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2018年08月20日

布袋田沙織のRide on the Earth[第6回]Single Track 6 挑戦記 その4

カナダ西部を中心に6日間に渡って開催される「SingleTrack6」の舞台は前半3日間がRossland & Redmountain、後半3日間がKaslo & Nelsonという地域が舞台となり、どのステージもローカルたちが手塩にかけて作り、整備しているトレイルでの熱戦が繰り広げられました。アウトドア天国で極上のトレイルを舞台に、レースのことだけに集中して楽しめるという環境は夢のようで、今振り返っても最幸な6日間でした。

 

Day4 & Day5

 

熱戦といえば、ライダー達の熱い走りもそうですが、気温が暑い! 最近は日本でも40度を記録しているところありますが、「SingleTrack6」の6日間も40度に迫る温度で、湿度は5%前後でした。4日目のスタート地点に移動すると、あたりはスモークがかかっていて何か焼いているような臭いが立ち込めていました。
レース中も喉がイガイガする感覚があり呼吸が苦しい……。周りのライダー達と話をすると、どうやら近隣で山火事が多発しているようです。乾燥しきった灼熱のなか、風で木が揺れると葉同士がすれあい自然発火してしまうそう。必死に走っている山の隣の山では山火事だなんて……スケールが大きくてクラクラしちゃう反面、自然相手の競技なんだなぁと改めて感じました。

スケールの大きさはフィールドだけにとどまらず、極上でスリリングなトレイルを堪能しに世界22カ国からMTBをこよなく愛するマウンテンバイカーが集まってくるという点にもスケールの大きさを感じられます。アメリカやカナダはもちろんヨーロッパ、南アフリカ、ロシアなど世界中からココに集まってイマを共有していると考えるとゾクゾクしちゃいます。
その中でもロシアから参戦していたカップルがとても印象的でした。普段はロードバイクに乗っているのであろうポジションで、ジープロードなどの淡々とした上りはとにかく速い! でも、テクニカルなところは苦手のようです。
Day4の1つ目の山を上がるトレイルはそれほどテクニカルではなく、脚力が試されるようなコースでした。上りの苦手な私が山頂に到着するとそこには例のロシアのカップルが。私は山頂前で少し休憩を挟んでいたので山頂では休憩を取らずに彼らをパスしようとすると「今までで一番の絶景だから見るべきだよ、写真撮るべきだよ」と休憩をオススメしてくれました。
でも、ここまでライバルのように意識されて、抜きつ抜かれつしていたので、初めて話しかけられたのが、休憩のオススメ……もしかして……策略か?(笑)こういうのが国民性なのかは分かりませんが何だかクスッとしてしまいました。
そんな私も補給食はオニギリなので、日本人は米好きだな〜とか、ニホンジンの英語は聞き取りづらいな〜とか思われていたかもしれませんね。色んな国のライダー達との交流は本当に楽しかったな~!

Day2で大きな落車をしてしまったことは前回書きましたが、Day4、Day5、Day6と徐々に調子が戻ってきました。Day4がしっかり踏めたぶん、Day5では疲労が感じられましたが、その日の夜に書かれた日記には「気力はハッキリしている。前の選手まで1分差!!!!!」と書かれています。ステージレースの面白さはその日その日でも順位が出ますが全日程のトータルのタイムで順位を競うところです。どんなに好調な走りをしてもメカトラが1度発生すれば大きく出遅れるし、僅差で争っている時はパンクも命取りです。Day5を走り終えた時点で、順位は女子ソロの部で9位ですが前の選手までたった1分差……されど1分……とレース展開自体にもワクワクしていました。

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コースはドライなのですが、木陰に入るとウェットです。重心や目線に注意をしながら……気付けばこの6日間で、バイクコントロールや下りのスキルが上がっていてビックリです(笑)。レース中ではあるものの、カナダのダイナミックなトレイルにただ我武者羅に挑んでいたことが肥やしになっていました!

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背中にハイドレーションを担いでいるので、補給はジェルとフルーツだけ頂きます。エイドステーションのスタッフも6日間変わらないので、コミュニケーションも深くなっていきます。間違いなくオアシスでした(笑)

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レース後は湖でアイシング!後ろにも壮大な山々が見えるはずなのですが、山火事の影響で辺り一面曇ったような不思議な感じでした

 

Day 6 Final

 

いよいよDay6最終日です。この日は街の中心がスタート地点になり舗装路、ジープロードを一気に駆け上がります。ここまで走りきったという自負と最終日だという高揚感と緊張感で、いつも以上の盛り上がるみせるスタート地点。その熱気のままスタートを切り、いつもより速いペースで進んでいきます。この日は「前の選手と1分差……」という意識が強く、とにかく前に進むことしか見えずに一所懸命だったこれまでの走りから一転、カナダに来て初めてペース配分を考えてレースに挑んでいる自分がいました。
ジープロードでは1分差で前を走っている選手が少し飛ばし気味に踏み込んでいきます。追いかけたい気持ちもありますが、ここはじっくり脚を溜めながら上ります。CP1についても水分も補給も十分あり、脚をためておいたお陰で休まず行けると判断しました。
前を走っている選手がしっかり補給をしている横をそのままパスしていきます。ここでパスをした事が追い風になり、焦りみたいなものが吹っ切れ、今まで以上に着実に、力強く進んでいけました。この後も前を行く選手とバチバチやる場面はあったものの、最後の下りを残すのみになった時には後ろのライバル選手と差を広げることに成功していました。最後の下りでは6日間必死に走って苦しかったこと、転倒して痛かったこと、見たこともない絶景、味わった事もない達成感が走馬灯のように頭と心の中を巡ってグッとくるものがありました。

私、幸せだ! 何気なく過ぎてしまいがちだけど、大切な感情が毛穴から溢れんばかりに広がりながら目の前の景色は滲んでいました。ウルウルしながら見えたゴールに飛び込んでいきます。「走りきったぁー!!!」最高な気持ちでゴールすると後からゴールした選手が「最高だったな!一緒にお祝いしよう!!」とハイドレーションバックからウイスキーの瓶を取り出して高々と掲げています。
え!?この人ウイスキー持ちながら走ったの!?(笑)

MTBを始めた時、絶景が見たいとか自然の中を走りたいとか、いろんな期待でMTBの世界へ飛び込みましたが、じつは私の中では、もう一つ理由がありました。
今までコツコツと努力することから避けて、楽な方へ楽な方へ逃げてきた、自分の嫌いな一面を変えたかったのです。
遅い速いはさておき、諦めない気持ちとそこに向かう準備があれば、自分の脚でやり切ることができるという気持ち良さと、嫌いな一面が薄れてもっと自分を愛せるという他では得がたいことがMTBを通して得られました。MTBに出会えて良かったな〜ST6に挑戦できて良かったな〜。
有ることが当たり前ではなく、有り難い事が得られたレース挑戦は「有難う」の気持ちでいっぱいになりました。

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「Almost there」と言いながら進みます。6日間を通して担ぎ上げるほどキツイ登りや淡々と続き心が折れそうになる登りで、何人ものライダーから「Almost there」と声をかけてもらってからずっと口ずさみながら走っていました!本当は「Almost there(あと山2つね笑)」みたいな感じだけども(笑)

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6日目は一番良く走れていたので出し切って心身ともに満たされてのゴールでした!この後、完走のメダルと記念Tシャツをもらって洗車に向かうのですが…ここで来年も出場しようと決めましたね(笑)

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本国Julianaに勤めているEmily!3日目にこのEmilyと話しながら調子に乗ってクラッシュしました…とほほ(笑)彼女は新婚旅行でST6に挑戦したそうです!彼はSANTACRUZEに勤めているイケメン、Adam。2人ともバイクコントロールが上手で、下りがとっても速い!聞いたら仕事を早く切り上げてみんなでライドに行ったり、ランチタイムにライドに行ったりするそうです。そんな文化いいなぁー!!

こうして連載させて頂きながら、その時に記していた日記を振り返り、書きながら感極まってホロリと涙を流すことが何度もありました。思い返せばあの6日間のことが鮮明に思い起こされます。それだけ心にしっかり刻まれたんでしょう。
2018年はまたロッキー山脈で開催されるST6へ……またあの挑戦に心が動き、7月20日からカナダへ向かいました。そう、今年もST6に挑戦してきました!

今年のレースの模様はまた別の機会に報告させてください!!!それではまた!

 

 

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