。今シーズンのメンバーも優れた才能を持ったメンバーもいます」

「一方、我々がジロ・デ・イタリアを3度経験したワンランク下のプロチームカテゴリーは、若手に関係なく実績重視って雰囲気をすごく感じます。育てることに掛ける予算の余裕はないって言うか、ワールドチームに比べれば数分の1の限られた予算内で年齢に関係なく完成された実力者のコストパフォーマンスを最優先に獲得している雰囲気です。
もちろんイタリアでもベルギーでも、自国の選手ならフィジカルテストで優秀なら期待を込めて実績も少ない若手にもワールドチームと同じようにチャンスは与えますが、外人選手の雇用に関しては明らかに実績重視の傾向が強いです」

「もちろんそのような兆候は若い選手にとって良いことばかりではありません。最近の能力主義のデメリットは、真剣に向き合う期間が1〜2年と短い点。多くの予算も投じるワールドチームからの期待は大きく、並外れた成長の曲線を求められます。
期待に応えられなければ契約は更新されない。ヨーロッパのアンダー23のチームや、クラブチームも今後そういう傾向が増えることを懸念していますが、今や他のスポーツからも『若いうちに早く諦めさせる』雰囲気を強く感じています。『大器晩成』とか『遅咲き』って感覚はコーチの雰囲気から伝わって来ません。ですから例えジュニアの選手でも、運動センスの優れたフィジカルテストの値の高い選手を紹介すれば、成長の推移と真剣に向き合うのが近年の『天才発掘スタイル』なんです」。

「悪く言えば『期待したけれどそうでもなかった、はい次!』って見放されるヨーロッパの選手も増えているのも現状です。
僕自身はどちらかと言うと『遅咲き』だったので、最近の兆候と接してると本当に色々と考えさせられますね」。

「その他にディヴェロップメントチームのメリットとしては、昨シーズンのジャパンカップや留目選手のようにワールドチームとのミックスチームでレースに出る経験を重ねられるだけでなく、ワールドチームのディベロップメントチームだからこそ招待を得られるチャンスも少なくないことです」

2022年ツール・ド・北海道ではEFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム所属の門田祐輔(右2人目)が総合優勝。若手日本人選手も力をつけてきている(写真:Team NIPPO)

並行して、昨年はフランスの名門アマチュアチーム、VCラポム・マルセイユとパートナーシップを結び、関口拓真、杉野翔一、篠島瑠樹、藤村一磨の高校生(U19)4選手をそれぞれ3週間ずつ派遣した。

「その一番の理由や動機は、コロナ禍で JCFのジュニアの海外遠征が途絶えてしまったから。だったらTeam NIPPOで何かできないか、ということで検討しました。
これは日本のナショナルチームとしての遠征ではなく、滞在経験やチームメンバーとのコミュニケーションや滞在先のホームステイも経験させるため、単独で派遣しました」

「未成年の高校生を単独で派遣することは周りからの理解を得ることも難しく、準備にも時間が掛かりますが、おかげさまで選手や父兄、高校の指導者の方々からの評判は良好でした。今年も同じような派遣計画を予定していて只今準備中です」

「僕はこれまで日本の多くの先輩選手、監督やスタッフを含めた海外選手に支えられたからこそ、今があると言う気持ちが人一倍強い。そういう意味ではJCFのナショナルチームの活動にも凄く成長させてもらった。Team NIPPO での活動を通して、少しでも恩返ししたいと思っています」

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