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2019年06月04日

ファンライドアーカイブス 読むトレーニング「住田道場」⑧

2007年12月号から約1年にわたって月刊ファンライドに連載された「住田道場」の第8回は「ヒルクライム」を熱く語る内容です。シマノレーシングに所属し、アトランタオリンピックロード日本代表にも選ばれた住田修氏によるこの連載は「モノクロ1ページ」という地味な企画ながら、トレーニングに励むサイクリストの心をがっちりつかんだ大人気連載になりました。10年以上の月日を経た今も、「強くなるために今何をすべきか」は不変のテーマだと気づかされます。
※掲載※月刊ファンライド2008年7月号 構成/浅野真則 写真/高田賢治 題字/住田修

今月の教訓
一、「ヒルクライムは精神力の勝負だ。短所改善より長所を伸ばせ。自分の得意分野を極めるべし」

其の八、
男は大見栄とやせ我慢
オリンピック代表に贈る言葉

さすが野寺、ぼくのシマノレーシングの直接の最後の後輩や!
日本でいちばん強いのは、6月1日の全日本選手権を制した野寺に間違いない。たった30㎝、半車輪差じゃない!その30㎝のための、4年間(前回の選手会はBSアンカー田代選手の圧倒的勝利)の努力を考えてみてほしい。

今回の勝利は、4年前の悔しさと、2年間日本チャンピオンから遠ざかってるシマノレーシングチームのプライドと責任をもって、野寺が勝ち取ったもんや!周囲のサポートのおかげ?いいや、全く関係ない。すべては野寺の男の意地とプライドがもたらした勝利や!
(注/2008年のロード日本選手権では当時シマノレーシングに所属していた野寺秀徳選手(現監督)が優勝を果たした)。

何でそんなにオリンピックにこだわるのかって?一般の人にとっては、ツール・ド・フランスよりオリンピックのほうが断然知名度が高いからや。オリンピックやったら、日本人の1億3,000万人中8,000万人は知ってるやろうけど、ツール・ド・フランスはせいぜい800万人ってところやろ?だから、オリンピックで日本の自転車選手は活躍することが、日本の自転車競技界に注目を集めるいつばんの近道やと思うんや。

この7月号が出るころには、北京オリンピックのロードレース代表2名が決まっているかと思う。今回のオリンピックの選考基準は総合的判断なんやろ?いろんな意見はあるけど、ぼくはあんまり好きじゃないな。ま、もちろん代表になったふたりには、日の丸の重みを背負って走ってきてほしいと思ってる。

ヒルクライムの極意は大見栄とやせ我慢

ところで、最近、やたらヒルクライムがはやってるけど、これ読んでくれてる人だけに、特別やで、と・く・べ・つに、ヒルクライムに絶対強くなる方法教えたろ。

ぼくはパワーがなかったし、ライバルに勝てるところが上りしかなかったかったから、しゃ~なしに上りでがんばっとった。で、気ぃついたら誰よりも上りが速くなっとった。だからぼくの言うことを聞いたら絶対強くなる!…かも?

雑誌なんかで、いろんな人がやれポジションや軽量パーツや言うとるけど、それも一理ある。けど、ハンドルの高さは絶対いじったらアカンで。今まで苦労していちばん速う走れるポジション探ってきたんが台無しになるやろ。住田流究極のヒルクライム攻略法は、下を向くことや。上りでは匂配のきつさ見ただけでしんどくなるけど、下見とったら地面と自分との距離はいつも同じ。スキル・シマノの今西コーチが、選手時代に集団からちぎれそうになるとよう泣きながら目をつぶってもがき苦しんどったけど、それと同じ原理や。ま、下を向くというのは冗談やから、走行中は絶対前見てな。

要は目の前の匂配に負けん精神力が大切なんや。そのためにも練習では必ず上りコースに行くべし。「ロードレースに乗ること=上りを走ること」やと身体に染み込ませるんや。とくに一人で練習せざるとをえない人は練習で上りを走ること。坂はみんなで上っても、一人で上っても結局キツイからな。男は大見栄とやせ我慢!先頭を走り続けるんや。誰かが並んできても先頭は譲るな!そしたら、自然とマイペースに持っていける。頭ん中で「♪負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じぬくこと」(by大事MANブラザーズバンド)ってエンドレスで流して耐えるんや。

あと、よう聞かれるのが「長所を伸ばすべきか、短所を克服すべきか?」ってこと。こんなことを聞いてくるヤツに限って、フォームもポジションも、肝心のペダリングもめちゃめちゃ、エエところがひとつもない。ホンマ、難しい質問せんといてお願いやから。

質問の答えやけど、長所を伸ばすべきや!そんなん聞いてくるヤツの長所は、短所を短所と思わんところやったりするけど…。

日本一コーナリングがうまいとか、めちゃカッコエエやん。けど下りでもコーナーでも、練習中は絶対無茶したらアカン。自転車乗りは「真摯」で「紳士」なさわやかスポーツやないと。

あと、どんなに苦しくても絶対に集団からちぎれんような「世界一の根性を持っている」っていうのもアリかもな。脚がいっぱいいっぱいの状況でも、無線で監督が怒鳴ろうととも、ペダルを踏むか、踏まんか決めるんは結局は選手自身の意思なんやから。

sumida
住田修/すみた・おさむ(写真・プロフィールは連載時のもの)
ロードレース2×10段と称される名人。立命館大学を卒業後シマノに入社。アトランタ五輪日本代表。現役時代、その圧倒的な存在感はロードレース界随一と言われ、実力だけでなく、ハートでも魅了する熱い男。現在は仕事中心ながら、走ることはやめない生涯サイクリスト。すね毛を剃らない選手としても有名だった。

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